とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

大学で子どもの脳について研究している、小児科医です。2児の父でもあります。日々子どもから学んだこと、研究から学んだことを多くの方に知っていただき、より良い子育てにつながればこれ以上の幸せはありません。

子どもが死について考えるとき


Miguel - Remember Me (Dúo) (From "Coco"/Official Lyric Video) ft. Natalia Lafourcade

 

イント

・親が子どもに死について話すことは抵抗がある

・自分なりの死生観を子どもと話し合うことが大切

・そもそも死生観に答えなどなく、文化や時代で大きく異なる

 

日は夕食後に家族で『リメンバー・ミー』というディズニー・ピクサー映画を見ました。キャッチコピーは「それは、時を超えて−家族をつなぐ、奇跡の歌」。ネタバレなきよう紹介すると、死者の国でいろいろ起きて家族の絆が描き出される、そんな映画です。ディズニー映画の中でも、おそらくずっと心に残る作品の一つとなりました。娘2人、とくに4歳の姉にとっては特に強い影響をもたらしました。

 

は少しさかのぼり今年の初め、妻の実家で飼っていたイヌのモモが亡くなりました。イヌとしては大変長生きで、17歳と天寿を全うしての老衰だったようです。娘2人は生まれてからずっと、このおばあちゃんイヌと遊んでもらって楽しい思い出がいっぱいです。モモちゃんがご飯を食べているときに邪魔をしても、多くの他のイヌがそうするようには怒ったりしませんでした。ただ、困ったような表情で私や妻の顔を見上げていました。

「モモちゃんが御飯食べるのを邪魔しては、だめだよ。困っているからね。」

「そうなの、わかった!」

娘たちはモモちゃんが食べ終わるのを待って遊んでいました。そんなモモちゃんが亡くなったという知らせを受けて、妻と娘2人は車で向かいました。ここからは妻に聞いた話ですが、4歳の姉はモモちゃんが亡くなったことを理解したようで、ずっと泣いていたそうです。また、火葬して骨になったモモちゃんにもきちんと会ってサヨナラをしたそうです。

 

んな経験があったからでしょう、映画を見終わって家族でお風呂に入っているときのことです。

「ママも死んで骨になる?」

と4歳の姉が、今にも泣き出しそうな表情で声を震わせ、私と妻に聞いてきました。

「そうだね、いつかママも死んで骨になってしまうけど、あなたより先には死なないようにするから安心しなさい。」

そう言われた娘は不満そうな顔で、死に関するいろいろな質問をしていました。それらに対しては、私や妻はわかりやすく本当のことを伝えました。この小さな子どもに両親が死んだ後のことまで伝えるのは、可愛そうな気もしましたが、事実は隠さずにわかりやすく伝えました。おそらく、これからも死について考える機会はたくさんあるでしょうが、親として子どもと死について話し合う最初の経験でした。

 

どもに死について話したり教えたりすることは、簡単ではありません。しかし、大切なことでもあります。どのようにして生まれたか、どのようにして生きるか、どのようにして死ぬか、いずれも生命がなす神秘的ともいえる自然現象です。その終点である死について考えることは、よりよい生を考えるにあたり必要不可欠です。なぜなら、死を受け入れること、そして次に死から逆算した生命活動を企てられるからです。

 

について子どもといろいろと話しをするのは大切ですが、嫌がる場合は無理にお葬式に連れて行ったり、納棺に立ち会わせるのはやめておきましょう。葬式症候群という一種のPTSD心理的外傷、いわゆるトラウマ)になってしまい、過度のストレスが子どもにかかってしまう可能性があるため、注意が必要です1。そういうときは、まだそういう話をする時期ではないのでしょうから、急がず子どもの準備が整うのを待つとよいでしょう。一般的に5歳以下では、まだ死について理解できていないことが多いです。

 

1965年以前には、アメリカでは白血病の子どもに病名は告げられず、亡くなる前に違う病棟へ移されていました。しかし、1965年に発表された論文をきっかけに、ほぼすべての子どもに病名や予後が告知されるようになりました2。倫理観に反するとの批判も多かったようですが、実際は良い影響のほうが多かったようです。自分の病気のことを教えてくれず親も医療者に不満をいだき、検査や治療に協力的ではなかった子どもも、すべてを知ることにより明るく協力的になりました。よりよい命を生きるためには、どれだけ生きられるか、どんな治療が必要か、残りの時間をどのように生きるのが自分にとって最善か。それらを考えること自体も酷であると思ってしまいがちですが、それは優しさではなく親としてあるいは医療者として、伝えることが怖いだけなのかもしれません。事実を伝えられずに生きるよりも、限りある時間でより良い生命を生きられる。事実、命に関わる疾患をもつ子どもの認知機能はそうでない子どもよりも高いことが分かっています3

 

なみに、僕は小中高と手乗り白文鳥をずっと飼っていました。名前はピーさん。可愛くてずっと一緒に遊んでいたピーさんが、ある11月の冬の寒い朝に巣の中で冷たくなっていたことを覚えています。それから2,3日は、駅で電車を待っているときも、高校の授業中も、悲しくてポロポロ涙がでました。いまでもYouTube文鳥の動画を見ては、かわいい仕草に心和ませています。

 

  1. Schowalter, J. E. How do children and funerals mix? J. Pediatr. 89, 139–45 (1976).
  2. VERNICK, J. & KARON, M. Who’s Afraid of Death On a Leukemia Ward? Arch. Pediatr. Adolesc. Med. 109, 393 (1965).
  3. Poltorak, D. Y. & Glazer, J. P. The Development of Children’s Understanding of Death: Cognitive and Psychodynamic Considerations. Child Adolesc. Psychiatr. Clin. N. Am. 15, 567–573 (2006).

 

【書籍紹介】発達障害は障害ではない。人類本来のヴァリエーションである。

 

ニューロダイバーシティと発達障害: 『天才はなぜ生まれるか』再考

 

イント

発達障害は障害ではない。

・人類本来のヴァリエーションである。

・多様性の中でマイノリティであるがために、多数派から障害ととらえられているにすぎない。

 

都大学霊長類研究所教授の正高信男先生の著書を紹介いたします。彼の主張にはいつも科学的根拠があり、それらは私達人間が本来持つ多様性への寛容さや優しさがあふれています。人工知能によって導き出される最善解がもてはやされるこの現代において、他者への思いやりや優しさがもつ普遍的な真理と、多様性を寛容するに至る社会的ハード面としての我々の教養が求められる場面がこれからどんどんと増えることでしょう。そうした教養をもたらしてくれる良書がここにあります。彼とは会ったこともなければ話したこともないため、利益相反はもちろんありませんが、良書を広く世に広め、世の中をより良くするためには多くの方に知ってもらいたい思いです。

 

達障害を含めた人類の多様性がもたらしてくれた功績は本書に書かれているエピソードにとどまりませんが、その一端を垣間見ることで多くを知ることが出来ます。人が好きなことをすることでそれが誰かの役に立つ、世の中を良くするために必要なことであるような社会は、理想かもしれません。しかし、その理想を掲げることで受ける批評は、その理想を掲げないことで人々にもたらす絶望より幾らか有益であるでしょう。

 

が研修医のころに自閉症の女児を入院で担当する機会がありました。精神科の教授と面談した際に交わした会話が忘れられません。

私「彼女はこだわりが強く一般社会に適応することは残念ながら非常に困難であると言わざるを得ません。しかし、もし彼女が珈琲屋をすることとなったときに、彼女が淹れてくれる珈琲はきっと美味しいと思います。」

教授「そうですね。彼女の特性がうまく活かせるような就労、生活につなげられるようにしたいですね。それにしても、その珈琲の例えは面白いですね。」

褒めてもらえて嬉しかったのと、彼女にとってどのような生き方が良いのか思案していた迷いを専門家にぶつけて議論できたことの高揚感がその時の情景とともに思い出されます。

 

ューロダイバーシティとは、neurodiversityと綴ります。neuro=神経、diversity=多様性、それぞれを組み合わせた単語であり、発達障害を含めた神経学的多様性のことを指します。もちろん、他人に危害を加えてしまったり、迷惑をかけてしまう場合は多様性といった寛容の枠からははみ出してしまうため、是正を求められます。その境界あたりにある注意欠陥・多動性障害などの特性については小児科医あるいは小児神経科医の出番です。

 

ニューロダイバーシティと発達障害: 『天才はなぜ生まれるか』再考

ニューロダイバーシティと発達障害: 『天才はなぜ生まれるか』再考

  • 作者:正高 信男
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

根気強く目標を達成するには?

f:id:Tanaka_Hajime:20200320184115j:plain

Aerobic exercise helps maintain a healthy brain. Photograph: Getty Images/iStockphoto

イント

・根気強く目標を達成するには不安のコントロールが必要

・不安を司る腹側海馬の抑制はセロトニンによる

・運動による物理的刺激により脳神経細胞セロトニン受容体が活性化される

 

武両道は僕の好きな言葉の一つです。学問もスポーツもどちらも熱心に取り組むことで、人生をより豊かにしようという考えです。ただ、言葉で説明するのは簡単ですが、実際に取り組んでみると思うように行かないこと(あるいは時期)が必ずたくさんあって、それはそれは大変です。窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通ず。つまり、中国の古典「易経」では、どうにも行き詰まったら、何か変えたらうまくいくんじゃね?と言っております。ありがたいお言葉ですが、どう変えたら良いかを聞いているのですよ!と僕は思ってしまいます。学問にしても、スポーツにしても、あるいは仕事にしても、根気強く取り組んで目標を達成するにはどのような工夫が必要なのでしょうか?

 

えは、適度に運動しましょう、です。スポーツの目標達成のためにはもちろん、他の分野においても根気強く目標に向かって取り組むためには、運動による脳への刺激が必要です。運動することによりもたらされる健康への効果はすでに御存知の通りでしょう。筋力がついたり、脂肪が減ったり。しかし、運動がもたらす根気への効果はあまり知られていません。2019年にNature Scienceで発表された論文によると、マウスがレバーを制限時間内に“根気強く”一定回数押せれば成功し餌がもらえる実験系において、“根気強く”できたマウスにおいては腹側海馬(不安を司る領域)での活動が抑制されていたことがわかりました1。また、その腹側海馬の抑制には神経伝達物質のひとつであるセロトニン(5-HT)がセロトニン受容体3Aに結合する必要があります。他の報告では、ジョギングをすると脳内セロトニン受容体が物理的刺激によって活性化されることがわかっています2

ぬ前に人が最も後悔することは、挑戦して失敗したことではなく、挑戦しなかったことです3。やりたいことをやらないで終わる人生が嫌なら、エイヤっとやる気をだして根気強く挑戦し続けましょう。心が折れそうになるまえに、適度な運動をルーティンに取り入れて、腹側海馬での不安をセロトニンの作用を利用して抑制してあげましょう。すると、気づけば文武両道になってるかも!

 

タクシゴトですが。書かなきゃいけない論文、やらなきゃいけない博士課程の研究、日々の小児科医としての仕事、夫として父としての家族の中での役割、どれもいまメチャクチャ中途半端で自分に腹が立つ日々を送っております。それはここ数ヶ月ランニングも筋トレもしてないからだと、この記事を書いていて気付きました。よっしゃ、この記事アップしたら走りに行こう!運動を日常に取り入れて、根気を鍛えよう!

 

  1. Yoshida, K., Drew, M. R., Mimura, M. & Tanaka, K. F. Serotonin-mediated inhibition of ventral hippocampus is required for sustained goal-directed behavior. Nat. Neurosci. (2019). doi:10.1038/s41593-019-0376-5
  2. Ryu, Y. et al. Mechanical Regulation Underlies Effects of Exercise on Serotonin-Induced Signaling in the Prefrontal Cortex Neurons. iScience(2020). doi:10.1016/j.isci.2020.100874
  3. Davidai, S. & Gilovich, T. The ideal road not taken: The self-discrepancies involved in people’s most enduring regrets. Emotion (2018). doi:10.1037/emo0000326

 

【書籍紹介】絶対に賢い子になる子育てバイブル

 

100万人が信頼した脳科学者の 絶対に賢い子になる子育てバイブル

 

100万人が信頼した脳科学者の 絶対に賢い子になる子育てバイブル

 

ワシントン大学ジョン・メディナ教授が著した本書。

妻が書店で見つけてくれて早速読んでみると、子どもの育ちを脳神経科学者の視点で書いていてくれてとても勉強になりました。

以前紹介したロザリンド・フランクリン大学エリオット・リサ教授の著書も良書でしたが、この本も良いです。

 

赤ちゃんの脳と心で何が起こっているの?

赤ちゃんの脳と心で何が起こっているの?

 

 

引用文献が豊富である点では後者が優れておりますが、どちらもパパとママにとっては渡りに船でしょう。

 

一方でこうした成書に細かく目を通すことが難しいのも、子育てする親には共通したお悩みです。私も、私の妻もそうであるように。そうした方々にも、このような成書に負けない子どもの健やかな発達を促す正しく役立つ内容を、この場を借りてよりわかりやすくお伝えできるよう努めます。

 

この場で取り上げるテーマは日常診療や日々の生活からがほとんどですが、なにかご希望などありましたら、ブログのコメントやお問い合わせ先までどうぞ、ご遠慮なく申し付けください。

赤ちゃんを迎える前に知っておきたい、葉酸のこと

f:id:Tanaka_Hajime:20200223110911j:plain

 

イント

  1. 受胎する頃と妊娠初期は葉酸を積極的に摂取することが大切
  2. 葉酸はビタミンB群の仲間であり胎児の脊椎部分の発生に必須
  3. 妊娠初期に葉酸が不足すると二分脊椎症などの神経管閉鎖障害が起こるが、先天性異常症のなかでは唯一予防可能な疾患

 

「おしっこは出来るだけ学校では行かないようにしています。いじめられるから。」

まだニキビの目立つ頬、整髪料で少し逆立った髪の毛。普通の14歳の男の子です。彼は、さまざまな発達障害のあるお子さんが通う、養育学校に通う中学2年生。学校健診で、彼はこう言っていました。彼のお尻には、しっぽの部分に今はあまり目立たない手術痕があります。

 

療従事者、特に子どもに関わる方であればここまでの説明と題名で、ある疾患が思い浮かびます。そう、二分脊椎症です。この男の子は生まれながら二分脊椎症であり、生後まもなく手術を受けました。その後も、二分脊椎症の症状の一つである神経因性膀胱・遺尿(自分でおしっこできない)があるため自分で導尿(定期的に尿道に管を入れておしっこをだして膀胱を空にする)しなければなりません。男の子が学校のトイレでおしっこするときは、たいてい小便器でするものですが、この男の子はわざわざ保健室に行かなければなりません。それで友達にいじめられるものですから、学校に来ている数時間はずっとおしっこしないのです。

 

酸はビタミンB9であり、細胞分裂やタンパク質合成に深く関与しています。ビタミンという言葉は今やコンビニやドラッグストアでよく見かける名詞ですが、その定義を言葉でしっかり説明しなさいと言われたら、ちょっとむずかしいですよね。サクッと説明すると、ビタミンとは、生きていく上で必須であり、体内で十分な量を合成できないため体外から摂取しなければならないもののこと、です。

 

枢神経系、つまり脳とか脊髄とかが発生するのは妊娠7週ころまでです。妊娠が分かってから葉酸摂取を開始するのではなく、妊娠の少なくとも1ヶ月以上前から葉酸摂取を開始して、妊娠12週ごろまで続けることが厚生労働省からも推奨されています1。目安は1日に400μgです。その他の多くのビタミンでも同じですが、欠乏症も過剰症もいけません。適量が良く、1mg/日を越えないことが重要です。普段の食生活でも葉酸は摂取できますが、200μg/日前後であることが多いようです。18歳以上の男女では240μg/日が推奨摂取量とされています。葉酸は熱に弱く、水に溶けてしまう性質があるため、摂取の方法は気をつけなければなりません。野菜に換算すると350g/日だそうですが、毎日毎日サラダを大量に食べるのも億劫でしょう。したがって、妊娠を考えている女性や妊娠初期の方は、サプリメントを上手に使うと良いです。

日本の外に目を向けると、世界81カ国で穀類への葉酸添加政策が行われ、二分脊椎症などの神経管閉鎖障害の発生率が多いところで半分も減りました2

 

ちゃんを迎える前にできる最初のご両親の仕事、それは葉酸の摂取です。二分脊椎症は防げます。冒頭の男の子の二分脊椎症を、僕は治すことが出来ません。おしっこを管を使わずに出せるようにしてあげることも出来ません。自分の無力さをいまも痛感するから、なんとかこの思いを昇華させるために、せめてこのブログを読んでくださった方々の身の回りで正しい知恵が広まって、健康な命を大切に楽しめる子どもを増やせたら、これ以上の幸せはありません。ああ、なんとも悲しくてむなしく、でも希望に満ちた気持ちだろう。

 

なみに、葉酸は1940年代にほうれん草から分離抽出された水溶性ビタミンです3。論文を読むと、4トンのほうれん草から抽出したそうです。そう、見間違いではありません、4トンです。研究者が4トンのほうれん草を前に、どのような気持ちだったか。想像するだけで面白い、これだから過去の論文をほじくり返すのは面白い。ポパイの作者はこれを知っているだろうか気になる。

 

  1. Hall, J. & Solehdin, F. Folic acid for the prevention of congenital anomalies. European Journal of Pediatrics 157, 445–450 (1998).
  2. Food Fortification Initiative (FFI). Fortifying Flour with Folic Acid to Prevent Neural Tube Defects. 23–26 (2018). Available at: www.cdc.gov/ncbddd/folicacid.
  3. Mitchell, H. K., Snell, E. E. & Williams, R. J. The concentration of “folic acid”. J. Am. Chem. Soc. 63, 2284 (1941).

赤ちゃん体操、スイミングはいつから始められますか?

f:id:Tanaka_Hajime:20200221132032j:plain

Nirvana - Nevermind Album Cover

イント

  1. 赤ちゃん体操は、少し首がしっかりしてくる生後2ヶ月から発達に応じて行う
  2. スイミングは定頸がしっかりした6ヶ月からが望ましく、低体温症や水中毒、感染症に注意が必要

https://www.youtube.com/watch?time_continue=24&v=ict2cmgTCOI&feature=emb_title

 

つだったか、ニュースでこの動画を見て肝を冷やしました。生後4ヶ月とされる自身の子どもを振り回す父の姿に、恐怖さえ感じました。赤ちゃんは私達が思う非常に繊細なので、どう扱うかはとても大切な問題です。

 

の行き過ぎた例を除いて、上記の質問は日常診療でよくあります。赤ちゃんの発達に応じた運動刺激は、正常発達において欠かせません。以前もジョリージャンパーについて触れたこともありますが、赤ちゃんの運動について考えるときに必ず押さえる必要がある条件としては首がすわっているかどうかです。

 

ちゃん体操は、いろいろなバリエーションがありますが、最大の目的は親子のスキンシップです。決して筋力を強くするためでも、特殊な運動を身につけるためではありません。よって、赤ちゃんが泣き出す、嫌がる場合は中止するほうが良いでしょう。

さらに、スイミングは首がすわっていてかつ体幹の筋力がある程度ついていることが望ましいため生後6ヶ月ごろが良いでしょう。米国小児科学会によって出された勧告をまとめると1、①本格的なスイミングは4歳をこえてから、②乳幼児の水中プログラムは溺水のリスクを減らさない、③乳幼児が水中にいるときは片時も目を離さず手の届く範囲を越えてはならない、④低体温症や水中毒、感染症に注意、⑤小児科医は乳幼児の溺水を減らすために啓蒙しましょう、とされています。

 

幼児に適切な水温は32℃前後であり、一般的な温水プールよりやや高めです。それより低い水温の場合は赤ちゃんには冷たいです。入水時間は30分以内が望ましいでしょう。

水中毒はあまり聞き慣れないかもしれないですが、要するに水をがぶがぶのんでしまって起こる血中のナトリウム濃度が希釈されることで起こる嘔吐や意識障害などの症状です。乳幼児の場合は顔を水につけないほうが良いでしょう。

スイミングに関連した感染症ですが、アトピー体質の方は子どもか大人かによらず、風邪の原因となるライノウイルス感染により喘息のリスクが上昇することが知られています2。その他、胃腸炎などの罹患リスクもあります3。スイミングで得られる生活習慣病の予防効果や体力強化などの良い効果も当然あるため4、そうした危険性を理解した上でスイミングを楽しむことが重要でしょう。

 

冒頭の写真はNirvanaのCDカバーです。高校生のころに出会ったきり聞いておらず、音楽性はあまり好きではありませんが、この記事を書いていてなぜか彼の音楽が思い出されました。もしかすると好きなのかも。

 

  1. Prevention, C. on S. M. and F. and C. on I. and P. Swimming Programs for Infants and Toddlers. Pediatrics 105, 868–870 (2000).
  2. Valeriani, F., Protano, C., Vitali, M. & Romano Spica, V. Swimming attendance during childhood and development of asthma: Meta-analysis. Pediatr. Int. 59, 614–621 (2017).
  3. Sanborn, M. & Takaro, T. Recreational water-related illness: office management and prevention. Can. Fam. Physician 59, 491–5 (2013).
  4. Tanaka, H. Swimming Exercise. Sport. Med. 39, 377–387 (2009).

子どもを褒めるときに、子どもの脳ではどんなことが起こっているか

イント

  1. 虐待で正常発達から逸脱し成人以降の脳機能、行動レベルの精神疾患リスクが増大
  2. 一方で、親の愛情や温かみを反映した子育てが脳の発達を促すことがわかってきた
  3. 褒められた子ほど後部島皮質という領域での活動性が高く、自分の感情や相手の感情を理解する能力が高い

 

められると嬉しいし、怒られると嫌。小さな子どもでも、大きな大人でも変わらぬ事実です。以前、NICU助産師さんのお話で、愛情深い母親に育てられた早産あるいは低出生体重児は、そうでない子に比べて発達障害などなくすくすく大きくなる気がする、というお話をしました。それを脳科学の知見から支持する研究がありましたので、記しておくこととします。

 

990年代の終わり頃から、健常小児を対象とする脳の形態研究が急速に発達してきました。MRI(magnetic resonance imaging、核磁気共鳴画像)の開発が進んだことが大きく関与しています。MRIは、生体を構成する水素原子に対して高いエネルギーで磁場をかけ、原子そのものが持つ磁性を揃えそれを開放するときに発散されるエネルギーを捉え可視化することで得られる信号を可視化する画像技術です。要するに、磁石で体の中をみるということです。このMRIを使った研究が数多く行われてきましたが、2016年に東北大学から発表された論文はとても興味深いです1。著者らは5歳から18歳の225名の健常小児を対象にして、親がどれだけ日頃から褒めているか、あるいは褒める意識を持っているかを調べました。また、それが子どもの脳の構造にどのような影響を及ぼしているかを調べました。結果は、褒められた子どもほど、島皮質の後ろ側が発達していることがわかりました。島皮質とは、自分の体の感覚を司る領域でもあり、相手の感情を汲み取る領域でもあります2。自分の体の感覚とは、脈が早いとか遅いとか、呼吸が早いとか遅いとかです。それらの生理状態は感情に大きく左右されるため、自身の感情とのつながりはもちろんのこと、相手の感情を理解する上でも働くことがわかっています3。著者らは、褒めることが子どもの発達に対して必ずポジティブな影響を与えるのかどうかは、現時点で明確ではないため今後の研究が待たれるとしていますが、少なくとも褒めることで子どもの後部島皮質が大きくなり活動性が増えることは事実であり、子どもの能力を開花させる方法の一つである可能性があると言えます。

 

度から子どもを褒めるときには、「あ、いま島皮質がバシバシ活動してるな!」と、見えない脳の活動に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

島皮質って、どこやねん!とお思いになられた方、すばらしい探究心です。ここですよ、ここ。脳みその、ちいさなおててをはぐった内側のところです。

 

f:id:Tanaka_Hajime:20200215115541p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/島皮質

 

  1. Matsudaira, I. et al. Parental Praise Correlates with Posterior Insular Cortex Gray Matter Volume in Children and Adolescents. PLoS One 11, e0154220 (2016).
  2. 永井道明, 岸浩一郎 & 加藤敏. 大脳皮質島葉の構造と諸機能--最近の研究の展望. Adv. Res. Nerv. Syst. 46, 157–174 (2002).
  3. Terasawa, Y., Moriguchi, Y., Tochizawa, S. & Umeda, S. Interoceptive sensitivity predicts sensitivity to the emotions of others. Cogn. Emot.28, 1435–1448 (2014).

 

個人情報の収集について

利用者は匿名のままで、当サイトを自由に閲覧することが可能です。

利用者の個人情報を利用者の許可なく、当サイトから第三者へ開示・共有することはありませんのでご安心ください

当サイトに掲載している広告について

当サイトでは、第三者配信の広告サービスを利用しています。

このような広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた商品やサービスの広告を表示するため、当サイトや他サイトへのアクセスに関する情報 『Cookie』(氏名、住所、メール アドレス、電話番号は含まれません) を使用することがあります。

Cookie(クッキー)を無効にする設定は、お使いのブラウザによって違います。

お使いのブラウザをご確認の上、設定してください。

アクセス解析について

当ブログはGoogleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティクス」を利用しています。

Googleアナリティクスは、トラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。

このデータは匿名で収集されています。

個人を特定するものではありません。

Cookieを無効にすることで収集を拒否することができます。

お使いのブラウザの設定をご確認ください。

免責事項

利用者は、当サイトを閲覧し、その内容を参照したことによって何かしらの損害を被った場合でも、当サイト管理者は責任を負いません。

当サイトからリンクやバナーなどによって他のサイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報、サービスなどについて一切の責任を負いません。

当サイト以外のウェブサイトの内容および、個人情報の保護に関しても、当サイト管理者は責任を負いません。

お問い合わせ

お問い合わせは、下記フォームに、お名前、メールアドレス、件名、お問い合わせ内容を記載の上で送信ください。

初出掲載: 2020年 2月 15日