とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

またおむつにうんちをもらした!

またおむつにうんちをもらした! 

 

ポイント

  • トイレットトレーニング開始の目安は2,3歳だが発達に応じて変わる. 
  • 自分で排泄できるようになる発達の過程を知ることで,親の余計な焦りを減らす. 
  • トイレへの誘導,慣れ,トレーニングパンツの順に進める. 

 

息子がうんちをお漏らし,よく分からず怒る父

あと数か月で4歳になる長男の太陽くんは,外遊びが大好きなげんきな男の子だ.自分の足で支え進むタイプの自転車に乗って,素早く移動することが最近の得意技だ.彼はまだ,おむつを着けている.トレーニングタイプではない.そのせいか,おしっこもうんちも,まだトイレでできない.おしっこはまだしも,うんちをしたあとのおむつを替えるのは難儀だ.彼の2人の姉はみな2,3歳時点ですでに自分で排泄ができており,その経験が私に不足しているから,尚更その作業がいまだに腑に落ちていなかった.本人に理由を聞いても,「よくわからない」というばかり.「次はがんばってみる」と言うものの,失敗してばかり.4歳になってから排便がコントロールできていないと,いよいよ心配だとばかり考えてしまう.つい先日も,うんちをおもらししてしまったから,おむつを替えて欲しいと本人が申し出たので,「うんちが出そうになったらトイレに一緒に行こうと約束したばかりじゃないか」と言ってしまった.結局妻がおむつを替えてくれることになった.その日の夜は,なんだかもやもやしてうまく寝れなかった.小児科医なのに,排泄の発達についてまるで知らないことが悔しかった.もしかしたら自分の子どもにひどいことをしてしまっているのでは,という考えが頭の中をずっとぐるぐるとしていた. 

 

子どもの排泄の発達について調べる父

小児科を受診してくださる排泄の問題の多くは,夜尿症である.その診療の経験は少なからずあるのだが,排便のコントロールがうまくできないことを問題に受診された方の経験は,恥ずかしながらなかった.そのこともあり,これを機会に,自分の子どもにちゃんとした対応ができるように勉強しようと思ったので,調べてみた. 

 

子どもは尿意や便意を最初からは認識できない.それらは最初から備わっているものと思っていたので,恥ずかしながら私は驚いた.尿なら膀胱,便なら直腸がその排泄物の一時的な貯溜部であるが,そこに排泄物が溜まったことを脳へ伝えることでそれを知ることができる.さらに,延髄という首のあたりにある脊髄の部位により,尿や便の排泄を抑制するという一連の行動を行う.そういった一連の神経学的な発達が得られはじめるのが,1歳ごろでありその完成はおよそ2歳半まで気長に待たなければならない. 

 

反省する父

体の準備が整ったら,次は実際にトイレで排泄をする練習によりそれを身につける.1まずはトイレに備わっている道具に慣れる.補助便座を使用するご家庭が多いと思うが,そこへ座る時に,どう座ると,いきみやすいかを親子で確かめる.次に,時間を決めて座ることを習慣化する.朝食後に排泄する場合が多いが,落ち着いて排泄に取り組める夕方でも良い.目的は習慣化なので,出なくても,成功しなくても良い.ただトイレという空間に座ることに慣れることを助ける.それらと並行して,トレーニングパンツを試す.おむつの性能が向上した現代において,排泄後の不快感は覚えにくいものになってしまっている可能性がある.トレーニングパンツの材質は紙と布があるが,外出先か否かなどでうまく使い分ける.一般的に3歳後半までに多くのお子さんがトイレットトレーニングを終える.そうした事実を前に,必要以上に焦ってはいけない.私のように,不要な叱責を繰り返してしまい,子どもの自尊心を傷つけてしまってはならない.叱りつけてできるようになるものではないことを知ることがまず肝要だ.確立された方法に則って,子どもの発達を助け自立を促すことができるように多くの親御さんに役立てば幸いである. 

 

開き直る父

なお,そうした方法に従って進めていってもうまく排泄管理が困難である場合もある.そのときは,病気が隠れている場合があるので一緒に考えさせてもらえるよう小児科へご相談いただければ良い. 

 

知ったかぶる父

欧米諸国ではトイレットトレーニングの開始時期が軒並み遅くなっているそうだ1.それを危惧したスウェーデンの家庭医の医師を中心に調査され,生後1年以内のトイレットトレーニング開始が,胃腸や膀胱の機能に良い影響を与えることがわかった2.また,興味深いことに,ベトナムでは伝統的に乳児期からトイレットトレーニングを開始しており,9か月までにほとんどの児がトイレを使用し,2歳までにトイレットトレーニングを完了するそうだ3.東南アジアの子育てが世界をリードする,そんなことが分野によっては可能性がある. 

 

参考文献

1. Choby, B. A., George, S. & Jacinto, S. Toilet Training. Am Fam Physician 78, 1059–1064 (2008). 

2. Nilsson, T., Leijon, A., Sillén, U., Hellström, A. L. & Skogman, B. H. Bowel and bladder function in infant toilet training (BABITT) – protocol for a randomized, two-armed intervention study. BMC Pediatr 22, (2022). 

3. Duong, T. H., Jansson, U. B. & Hellström, A. L. Vietnamese mothers’ experiences with potty training procedure for children from birth to 2 years of age. J Pediatr Urol 9, 808–814 (2013). 

  

 

 

いつもこどもを叱ってしまいます.どうしたら良いでしょうか?

 

ポイント

  • ざっくりとこどもの行動を3つに分類する.
  • こどもの3つの行動に対し,それぞれ親の対応を決める.
  • トークンエコノミー,タイムタイマーをうまく使う.

 

親の小言と冷酒はあとで効くのか?

「学校の宿題はしたの!?」

「ピアノの練習は!?」

「明日の準備はしたの!?」

7歳で小学校2年生の長女は,妻や私からのこうした言葉がけに,わかりやすく仏頂面をします.「いまからやろうとしていたのに.」「いつも命令ばかりされて,つまらない!」とお顔に書いてあるようです.そうした態度に対して,私たち親はさらに腹を立ててしまいがちです.親としては,こどものためを思って言っているのに,どうしてわかってくれないのかしら,と.

私たちがこどものときには,そうした声がけをされたら,たぶん同じように反応したことでしょう.うるさいなあとか,そう言われるとやる気がなくなっちゃうよとか,思ったはずなんです.だけど,いざ親になってしまうと,そうした記憶はいとも簡単に忘れてしまいます.

ちなみに私自身のこどものときを振り返ると,そうした声掛けは受けた記憶がありません.父は仕事で朝早く家をでて夜遅く帰ってくるので平日にはほとんど会いませんでした.たまに休日に教科書の朗読を聞いてもらったくらいでしょうか.母は専業主婦で,公園や図書館に遊びに行った記憶ばかりで,良くも悪くも学校のことに干渉が少なかったので宿題などのことを言われた記憶がやはりありません.宿題を忘れていったことも,たくさんありました.お陰で,朝学校で気付いて優秀な女の子に写させてもらったりして誤魔化すなどといったスキルが身についたことを思い出します.いまだに,小学校の同級生には,忘れ物が多かったね,などとうっかり言われたりします.

親としては,こどもをなるべく叱らずに済ませたいものです.とはいえ,私のようにしょっちゅう忘れ物をするもの避けたい.では,私たちはどのように振る舞うのがよいのでしょうか?

 

親が正しくこどもに意見するには?

もともとは発達に特性のあるこどもをもつ養育者のために開発された,ペアレントレーニングという方法が,役に立つのだと思います.心理学や行動分析学の理論を応用し,実際の診療にも活かされるこの方法は,正しく使えばかなり強力です1.しかし,ペアレントレーニングの理論と実践を正しく身につけるためには,1か月にわたって毎週1時間くらい講義を受けなければならないことが多いです.時間がかかるのです.多くの親御さんは,そんな時間はありません.なので,ここで,簡単ながらエッセンスをご紹介できればと思います.

まずは,こどもの行動を3つに分類します.①つめは,良い行動です.これは増やしたい,そう思えるものです.②つめは,悪い行動です.こちらは減らしたいものです.③つめは,その悪い行動のうち,危険性が高い行動です.これは緊急性が高く,減らしたいどころか,無くさねばなりません.

次に,そのこどもの3つの行動それぞれに対する親の行動についてです.①つめの良い行動に対しては,褒めます.このときの褒め方がとても大切です.心から褒めるのです.しかも,こどもにとって,わかりやすく「あー,これは確実に褒められているな!」とわかるくらい大袈裟が良いです.目をみて,どこが良かったのかを伝え,場合によっては抱きしめるとよりよいです.この褒め方のバリエーションの一つに,トークンエコノミー token economyがあります2トークン token とは代替通貨,エコノミー economy とは経済のことです.代替通貨による経済圏を家庭につくること.つまり,お菓子やおもちゃ,それらと引き換えが可能なポイントと考えてもらえば良いでしょう.トークンエコノミーには,やりすぎるとアンダーマイニング効果という思わぬ副作用を生み出すこともあるので,多用に注意が必要です.習慣づけのため,あるいはモチベーション維持のためなど明確な目的をもって使うと良いでしょう.②つめの悪い行動に対しては,無視をします.つまり,その行動に対して親はアクションを起こしません.無視をするのは,そのこどもの行動に対してのみであることに注意が要ります.また,悪い行動が良い行動に切り替わったタイミングを逃さず,①つめの良い行動の時のように褒めることが,大切です.このときに,どうして良かったのか,悪い行動からの変化を伝えると良いです.最後に③つめの危険性が高い行動ですが,このときは制止します.つまり,その行動をやめるように伝えます.伝え方がとても大切です.普段より真剣な表情で,ゆっくりとした調子で,毅然とした態度で伝えます.この時に大きな声を出してしまったり,怒りの感情をぶつけてしまうと,怒られていることが全面に出てしまい,本来伝えたい危険性や緊急性が伝わらないことが多くあります.自分や誰かを傷つけてしまう可能性,物を壊してしまう可能性などについて,ゆっくりと落ち着いて毅然とした態度で伝えることを念頭におかねばなりません.②つめや③つめの行動への対応に対して,どうしても言うことを聞かないこともあるかもしれません.そのときはタイムタイマーが有効です.アナログタイマーの残り時間が赤く表示されており,それがだんだんと減っていく様が可視化されているものです.時間という見えない概念を,こどもでもわかりやすく見えるようにしてくれます.例えば,どうしても悪い行動をやめない場合,「あと3分間まつから,それまでにやめようね.」などと赤く表示されたタイムタイマーを見せながら説明します.行動の切り替えがすぐには難しい場合に有効です.時間が経つまでにやめられたら,褒めます.もしやめられなかったとしても,タイムタイマーによる切り替え時間を繰り返し設定し,切り替えに要する時間が短くなっていくようにすることが大切です.

 

こどもの成長が親を育ててくれる.

毎日の,良い行動や悪い行動などの記録も大切です.

1か月前に,良い行動はこれだけだったけど,だんだんと増えている!悪い行動はこんなに減っている!切り替えの時間がこんなに短くなった!

など,成長の記録は,こどもだけではなく,親の自信も深めてくれます.こども自身も1回目のこども人生ですが,親もそれは同じ.最初から上手にできなくて当たり前なのです.色々な失敗をして,よりよくなっていくことに生きていくよろこびがあります.それは他人と比べてどうこうではありません.他人のこどもと比べてどうこうではありません.ひとり一人に失敗があり成功がありその積み重ねとして成長があります.うまくいかないことが続いても,だいじょうぶ.もがいて苦しんで,それでも歩んだその道を親子で眺めるその日にはうまくいったこともそうでないこともかけがえのない宝ものになることでしょう.小児科医としてそうした宝ものの制作に携わらせていただけることは,畏れ多くも楽しいお仕事です.

 

 

参考文献

  1. Kearney, C. A., LaSota, M. T., Lemos-Miller, A. & Vecchio, J. Parent training in the treatment of school refusal behavior. Handbook of parent training: Helping parents prevent and solve problem behaviors (3rd ed.). 164–193 (2007).
  2. Coelho, L. F. et al. Use of Cognitive Behavioral Therapy and Token Economy to Alleviate Dysfunctional Behavior in Children with Attention-Deficit Hyperactivity Disorder. Front Psychiatry 6, 25 (2015).

 

家族旅行とチャイルドシート

ポイント

  • チャイルドシートを使用しなかった場合の死亡リスクは使用した場合の5倍を超える.
  • 6歳未満の自動車に乗るこどもはチャイルドシートの使用が義務.
  • 泣いてしまっても決して走行中に降ろさない.

 

この夏はとても暑い.せっかくの夏休みだけれど,ディズニーランドやユニバーサルスタジオに行こうにも,こう暑くては干からびてしまう.我が家は夏休みに,プール・キッザニア・恐竜博物館・夕方の遊園地・ナイトサファリなどでできるだけ涼しく楽しめるレジャーを楽しんだ.五日間で1400kmを超える距離を自家用車で移動したが,大人でもお尻が痛くなる距離をチャイルドシートで過ごすのは,末っ子の1歳にならないチビにとっては負担だったと思う.そもそも一度にまとまった距離を移動しないように旅程を組んだり,少し進んではサービスエリアで休憩したり,おもちゃやお菓子でご機嫌をとりながら旅を楽しんだ.

 

チャイルドシートは家族旅行に必須のアイテムだが,意外と取り付け方が難しい.だいたいのチャイルドシートには,そのどこかに取り付け方がイラスト付きで書いてあるのだが,そのイラストがよくわからないことも多い.シートベルトをあーだこーだしているうちに,「ええい,なぜこんなにめんどくさい!」となる.メーカーによっては取り付け方の動画をインターネットで見られるのはありがたい.https://www.combi.co.jp/soudan/after/manual_dvd/detail/joytrip-toritsuke-kakunin.html

たとえ上手に取り付けても,正しくチャイルドシートに座らせることはまた結構難しく,全体の半数は間違った方法で使用していることがわかっている1.肩が抜けていたり,厚着していていざという時に体が抜けたりする.

 

道路交通法により,6歳未満の子どもが自動車に乗車する場合には特別な場合を除きチャイルドシートが義務付けられている.日本の警察庁の調べでは,チャイルドシートを使用しないと交通事故による死亡リスクが5倍に増加することが知られている2.また,エアバッグによる傷害が起こりうる前席よりも後部座席の方が傷害の発生率が低い3.2歳にもなると自ら抜け出そうとするいたずらっ子もでてくるが,チャイルドシートつけないとこうなるぞと脅しに使える動画を警察がアップしてくれているのでそれを恐ろしい解説をつけてみせると良い.https://www.jtsa.or.jp/topics/T-182.html

 

 

乳児後半に物心がついてくると,チャイルドシートに載せようとするだけで嫌がる.また走行中にお昼寝などから起きて泣き始めることもある.そういうときには決してかわいそうだからと降ろしてはいけない.チャイルドシートをしていなかったときに事故が起こった場合には,かわいそうでは済まないことになる可能性がグッとあがってしまうからだ.そのようなときには,急いでいても途中で停車するか次のサービスエリアまで進もう.そして安全な環境で哺乳したり遊んだりして休憩しよう.予定に遅れようが構わない.命には変えられない.

 

夏休み明けには,溜まった仕事をやっつける.1週間ほど仕事をまったくしない時間をもつと,いろいろと新鮮に見える.日焼けした背中がかゆい.

 

参考文献

  1. Berg, M. D., Cook, L., Corneli, H. M., Vernon, D. D. & Dean, J. M. Effect of seating position and restraint use on injuries to children in motor vehicle crashes. Pediatrics 105, 831–835 (2000).
  2. 子供を守るチャイルドシート警察庁Webサイト. https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/childseat.html.
  3. Durbin, D. R., Chen, I., Smith, R., Elliott, M. R. & Winston, F. K. Effects of Seating Position and Appropriate Restraint Use on the Risk of Injury to Children in Motor Vehicle Crashes. Pediatrics 115, e305–e309 (2005).

 

父親も子育てを通じてホルモン分泌が変化する

ポイント

  1. 父親としての変化を知ることは、成長の第一歩
  2. 女性は乳幼児の育児でホルモン分泌が変化する
  3. 男性も出産を期にホルモン分泌が変化し、男性ホルモンは減り女性ホルモンが増える

 

ライフワークバランス?難しすぎん?

 28歳で第一子、30歳で第二子、32歳で第三子、34歳で第四子を授かりました。父親という役割を担うようになって、今年で7年目です。月日が経つのが早い。父親としての成長は子どものそれと比べると遅いですが、毎日ステップアップしていたいと思います。ここ数年は、父親としての役割を果たしつつ、仕事での役割を果たすことに困難さを感じています。父親にも仕事にもやることの上限がないので、それにチャレンジすることはいつも全力を必要とします。医師としても、科学者としても、論文として経験や新しい事実を書き記して残すことは至上命題なのですが、ここ数年はそれが思うようにできていないことがフラストレーションの根源にあります。早朝の時間を使って、上手に計画を立てることが最近の課題です。 

 

育児で女性のホルモンは変化する

 一方で、父親になってからの考え方の変化についても、最近はよく思いを巡らせています。子どもが生まれる前のときは、自分の命をかけて何かに狂ったように取り組むことが、しんどいですが至福の時でもありました。子どもが生まれてからは、そのように狂ったように何かに取り組むのが、難しいと感じることが多くなりました。なぜだろうと、いろいろ調べているうちに、出産や子育てを経験するうちに、男性も父親となる過程で脳内のホルモンに大きな変化が起きていることがわかりました。そういった変化は、女性だけだろうと思っていたので、大変意外でした。ちなみに、2022年のフィンランドでの研究では、117名の女性(初産婦54名、未婚女性63名)に乳幼児模型を用いた疑似育児をしてもらったところ、初産婦も未婚女性も同じくらい女性ホルモンの放出を誘発することがわかっています2 

 

父親は育児で女性ホルモンが増える

 特に、初めて父親になる男性ではその変化はとても大きいです。2000年にカナダで行われた研究では、初めて父親になる23人の男性の唾液中のホルモンを測定して、父親になる前後で大きな変化があることを明らかにしました1。14人の父親でない男性たちと比較して、出産にともない攻撃性や競争性を司る男性ホルモンであるテストステロンの値が減少し、母性を司る女性ホルモンであるエストラジオールは上昇することがわかりました。 

 

たそがれ清兵衛からみるテストステロン

 1983年に藤沢周平が著し、2002年に山田洋次が監督した「たそがれ清兵衛」という映画があります。2人の娘を残して妻に先立たれた清兵衛は、黄昏時になるとそそくさと職場を後にして 

家事や炊事をすることから、心ない同僚から「たそがれ清兵衛」と呼ばれていました。かつて剣豪として名を轟かせていた清兵衛は、専横する家老の上意討ちを打診されるも、こう答えました。 

「真剣の勝負は、人の命を奪うという事は、獣のような猛々しさと、命を平然と捨てうる冷酷さがなくてはならねぇ。それが、今のわたしにはまったくありますめぇ。」 

父親にして、母親の役割をも担う必要があった清兵衛は、かつてのようなテストステロンはもやは分泌されておらず、むしろ親密さを司るオキシトシンや女性ホルモンが優位となっていることを、本能的に悟ってのセリフだったと思います。 

ちなみに、清兵衛は苦しい家計を助けるため報酬を取り付けると、その上意討ちを決行するため修行を開始します。 

 我々も仕事のときには一時的にテストステロンの分泌を刺激し、家庭にもどればそれを通常レベルまで戻す、そんな工夫ができるといいなあと思います。それぞれのスイッチとなるような行為、例えば仕事と家庭のそれぞれのモードに入るためのルーティンを持つこともその工夫となりそうです。音楽、コーヒー、なんでも好きなものでよいだろうと思います。 

 

 さあ、今日も当直の冬の夜はまだまだ長いです。後輩が失敗した静脈路確保をばっちり決めて気分が良いまま仮眠します。小児科病棟と救急外来が平和であることを祈ります。おやすみなさい。 

 

 

参考文献 

  1. Berg SJ, Wynne-Edwards KE. Changes in testosterone, cortisol, and estradiol levels in men becoming fathers. Mayo Clin Proc. 2001;76(6):582-592. doi:10.4065/76.6.582 
  1. Sinisalo H, Bakermans-Kranenburg MJ, Peltola MJ. Hormonal and behavioral responses to an infant simulator in women with and without children. Dev Psychobiol. 2022 Nov;64(7):e22321. doi: 10.1002/dev.22321. PMID: 36282748; PMCID: PMC9545496. 

イヤイヤ期にも思春期にも理由があるんじゃのう(脳)

ポイント

 

我が家のちびくんはイヤイヤ期

 4人のわが子を産んでくれた妻に感謝している。4人の子どもたちが日々成長していく姿は、どんなに難しい課題をやり遂げることよりもすさまじい喜びを私に与えてくれる。特に、唯一の男の子で2歳の第3子ちびくんの最近の動向に目が離せない。彼はいま口を開けば「いやだ!」と言う。いわゆるイヤイヤ期といわれる過程なのだろう。

ぱぱ「お風呂に入ろう!」

ちび「いやだ!」

ぱぱ「じゃあ、今日はお風呂に入らないでおこう!」

ちび「いやだ!」

ぱぱ「(お!?どっちも嫌だと!?ならばこの選択肢はどうだ!)お菓子食べる?」

ちび「いやだ!(しばらく考えて、、、)食べる!」

ぱぱ「(どうやら全く話を聞いてないわけでもねえな、こりゃあ)」

 という具合で、さっさとやれば済むイベントもひと悶着のせいで時間がかかる。それも、彼の脳でいま起こっていることを想像してあげると、より面白さが増す。つまり、いま彼の頭では、激しい変化が起きている最中なのだ。

 

どうやって動物は脳を高度に進化させたのか?

 動物は進化の過程で、脳を発達させてきた。正確には、発達した脳を持つ個体が淘汰を経て生き残ってきた。このように進化における脳の発達とは、つまりあらゆる可能性に備えて準備することができる能力を獲得する過程そのものである。あらゆる可能性に備えて準備するというのは、なるべく多くの不測の事態を想定した脳の神経回路を準備しておいて、のちに必要な神経回路を残していくという方法のことを言う。神経回路とは、情報の伝達を行う神経細胞の一つ一つが互いに連絡するために、細胞体から伸ばした突起を握手するようにしている構造のことを言い、それをシナプスと呼ぶ。

 

ヒトの脳は25歳くらいまでずっと変化している

 ヒトではだいたい4歳くらいまでに、そのシナプスの総数が人生でピークを迎える。それから25歳くらいまで、ずーっとそのシナプスの数が減り続ける1。減ることは悪いことではなくて、置かれた環境に適した、あるいはよく使うシナプスを残して、余計なものを減らすことでその作業効率をより洗練させていく。(作業机にある道具でも、めったに使わない道具よりも、よく使う道具をすぐ使えるように配置するのと同じだ。)そうしたシナプスの数を減らして最適化する過程のことを、シナプスの刈り込みという。シナプスの刈り込みは、脳の後ろのほうから起こり、最終的に前のほうで終わる2。その分かりやすい動画をアメリカの国立科学サイトが動画にしてくれている。赤いとシナプスの数が多く、青いと少ない。年齢を経るごとに全体が青くなる。

 これをみると、20歳で飲酒しても良いというのはいかがなものかと思うようになる。25歳くらいまでじわじわ発達が進んでいるのに、そこにアルコールをぶち込むことでどんな良いあるいは悪い影響があるのだろうか。と、もうすぐ35歳になるおじさんは、(自分は20歳からお酒を飲んでいるのに)若者に25歳まで禁酒を進めようと若年性老害と化してしまうのであった。ああ、無念。

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刈り込むのはタラちゃんの後ろ頭ではなくシナプス

 シナプスの刈り込みと、幼児のいやいや期や青年の反抗期は、密接に関係している。いやいや期では、シナプスの数がピークを迎えて制御が難しくなる。反抗期では、合理的な思考を司る脳の前のほう(前頭前野)でのシナプス刈り込みが急激に起こり、これまた制御が難しくなる。いずれの時期も共通しているのは、シナプスの総数が劇的に変化することだ。

 そうした、脳におけるものすごいイベントを目の当たりにできている。ときどきその現象が放つ強烈な魅力に頭がくらくらする。4人の子どもがそれぞれ反抗期を迎えるときには、もっとくらくらするだろう。そのときは、おろおろしながら、子どもの話をきいてやれていたい。また、妻と相談しながら、脳科学や心理学の教科書にも目を向けてみたい。

 

 そういえば、最近わたしのYouTubeのおすすめ動画に、”シナぷしゅ”(テレビ東京)が表示されるようになった。民法初の赤ちゃん向け番組だそうな。確かにこれ系の番組をNHK以外でみたことなかったなあ。正直あんまりおもしろくなかったので、一回みてやめた。が、おじさんの意見よりも、赤ちゃんのみなさんのご意見を伺いたいところである。

www.youtube.com

 

 参考文献

1.Penzes P, Cahill ME, Jones KA, VanLeeuwen JE, Woolfrey KM. Dendritic spine pathology in neuropsychiatric disorders. Nat Neurosci. 2011 Mar;14(3):285-93. doi: 10.1038/nn.2741. PMID: 21346746; PMCID: PMC3530413.

2.Gogtay N, Giedd JN, Lusk L, Hayashi KM, Greenstein D, Vaituzis AC, Nugent TF 3rd, Herman DH, Clasen LS, Toga AW, Rapoport JL, Thompson PM. Dynamic mapping of human cortical development during childhood through early adulthood. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 May 25;101(21):8174-9. doi: 10.1073/pnas.0402680101. Epub 2004 May 17. PMID: 15148381; PMCID: PMC419576.

自画像と補助線と気迫

自宅から200km離れた国立医療センター小児科での当直業務を終え、帰りの新幹線の中で秋晴れの空を眺めながら書いている。少し眠たいけれど、電子書籍を読みながら、読書の秋にふさわしい気付きを得たので書き留めておく。

 

小学校の卒業式で、尊敬する担任の先生が僕たち卒業生七人に授けてくれた詩を思い出す。瀬戸内海に浮かぶ島で育った私の小学生の時の同級生は少ない。しかし、いや、だからなのか、思い出は濃い。

高村光太郎の、道程の一節を黒板に書いて、教えてくれた。

この遠い道程のため。その時に教えてくれた一節には、後に知る『気迫』というワードはなかった。

 

私は医学部には学士編入で入学して今に至る。その過程で、同じ学士編入したさまざまなバックグラウンドをもつ仲間と出会えたのは、人生の宝物だ。その仲間の一人で、今年度入学生のなかに、アメリカで疫学の大学を卒業した後に医学の道を志した女性がいて、脳神経解剖学の授業で講義の補佐していて小児科に興味があるということで話をした。彼女に小児科やキャリアに関する情報を伝えると、そのお返しのような形で、ハーバートビジネススクールのクリステンセン教授の著書を紹介してもらった。その著書を電子書籍で購入して、新幹線の中で読んでいた。

https://www.amazon.co.jp/s?k=%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3+%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95&adgrpid=56060362031&gclid=Cj0KCQjwqc6aBhC4ARIsAN06NmOT55Js65xiGXCoBEgNVBrC0LtvPCoHUxkVROA0Uz5zFzfQXanVX00aAoa_EALw_wcB&hvadid=618470773883&hvdev=m&hvlocphy=1009637&hvnetw=g&hvqmt=e&hvrand=5369657063928564113&hvtargid=kwd-334922279023&hydadcr=183_1015061773&linkCode=plm&tag=waciatdnd-22&ref=pd_sl_2jn3ljensk_e

 

 

彼の文章は、一生懸命に生きようとする者に、確かな生きる指針を浮き彫りにしてくれる。その中で、私の頭にガーンと衝撃を与えてくれたのは、『気迫』についての文だ。

自分がなりたい理想像を自画像として描くこと、その正しさを検証すること、近づくために取り組むこと、それらを価値あるものにするために必要なのは気迫だ。

という趣旨の文章がある。人類で最高の知性を持つ偉大な知の巨人が、自らの人生を振り返って、この結論を導き出したことに、僕は少し安心した。運とか、才能とか、環境とか、自分ではどうしようもないことにその必要性を見出されなかったことは、残された者あるいはこれから生まれる者にとっては幸せなことだと思う。

つまり、気迫次第で、自分の人生が実りあるものになるという、一面的ではあるかもしれないがひとりの偉大な者の一生から導き出された結論は我々を勇気付けるには十分だろう。

 

自画像とはなんだろう。それを考える時に、私は補助線を想起する。中学校の数学の問題で、ある一本の補助線が、問題の解決を導く場合がある。そのような問題を経験したときの、心地よさは今でも覚えている。自画像とは、その補助線だろうと思う。つまり、補助線は、実際には存在しなかったものを作り出すことにより問題の簡潔化や解決に成功するという意味で、自分の理想像としての自画像と共通点を持つ。

 

そうこうしてると、新幹線が目的の駅に着いてしまった。ここらで書くのをやめて、我慢していたトイレにでも行っておく。

 

アロマザリング allomathering とは、親以外による子のお世話

ポイント 

第二次世界大戦後、都市に人口が集中してきた。 

・それにともない、周囲に血縁者がいない核家族が増加した。 

・母親(一番の養育者)が育児を一人で担う過酷な状況に置かれていることが多くなっている。 

・ヒトは進化の過程で、所属する集団の複数のメンバーで子育てがなされてきた。 これをアロマザリングという。

虐待や発達の心配を抱える子どもの増加は、家族の在り方自体を見直すきっかけとなる。 

 

我が家は妻の実家の近くに住んでいる 

私は地方政令指定都市の医学部を卒業後、その大学小児科の医局に所属しております。そのままその地方に住み、いまは主に博士課程大学院生として学びながら、ときどき小児科医として働き食い扶持を稼ぐという、その日暮らしの生活をしています。6年制薬学部を卒業後すぐに医学部へ編入してさらに5年間学んだあと、すぐに大学院に入学していま5年目なので、6+5+5で16年も続けて大学に通い続けていることになります。人生のほぼ半分を大学で過ごしています。いずれも国立大学に所属してきたので、税金で学び研究させていただいているので、世の中に還元できるよう、がんばります。話がずれました。私の妻の実家は、いま我々が住む地方都市と同じ都市圏を構成する中核都市にあります。車で30分ほどの距離です。ありがたいことに、ほぼ毎日といっていいほど、義母が我々の家に来てくれ、実家のほうにお邪魔しております。妻の実家が近いということは、私が当初想像していたよりもかなり助かっております。後輩小児科医やスタッフが恋の相談をしてきた際には、かなり高い確率で、「妻となる人のご実家に近いほうが、子育ての時に良いですよ。」と、情けないアドバイスを行っております。だってほんとうにそうなのだから、仕方がない。 

 

都市への人口集中と、核家族の増加 

日本では、第二次世界大戦後に急速に経済成長してきました。これは都市を中心に発展した産業を、地方からの人材の流れにより維持そしてさらに発展させてきた影響が強くあります。私はもともと瀬戸内海に浮かぶ島の出身ですが、高度経済成長期にはその島から多くの優秀な人材が都市へ出向き、社会の発展に寄与したのだと感じさせられるエピソードが多くあります。大手建設会社の鹿島建設の、元重役の方とたまたまお知り合いになり、お食事をさせていただくことがありました。その方は、私が島の出身であることをしると、その島の出身で鹿島建設でよい働きをした方々を紹介してくださいました。これは、都市への人口集中を象徴するエピソードとして記憶されています。以後、地方に生まれた若者は、よりよい就職先を選択するため都市へと移り住みました。そうした若者同士が見ず知らずの土地で結ばれ、その結果、周囲に血縁者のいない核家族が増加していきました。 

www8.cao.go.jp

 

 

母(養育者)の負担 

ワンオペ育児という言葉が多く聞かれるようになりました。もともとワンオペとは、ワンオペレーションの略で、ひとりですべてこなさなければならない状況のことを指します。様々な業務に対して使われる言葉ですが、特に育児と結び付けられて生まれたワンオペ育児という言葉には、他とは異なる重みがあります。ここに、内閣府のワンオペ育児に関連するサイトと資料があります。いずれも、夫の家事・育児負担が少ないことへの言及が主体となっております。「ちょっとまってくれよ!俺たち子育て世代の夫たちも、けっこうがんばっているんだぜ!」と、私は子育て世代の夫を代表して宣言したいしかし、母親が抱える負担が大きいことは、事実として受け止めなければなりません。実際に、第4子の産後、妻がいない家で子供3人と生活することがこんなに大変だったとは、思いもよりませんでした。 

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/kokufuku/k_4/pdf/s1.pdf

 

朝から腹減ったで起こされ、朝ご飯を準備したかと思ったらすぐ昼飯。午後からは長女と次女の習い事の送迎。そうこうしていると晩飯。宿題もやっとかないと。夜は絵本を読まないと。あ、明日の飯の材料ねえじゃん。洗濯物たまってんな。おっと、この仕事の締め切りが明日!?もう無理じゃん。 

って日々を、妻は自分の仕事をしながらやってくれていたのだと、短期間ではあれども 

自分がやってみて、初めて気づきました。やっぱ実際にやってみないと、分からないなあと思います。これからの働き方改革により、どちらのパートナーにとっても、家事・育児にかけられる時間が増えることを期待しております 

 

 

ヒトはもともといろいろなメンバーで助け合ってきた 

アロマザリングという言葉をご存じでしょうか。早稲田大学の根ケ山教授の記事が、とても分かりやすかったです。アロマザリング allomathering は、allo=他の + mothering=母のような行動、養育行動 という2つの言葉が合わさった単語です。つまり、母ではない人による養育行動のことを指します。 

www.waseda.jp

 

 

人類はもともと、集団で生活を営み、複数のメンバーによって協力して子育てを行ってきました。そうした社会では、血縁者や非血縁者で構成されるメンバーにより養育行動を行います。このようにアロマザリングが機能する社会では養育者である母親同士の負担が少なく、子どもが多様な経験ができます。アロマザリングの欠点としては、核家族の最大の利点である個人のプライバシーが制限されるところでしょうか。プライバシーが最大化された核家族に育った我々の世代は、アニメのサザエさん一家のように3世代にわたって同居する、昭和な家族の在り方にはもう戻れないかもしれません。しかし、現在のような孤立した核家族を背景とする育児に関する問題点に触れるたびに、その在り方について考えさせられます。 

 

www.nhk.or.jp

 

https://www.okinawa-nurs.ac.jp/wp-content/uploads/2020/10/22-6-higa-owan-taba.pdf

 

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初出掲載: 2020年 2月 15日