うちの末っ子は1歳半で、まさにいたずら真っ盛り。気がつくとお姉ちゃんたちのペンで壁や家具にお絵描きしている。そして、あらゆる手段を使って危険な高いところへ登って勝ち誇った表情で手にした私のお財布から、クレジットカードや身分証明書などを抜き取って簡単には探せないところへ隠してしまう。かわいいことに、いたずらしているときに自覚があるのか、見つかった瞬間に持っているものを放り投げて知らんぷりをする。
彼はいたずらの名人であると同時に、味見の名人でもある。そのへんにコロがるあらゆるものの味を確かめる。おもちゃはもちろん、リモコン、携帯電話、鍵など、とにかく全部だ。小さくて飲み込んでしまうと、窒息しないかどうかいつも心配になる。幸いこれまでにそういった事件はないが、気をつけないといけないと思う。
そうはいいつつも、彼ら赤ちゃんが、なぜいろんなものを口に運ぶのか、そして口の中で味わうようにして転がしているのか、気になったので調べてみた。
赤ちゃんがものを口に入れる行為は、”mouthing behavior”と学術的に定義される。Mouthが日本語で「口」、behaviorが「行為」という意味なので極めて理解しやすい。日本語には当てはまるような既存の単語は、ないように思う。ここでは簡単にmouthingとする。Mouthingについての研究は、小児科学会雑誌の頂点であるPediatricsに2001年に登場した1。0歳から1歳半までが一番mouthingが観察される期間であることが分かった。ではそれがなぜなのかについては、まだ詳しくわかっていない。2004年の人類学者による研究によると、免疫学的な成熟を目指した目的のある行動ではないのかという推論がなされている2。つまり、幼いときにいろいろな抗原(つまりバイキンたち)を口に入れることで、将来感染症に罹患して重症化するリスクを回避しているのではないか、というものだ。だとしたら、赤ちゃんはとても賢く生存戦略を実行していると言える。
ちなみに、人間同士が接吻(口と口のキス)をする理由は、これから伴侶となる可能性がある生物がもつ微生物(おおくはウイルス)などを口から取り入れることによって、相手がもつ感染症に罹患するリスクを抑えることができるとする報告がある3。サイトメガロウイルスなどが、キスにより感染する病原体であることは、医療関係者にはよく知られた事実であることから考えて、この説はとても理にかなっている。
参考文献
- Juberg DR, Alfano K, Coughlin RJ, Thompson KM. An observational study of object mouthing behavior by young children. Pediatrics. 2001;107(1):135-142. doi:10.1542/peds.107.1.135
- Fessler DMT, Abrams ET. Infant mouthing behavior: The immunocalibration hypothesis. Med Hypotheses. 2004;63(6):925-932. doi:10.1016/j.mehy.2004.08.004
- Hendrie CA, Brewer G. Kissing as an evolutionary adaptation to protect against Human Cytomegalovirus-like teratogenesis. Med Hypotheses. 2010;74(2):222-224. doi:10.1016/j.mehy.2009.09.033