とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

【紹介】「教えて!ドクター」プロジェクト

画像

 

ほんとうに信頼できる情報源?

 ググればなんでも出てくる時代。お母さんがたが参考にしているそのサイト、本当に信頼できますか?

 子育てをテーマにした、助産師さんYouTuberによる動画がたまたまおすすめ動画に表示されていたので、見てみました。さすが助産師さん、育児のご経験もあるようでご自身のエピソードを交えながら役立つ情報を発信しておられる印象を受けました。しかし、概ね正しい情報の中に、正しくない情報も混ざっており、医療従事者の情報発信の難しさを感じました。自分のことならまだしも、大切なお子さんのことについては、可能な限り正しい情報をわかり易く伝えたもらえる、かつほんとうに信頼できる情報源を見極めたいものです。

 

求められるのは、現場に即した正しい情報

 小児科医が監修する、こどもの病気をおうちケアについて、とにかくわかり易く、しかも小児科医療の現場に即した正しい情報が盛り込まれているサイトがあります。それが今回ご紹介する「教えて!ドクター」プロジェクトサイトです。本ブログ最初に掲載したイラスト付きの対応方法は、シリーズ化されておりどれも秀逸です。

oshiete-dr.net

 

 これまでもいくつかのサイトをご紹介させていただきましたが、ここまでまとまっていて信頼できる子育ての色々にまつわる情報源のあるものは初めてだと感じました。職業柄、冒頭のようにいろいろな情報源のケチをつける癖があるのですが笑、このサイトには情報の伝え方など勉強になることばかりです。

健診で体重が増えすぎと言われました。大丈夫でしょうか?

ポイント

・生後3か月までは1日あたり25〜30gが期待される体重増加量の目安で、以降徐々に増加ペースが減少することが多い。

・乳幼児の体重増加は一点だけで評価できないため、目安を上回っていても一喜一憂せず成長曲線を記録することが大切。

・2歳を超えても肥満状態が続く場合は、大人になって肥満になる可能性が高くなるため注意が必要。

 

 赤ちゃんの1日あたり60gの体重増加、多いか少ないか

 1か月健診で小児科医が、あなたの大切な赤ちゃんが1日あたり60gの体重増加していることを教えてくれました。さて、あなたはどうリアクションしますか?

 

A. 「それって多いの?少ないの?」
B.「ええー!1日あたり60gも増えていますか!?}
C.「太り過ぎでしょうか?」
D.「おっぱいやミルクを減らしたほうがいいですか?」
E.「あら、ちょっと多めだけどまあこのままおっぱい飲ませましょうかしら。」

 

 結論からはEのお母さんの反応が正しいです。ここでEを選択できた方は以下の文は読まずとも結構。このまま良い育児を楽しんでください。A~Dを選択したお母さんは、ぜひこのまま読み進めてもらい、一緒に勉強していきましょう。

 第一子のお母さんならAもありえますね。体重増加の目安なんて知らなくて最初は当然。Bのお母さんはよくお勉強されているか、すでに育児をご経験された方でしょう。Cの質問に対しては、成長曲線がどう変化しているかが大切です。母子手帳の正常範囲内の帯に入っている場合は大抵の場合問題ありません。Dのお母さん、ぜひおっぱいやミルクは減らさずに。寝返り、はいはい、つかまり立ちなどの発達が進むといずれ体重増加のスピードは落ちてきます。

 

体重増加の目安

期待される体重増加の目安は、以下のとおりです1

・生後0〜3カ月:25〜30g/日

・生後3〜6カ月:15〜20g/日

・生後6〜12カ月:10〜15g/日

 

 生後2〜3週間、6週間、3カ月に、食欲と成長のスパートがあるとされております。せっかくスパートしているのに、栄養を減らしたりストップするのは大変もったいない。母乳だとなおさら、ミルクには含まれていない成長を促す因子が含まれているので出るだけあげてください。

 

3歳で肥満だと大人になっても肥満

 2018年にドイツのライプツィヒ大学で行われた研究によりますと、3歳時点で肥満の子どもは90%の確率で大人になってからも肥満であったそうです2。肥満であることがもたらす生活習慣病のリスクは大きい。なので、3歳前後で肥満傾向にある場合は生活習慣や食習慣を見直したほうが良いです。逆にいうと、乳幼児健診で体重増加が著しいからとイタズラに心配するのはただの心労になりかねない、むしろ要らぬ世話であることがほとんどです。

 

  1. Chantry CJ, Dewey KG, Peerson JM, Wagner EA, Nommsen-Rivers LA. In-hospital formula use increases early breastfeeding cessation among first-time mothers intending to exclusively breastfeed. J Pediatr. 2014;164(6):1339-45.e5. doi:10.1016/j.jpeds.2013.12.035
  2. Geserick M, Vogel M, Gausche R, et al. Acceleration of BMI in Early Childhood and Risk of Sustained Obesity. N Engl J Med. 2018;379(14):1303-1312. doi:10.1056/nejmoa1803527

頑張れとは言わないし言われたくない。やりたいことやろうぜ、それだけ。

日々の診療のなかで、こどもやご家族から教えてもらうは多い。
1週間前にはげんきだった男の子が、たった数日で感染症によって生と死の間をさまよい、寝たきりになってしまう現実と向き合う。小児科医としてだけでなく、親としての視点がその事実をより立体的に捉えさせてくれる。いや、捉えさせてられてしまう。小さいころに自分がそのような運命であった可能性もあることをふと考える。そしてその自分はといえば、やらねばならぬことを先延ばしすることがここ数年多くなり、貴重な症例をまとめて医学に貢献することで苦しんだこどものために一矢報いることが出来ていなかったことが気がかりでしようがなかった。そんな中で、生と死の間をさまよいながら、口にも体にもいろんな管を入れられて、意識はないにも関わらず、なお、母親の「ここにママおるからね!」の声に反応して血圧と脈拍がわずかに上昇させ、必死に生きようとする彼と向き合うなかで、感じたことを記録しておかねば、記録することを忘れたことさえ忘れてしまうのが嫌なので記そうと思う。
 
 
 
 
 
だらだらとした一日
それに引き続く絶望
容赦なく押し寄せるタスクと時間
おぼれるように、楽な選択を取り続ける
この先にはなにもないだろうという確信
変えたい、変わらなきゃならない
だけど、どうすればいいのか分からない
結局、誰も助けてはくれない
親でさえ何が最善なのかなんて教えてくれないし、わかってもいない
誰もが自分のことで精一杯
今日も一日どうにかなったし、生きていられた
このままでも良いかもしれないという甘え
自分を許せないなんて辛すぎるから、神に許しを請う前に自分で許す
 
ふと、自分が辿ってきた道を振りかえる
思い出すのは、
汗水たらして、ヘドがでそうになりながら夢を追いかけた日々
嫌なやつに頭を下げてでもくぐり抜けた日々
てめえなんかすぐにでも超えてやると誓った日々
迷いながら仲間と明日の手がかりを探った日々
無力さに打ちひしがれた日々
 
自分を支えるのは、過去の自分だけだ。
本を読んだり、映画をみたり、偉い人の話をきいたりして、強くなった気になっても、結局は自分が経験したことが全てだ。自分の経験に敵うはずがない。
今日の自分が、その翌日の自分を支えてくれる。
どんなに小さなことでも良い。1ミリでも前に進もうとした、その事実こそが必要なのだ。
最初は一人でも良い。続けていけば、どうせ後から仲間は見つかる。
自信をもって取り組もう。おいしいコーヒーは、その淹れ方がベストだと信じる人が淹れるからうまい。自分の仕事も同じ。
今この瞬間にフォーカスしよう。そのために、近い将来の予定を立てよう。1週間後の予定を心配していて、今に集中などできない。
体を鍛えよう。健全な体に健全な魂が宿る。ここでいう健全な体とはボディビルダーのような体のことではない。手足がなくても、大脳の半分がなくても、持ち得る機能を十分に発揮できるように丁寧に手入れされた状態のことだ。
嘘を言わないように、いつも真実を話すようにしよう。他人につく嘘はだめだ。でも、自分につく嘘はもっとだめだ。自分に誠実になれないのなら、他人にどうして誠実になれようか。
しっかり休もう。自分がやらなくても良いことは、断ろう。自分しかできないことにフォーカスするために。
 
さあ、諦めていたことや、しばらく放っておいた本当にやりたかったことにとりかかろう。
とりかかれば、それはいつかやり遂げられる。

健診って、ほんとに必要?こんなに元気なのに?

ポイント

・1歳6か月と3歳児健診は、母子保健法第12条を根拠として市町村が義務を負う。

・お父さんお母さんが元気と判断してても、やっぱり見てもらったほうが安心。

・せっかく健診に来たなら、育児の心配事をぜひ相談しましょう。

 

はじめに

 語圏では、健診のことをwell-being visitと言います。直訳すると、「元気にしているかい?の確認のための訪問」という感じでしょうか。つまり、ほとんどのお子さんは、全く問題なくお元気です。だけど、小児科医や保健師さんから見てもらうことも大切です。

 

健診がなぜ大切か

 前、健診で停留精巣が判明した男の子のお話です。よく日焼けしていて、お母さんが大好きな3歳の男の子です。3歳児健診を私が担当したのですが、診察していてあることに気づきました。左側のタマタマが玉袋にないのです。医学的に言い直すと、左睾丸が陰嚢内にありませんでした。ただし、これはよくあること。男性なら知っておられることかと思いますが、タマタマは常に玉袋にあるわけではありません。精巣挙筋といって、温度変化にともなって、玉袋の上の方から下の方へ自在に移動します。健診のときに玉袋になくとも、普段の生活でリラックスしたタイミングでタマタマが玉袋にあったことがあるかどうかをお母さんにお聞きします。おむつを変えるとき、お風呂上がりのときなどにタマタマが玉袋にあったことがあれば、一安心。停留精巣といってタマタマが玉袋の上の方やお腹の下の方から降りてこない病気の可能性はなくなります。ところが、この3歳の男の子の場合は母に聞いても左側のタマタマが玉袋にあったことがないとのことでした。心配だったので、後日小児科外来に来てもらいエコーで確認すると、お腹の下の方にタマタマがありました。いわゆる、腹腔内精巣でした。精子をつくるための精巣は、お腹の中にあってずっと温度が高いとその機能が失われて精子を作れなくなります。また、精巣癌というガンのリスクも上がります。2つの理由から、停留精巣は早く小児外科あるいは泌尿器科の医師により手術で治してもらう必要があるのです。一見元気そうな男の子でしたが、停留精巣と診断され知り合いの泌尿器科の先生に紹介したら2週間後には日程が決まり、1か月後には無事手術が終わりました。

 

せっかくなので色々聞いてみよう

 診は1歳6か月と3歳児健診は母子保健法第12条を、それ以外の健診は13条を法的根拠に市町村が行います。

www.mhlw.go.jp

 

目的は、成長の遅れ・病気の早期発見と、生活習慣や育児についての相談です。多くのお子さんと保護者の方にとっては、元気だという保証を得るためであることと思います。何百人も何千人もげんきな子どもをみてきた小児科医や保健師さんのお墨付きは、安心につながることと思いますし、そうであるように我々は努力しなければなりません。普段から気になっている心配事や、解決のヒントを得る機会にしていただけますと幸いです。些細な質問で構いません。保護者の方が納得するまで説明するのがわたしたちの義務です。

 

あとがき

後にも先にも、一日でこんなに多くのタマタマとか玉袋とかいう単語をタイプするのは今日だけでしょう。

蚊に刺されてすごい赤く腫れています。大丈夫でしょうか?

 ポイント

・小さい赤ちゃんほど虫刺されの反応が強く出ることが多い。

・子どもは皮膚が繊細な上に、かゆいとかきむしり“とびひ”になることもある。

・市販薬のレスタミンコーワは痒みを抑えてくれる。処方薬はステロイドが有効。

 

 雨もそろそろ明けて、暑い夏がやってきます。海の近くに生まれ育った私は、この季節がくると海水浴が楽しみでなりません。暑い日差しのなか砂浜をあるき、冷たい海の水に潜ったときの気持ちよさは忘れられません。子どもたちが海水浴や花火などの夏の楽しみに興じるとき、蚊はここぞとばかりに栄養が豊富な血液を吸うための絶好の機会を虎視眈々と狙っています。産卵を控えたメスの蚊は、子どもたちに栄養を少しでも蓄えようと必死なのです。子どもやその親は、必死であの手この手で虫刺されを予防しますが、蚊も命がけでやってくるのでどうしても刺されてしまいます。虫刺されは、医学用語で虫刺症(ちゅうししょう)といい、蚊に刺された場合は蚊刺症(ぶんししょう)といいます。カ、ハチ、ダニ、ムカデ、アリなどの虫がその原因として知られていますが、ここでは最も頻度の多い蚊について例を上げて説明しようと思います。

 

 本で多い蚊の種類は、白黒縞模様のヒトスジシマカ(Aedes albopictus)、茶褐色のアカイエカ(Culex pipiens pallens)で、いずれもメスの成虫のみが吸血します。蚊はヒトの皮膚にその口を刺し、いきなり血は吸わないで、まず痛みを麻痺させるために唾液腺物質を注入します。蚊に刺されてかゆいのは、その唾液腺物質に対するアレルギー反応のせいです。まだ刺された経験の少ない赤ちゃんは蚊に刺されても最初は無反応です。しかし、翌日になってアレルギー反応が強くでて、刺された場所が赤く腫れ上がり、時にしこりのような硬結を触れることもあります。この一連の反応は肺炎球菌ワクチンを打ったあとの反応に似ているかもしれません。(生後まもなく接種するワクチンのうち、大体は肺炎球菌ワクチンが一番強い副反応を引き起こします。)このように、すぐに反応が出ずに遅れてアレルギー反応が出現するのを遅延型反応と言います。反対に、すぐに反応が出るものを即時型反応といいます。年齢を重ねるに連れて、蚊に刺されてすぐに反応がでるようになるのは、だんだんとアレルギー物質への対応が早くなることと理解してもらって良いです。ちなみに、日本脳炎ウイルスは豚で増幅され蚊が媒介するウイルス感染症であり、未だに日本で毎年10人の報告があります。発症すれば死亡率30%、命は助かっても神経学的後遺症が残る確率は50%という恐ろしいウイルスなので、ワクチンうちましょう1

 

 まれて間もない赤ちゃんは、かゆいからと皮膚をかきむしることは多くないです。しかし、幼児や学童の場合は皮膚を掻き壊すこともあります。そこに細菌感染が合併すると伝染性膿痂疹、いわゆる“とびひ”となってしまいます。大きな小児科病院に勤務していると、年に数例はこの虫刺されによる“とびひ”が重症化したケースに遭遇します。“とびひ”になってしまった場合は、細菌をやっつけるための抗菌薬を内服したり塗布したり、場合によっては点滴しなくてはならないこともあります。そうならないためには、予防が大切です。

 

 ずは刺されないこと。市販の虫除けスプレーやパッチタイプがドラッグストアに売られており、それらを上手に活用しましょう。ジエチルトルアミド(ディート)は1950年代からアメリカ陸軍で使われていた薬剤であり、安く製造できるため世界中で普及しました。しかし、神経毒性や皮膚炎が起こる可能性があり、おすすめできません。厚生労働省からの通達には、6ヶ月未満には使用しないこととされているため乳児には使えません。そこで、イカリジンです。イカリジンとは、胡椒(ブラックペッパー)の辛味成分であるピペリンに似た構造をもつ化学物質です。ディートと同程度の虫除け効果を持ち(なんならちょいイカリジンのほうが効くみたいです1)、食べ物由来の類似物質なので、副作用を気にせつお使いいただけます2。2015年に50年ぶりに虫除け薬として新規承認されました。(←遅えよ。と思いました。)私は小児科医であり、フマキラーやキンチョーの回し者ではありませんが、子どもにより良い商品はおすすめしたい。なにより、いまだにディート製品がドラッグストアに陳列されているのをみると腹が立ちます。こんな製品まだ売ってるのかと。すみません、取り乱しました。さて、予防はしたけれどそれでも刺されてしまった場合、氷で冷却、それでもだめならレスタミンコーワが有効です。抗ヒスタミン薬でかゆみを抑えてくれます。

 

  

 

 

レスタミンコーワ軟膏です。レスタミンコーワクリームもあるので、お間違えなく。夏にクリーム塗ると、べとついて気持ち悪いです。 

 

 夏はもうすぐ。備えは良いですか?うちはまだです。梅雨、はやく明けないかな。

 

余談

5歳の娘に、イカリジンについて教えてあげました。そして、虫さんが来たら刺されないように「胡椒!胡椒!胡椒!」と言うんだよと冗談で教えてあげました。すると、保育園のお迎えの時に門を出るところで虫に遭遇した娘は、大きな声で「胡椒!胡椒!胡椒!」と叫んでおりました。パパとの会話を覚えてくれててかわいかったけど、妻には怒られそうです。

 

 参考文献

  1. Solomon, T. et al. Japanese encephalitis. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 68, 405–15 (2000).
  2. Goodyer, L. & Schofield, S. Mosquito repellents for the traveller: does picaridin provide longer protection than DEET? J. Travel Med. 25, S10–S15 (2018).
  3. Diaz, J. H. Chemical and Plant-Based Insect Repellents: Efficacy, Safety, and Toxicity. Wilderness Environ. Med. 27, 153–63 (2016).

 

この腹わたが煮えくり返る怒りを、どうしてくれようか

 どうしよもない怒りを感じたときに、どう行動するか。美味しいものを食べる人もいるだろうし、バッティングセンターに行く人もいるだろう。私の場合は、徹底的にその原因を洗い出し、二度とそのミスをしない方法を探し出し、二度と同じ思いをしないように行動する。もちろん、その段階に至るまでに、多くの悶々とした時間を過ごしたり、酒を飲んだり、愚痴をこぼしたりすることも多い。

 

 常に冷静でいることは、どんな仕事をするときにも欠かせない資質の一つだ。パニックになることは、最も避けなければならないことの一つ。とりわけ、命を取り留めるために一秒を争うときは、喜怒哀楽している場合ではない。為されねばならぬことを直ちに見極め、それが達成されるために必要な術を、文字通り“どんな手段を使ってでも”行使する。

 

 子どもの命を救うために考えられた、救命処置法を普及させるための講習会では、心臓マッサージ(正しくは胸骨圧迫)や人工呼吸の方法、AED(街なかにおいてある電気ショックに使う機械)の使い方などを教える。PALSとは、Pediatric Advanced Life Support の略称で、AHA(アメリカ心臓協会:American Heart Association)がAPP(米国小児科学会:American Academy of Pediatrics)などと協力して提唱している小児二次救命処置法のことだ。よく、パルスと言われる。そのPASL講習会で、私がもっとも勉強になったのは、チームダイナミクスについてだ。チームダイナミクスとは、チームのメンバーがそれぞれの能力を最大限に発揮してチームとして望む結果に近づくための方法だ。もし、チームのリーダーが、パニックのあまりメンバーを強く叱りつけてしまったとする。すると、とたんにそのチームの力はガクンと落ちる。なぜなら、恐怖心のあまりコミュニケーションはとれなくなり、報告や相談はしにくくなり、結果として対応が遅れるといった状況が生まれる1。チームダイナミクスを発揮するためには、まずパニックにならないこと、そして怒鳴ったり叱ったりする行為をせず、落ち着いた口調でコミュニケーションをとり、相手に失礼がないよう率直に意見することが大切になる。

 実際、医療の現場で怒号がとぶことはほとんどなく、もし落ち度がある場合でも、その場は他のメンバーがカバーし、再発予防目的に事後カンファレンスで二度と同じ過ちが起きないように工夫を施す。

怒りは七つの大罪に挙げられるように、多くの場合において生産性を下げてしまう。

 

 しかし、そうは言っても、人間。どうやったって怒りがこみ上げて仕方がないこともある。下記は、思いつく限りのハラワタが煮えくり返る怒りを感じた出来事を列挙した。思い返せば、そのいくつかの怒りを通してむしろ学んだことが、私の人生を大きく変え、柱となっていることに気付かされる。怒りの矛先は、その原因によって様々だが、それを自分の力でコントロールできるかどうかに、大きく分かれ目があると思う。つまり、自分が頑張ればなんとかなることなのか、そうでないのか。世界の裏側で起こることをコントロールしたり、社会で起こる出来事をコントロールしたりはできない。だからこそ、自分が頑張ればなんとかなりそうなことくらいは、やっとかないと死ぬとき後悔しそうだからやっておきたい。

 

怒りリスト

小学校の教室後ろの掲示板で、小さな黒人の子どもが息も絶え絶えに這いつくばるその近くで、ハゲタカがその屍肉を今か今かと待っている写真を見たとき。(こんな理不尽な出来事が同じ地球の上で起こっているのだと衝撃を受けた。それを許容している世界があるとしたら、許せないと子どもながら憤慨した。運命が違えば、自分が彼であった可能性もあることに底しれぬ恐怖も感じた。後にそれはケビン・カーターという写真家によって撮影された写真であること、ピューリッツァー賞というおおきな賞をとったあとに、彼は自殺したことを知った。小児科医を目指した理由の一つ。)

 

f:id:Tanaka_Hajime:20210531143227j:plain

 

 小学校で音楽の時間、歌声が小さいからと、放課後教室に一人居残りさせられて、黒板に向かって大きな声が出るまで歌わされた。(結果的にいまでは何百人の前で学会発表してもビビらない、その礎を作ってくれた俊成先生に感謝。)

中学生のとき、駅伝メンバー選考レースでサボったら、体育の先生にバレて、「お前はそんなことをしてはいけない。マラソン金メダルで弁護士になった人もいるのだ。文武両道を目指しなさい」と言われた。(全力を出さなかった後悔と、それが先生にはバレていた恥ずかしさと、今ではどうしてそんなことをしたのかという怒り。)

高校生のとき、いくら頑張っても模試で第一志望の大学の判定がDを超えなかった。(普通の努力で超えられない壁を感じた。高い金はらって予備校の授業受けてたら、俺だって負けねえぞという怒り。いまではそれを負け惜しみだったと感じている。)

好きな女の子に自分以外の好きな人ができた。(ハゲそうなくらいショックだった。)

薬学生のとき小児科病棟で実習中に、小児薬剤師になりたいと病棟医長に伝えたら、「必要なのは小児科医なんだよね」と言われた。(オッケー、なら小児科医になるわ、とポジティブな方向へ昇華できたのはその半年後。それまでは毎晩怒り。)

父親から急に、母さんと離婚するからこの書類にサインをくれと郵便が届いたとき。(論外。激しく怒り、父に怒りを思い切りぶつけたのはこれが最初で最後。)

ラーメンくって店を出ようとしたら、知らないオッサンが俺の車にドアをぶつけてそのまま走り去っていった。(このオッサン腹立たしい、今でも探してる。ナンバー控えてる。)

保育園で子どもが怪我したのに、「友達はやっていないと言っています」とだけ先生に言われて、結局子どもは顔にあざが出来たが誰がやったのかも分からないまま有耶無耶になった。(日本の行末が心配になった。倫理感乏しい先生に教わった子どもたちが20年後に日本を担えるのか。)

論文を書いたらエディターが内容もよく見ないでリジェクトしてきた。(いい内容なのに。もっと良い雑誌に投稿してやると怒り。)

院内症例報告会で、川崎病の原因について知らないことを諸先生方に尋ねたら、そんなことは分かるわけないと笑われた。(腹が立ったので翌年 dermatolgy皮膚科分野で世界top10の雑誌に症例報告書いた。)

川崎病の臨床研究をしたいと大学スタッフに申し出たら、まだ実績がないからという理由で計画のまま保留になった。(実績、だしてやる、と怒り。機会が来たらどっかの病院で臨床研究して論文にしたい。川崎病の病因解明につながればと思う。)

ある子どもが夏の車内に取り残されて死んだことを、ニュースできいた。(虐待のニュースはもう懲り懲りだ。)

 

参考文献

  1. Dewolf P, Clarebout G, Wauters L, Van Kerkhoven J, Verelst S. The Effect of Teaching Nontechnical Skills in Advanced Life Support: A Systematic Review. AEM Educ Train. 2020;5(3):e10522. doi:10.1002/aet2.10522

 

子宮頸がんワクチンって、打ったほうがいいの?

タイトルの質問ですが、小児科のベテラン看護師さんでも我々小児科医にするようなご質問です。混沌を極めた子宮頸がんの歴史、政策に惑わされずに、お子さんにとって何がベストなのか考えてもらうきっかけになれば幸いです。

 

ポイント

・子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因

・HPV感染を防げば発がんを阻止できる

・HPVワクチンは性行為開始前の10代半ばで接種する必要がある

 

大切なのは新型コロナウイルスワクチンだけじゃない

 新型コロナウイルス感染症の勢いが2021年4月現在でもまだまだ止まりません。先日私も1回目の予防接種を受けましたが、油断ならぬ状態が続いています。2回めの方が痛いというツイッター情報を真に受けて少し怖くなるのは、医療従事者でもそうでない方も私を含めて同じです。しかし防げる病気は防がなければ、もったいない。

 先日、うれしいニュースがありました。これまで1%台であった子宮頸がんワクチンが約20%まで上昇したとのこと。厚生労働省の集計によって明らかになりました。

mainichi.jp

 

子宮頸がんって、どうしてなるの?

 子宮頸がんは、子宮頸部に原発するがんで、その発生にヒトパピローマウイルス(HPV)感染が重要な役割を担っています。性行為などで子宮頚部の表皮や粘膜が擦れて小さな傷ができます。するとそこからHPVは侵入します。たとえコンドームを使用していたとしても感染予防には限界があります。HPVは感染した細胞に遺伝子を無理やり組み込んでしまい、その細胞の一部はひたすら増殖しはじめるようアクセルが踏まれます。それが、がんとなります。

 

 20歳代女性の3割近くががん化のリスクが高いHPVに感染しているとする、疫学研究があります。つまり、HPV感染自体はありふれたイベントであり、感染から発がんに至る確率はごくわずかです。(したがって、子宮頸がんに罹患してしまった女性をふしだらであるとか決めつけてしまうのは正しくありません。)しかし、一旦がん化した細胞は放っておくと体中に広がってしまうため、そうなる前に早期発見と治療が大切です。

 

子宮頸がんワクチンを打たなかったどうなるか

 子宮頸がんワクチンについては、我が国日本では辛い過去があります。2002年にHPVワクチンの有効性を示す研究結果が発表され、遅れること約7年後の2010年度からやっと我が国でもHPVワクチンが導入されました。しかし、その後の予防接種の副反応と思われる症状が多く報道されました。世論でも議論が過熱(あるいは混乱)し、厚生労働省からの積極的推奨が差し控えられるようになりました。その結果、2000年度以降生まれのHPVワクチン接種率は激減しました。それから約20年後の現在、我々は恐るべき自体に直面することとなります。

 

20代、30代の子宮頸がんが増えている

 2020年9月に大阪大学産婦人科グループの研究によると、HPVワクチンが広く接種された1994~1999年度生まれの女子に比べて、2000年度以降の生まれの女子においては子宮頸がん罹患者数・死亡者の著しい増加が見込まれています(1)。つまり、HPVワクチン接種を控えた結果として子宮頸がんに苦しむ女性が極めて高い確率で増えるだろうとされています。 

f:id:Tanaka_Hajime:20210801190438p:plain

 

子宮頸がんは防げる病気

 2018年に女優の高橋メアリージュンさんが子宮頸がんで治療したことを公表されました。非常に勇気の要る行動です。同じような経験をこれからの女の子たちにさせたくないという気持ちがそうさせたのでしょう。

yomidr.yomiuri.co.jp

 

 新型コロナウイルス感染症の感染対策ももちろん大切です。一方で、先人たちが築いてくれた定期接種ワクチンも大切にして、防げる病気は防いで健康な体で人生を楽しんでもらいたいものです。私にも2人の娘がおり、定期接種可能な年齢になればHPVワクチンを接種してもらう予定です。

www.mhlw.go.jp

 

参考文献

1. Yagi, A. et al. Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine. Sci. Rep. 10, 15945 (2020).

2. HPVワクチンの接種を検討されている皆様へ - 岡山県ホームページ(健康推進課)

個人情報の収集について

利用者は匿名のままで、当サイトを自由に閲覧することが可能です。

利用者の個人情報を利用者の許可なく、当サイトから第三者へ開示・共有することはありませんのでご安心ください

当サイトに掲載している広告について

当サイトでは、第三者配信の広告サービスを利用しています。

このような広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた商品やサービスの広告を表示するため、当サイトや他サイトへのアクセスに関する情報 『Cookie』(氏名、住所、メール アドレス、電話番号は含まれません) を使用することがあります。

Cookie(クッキー)を無効にする設定は、お使いのブラウザによって違います。

お使いのブラウザをご確認の上、設定してください。

アクセス解析について

当ブログはGoogleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティクス」を利用しています。

Googleアナリティクスは、トラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。

このデータは匿名で収集されています。

個人を特定するものではありません。

Cookieを無効にすることで収集を拒否することができます。

お使いのブラウザの設定をご確認ください。

免責事項

利用者は、当サイトを閲覧し、その内容を参照したことによって何かしらの損害を被った場合でも、当サイト管理者は責任を負いません。

当サイトからリンクやバナーなどによって他のサイトに移動された場合、移動先サイトで提供される情報、サービスなどについて一切の責任を負いません。

当サイト以外のウェブサイトの内容および、個人情報の保護に関しても、当サイト管理者は責任を負いません。

お問い合わせ

お問い合わせは、下記フォームに、お名前、メールアドレス、件名、お問い合わせ内容を記載の上で送信ください。

初出掲載: 2020年 2月 15日