ポイント
- ざっくりとこどもの行動を3つに分類する.
- こどもの3つの行動に対し,それぞれ親の対応を決める.
- トークンエコノミー,タイムタイマーをうまく使う.
親の小言と冷酒はあとで効くのか?
「学校の宿題はしたの!?」
「ピアノの練習は!?」
「明日の準備はしたの!?」
7歳で小学校2年生の長女は,妻や私からのこうした言葉がけに,わかりやすく仏頂面をします.「いまからやろうとしていたのに.」「いつも命令ばかりされて,つまらない!」とお顔に書いてあるようです.そうした態度に対して,私たち親はさらに腹を立ててしまいがちです.親としては,こどものためを思って言っているのに,どうしてわかってくれないのかしら,と.
私たちがこどものときには,そうした声がけをされたら,たぶん同じように反応したことでしょう.うるさいなあとか,そう言われるとやる気がなくなっちゃうよとか,思ったはずなんです.だけど,いざ親になってしまうと,そうした記憶はいとも簡単に忘れてしまいます.
ちなみに私自身のこどものときを振り返ると,そうした声掛けは受けた記憶がありません.父は仕事で朝早く家をでて夜遅く帰ってくるので平日にはほとんど会いませんでした.たまに休日に教科書の朗読を聞いてもらったくらいでしょうか.母は専業主婦で,公園や図書館に遊びに行った記憶ばかりで,良くも悪くも学校のことに干渉が少なかったので宿題などのことを言われた記憶がやはりありません.宿題を忘れていったことも,たくさんありました.お陰で,朝学校で気付いて優秀な女の子に写させてもらったりして誤魔化すなどといったスキルが身についたことを思い出します.いまだに,小学校の同級生には,忘れ物が多かったね,などとうっかり言われたりします.
親としては,こどもをなるべく叱らずに済ませたいものです.とはいえ,私のようにしょっちゅう忘れ物をするもの避けたい.では,私たちはどのように振る舞うのがよいのでしょうか?
親が正しくこどもに意見するには?
もともとは発達に特性のあるこどもをもつ養育者のために開発された,ペアレントトレーニングという方法が,役に立つのだと思います.心理学や行動分析学の理論を応用し,実際の診療にも活かされるこの方法は,正しく使えばかなり強力です1.しかし,ペアレントトレーニングの理論と実践を正しく身につけるためには,1か月にわたって毎週1時間くらい講義を受けなければならないことが多いです.時間がかかるのです.多くの親御さんは,そんな時間はありません.なので,ここで,簡単ながらエッセンスをご紹介できればと思います.
まずは,こどもの行動を3つに分類します.①つめは,良い行動です.これは増やしたい,そう思えるものです.②つめは,悪い行動です.こちらは減らしたいものです.③つめは,その悪い行動のうち,危険性が高い行動です.これは緊急性が高く,減らしたいどころか,無くさねばなりません.
次に,そのこどもの3つの行動それぞれに対する親の行動についてです.①つめの良い行動に対しては,褒めます.このときの褒め方がとても大切です.心から褒めるのです.しかも,こどもにとって,わかりやすく「あー,これは確実に褒められているな!」とわかるくらい大袈裟が良いです.目をみて,どこが良かったのかを伝え,場合によっては抱きしめるとよりよいです.この褒め方のバリエーションの一つに,トークンエコノミー token economyがあります2.トークン token とは代替通貨,エコノミー economy とは経済のことです.代替通貨による経済圏を家庭につくること.つまり,お菓子やおもちゃ,それらと引き換えが可能なポイントと考えてもらえば良いでしょう.トークンエコノミーには,やりすぎるとアンダーマイニング効果という思わぬ副作用を生み出すこともあるので,多用に注意が必要です.習慣づけのため,あるいはモチベーション維持のためなど明確な目的をもって使うと良いでしょう.②つめの悪い行動に対しては,無視をします.つまり,その行動に対して親はアクションを起こしません.無視をするのは,そのこどもの行動に対してのみであることに注意が要ります.また,悪い行動が良い行動に切り替わったタイミングを逃さず,①つめの良い行動の時のように褒めることが,大切です.このときに,どうして良かったのか,悪い行動からの変化を伝えると良いです.最後に③つめの危険性が高い行動ですが,このときは制止します.つまり,その行動をやめるように伝えます.伝え方がとても大切です.普段より真剣な表情で,ゆっくりとした調子で,毅然とした態度で伝えます.この時に大きな声を出してしまったり,怒りの感情をぶつけてしまうと,怒られていることが全面に出てしまい,本来伝えたい危険性や緊急性が伝わらないことが多くあります.自分や誰かを傷つけてしまう可能性,物を壊してしまう可能性などについて,ゆっくりと落ち着いて毅然とした態度で伝えることを念頭におかねばなりません.②つめや③つめの行動への対応に対して,どうしても言うことを聞かないこともあるかもしれません.そのときはタイムタイマーが有効です.アナログタイマーの残り時間が赤く表示されており,それがだんだんと減っていく様が可視化されているものです.時間という見えない概念を,こどもでもわかりやすく見えるようにしてくれます.例えば,どうしても悪い行動をやめない場合,「あと3分間まつから,それまでにやめようね.」などと赤く表示されたタイムタイマーを見せながら説明します.行動の切り替えがすぐには難しい場合に有効です.時間が経つまでにやめられたら,褒めます.もしやめられなかったとしても,タイムタイマーによる切り替え時間を繰り返し設定し,切り替えに要する時間が短くなっていくようにすることが大切です.
こどもの成長が親を育ててくれる.
毎日の,良い行動や悪い行動などの記録も大切です.
1か月前に,良い行動はこれだけだったけど,だんだんと増えている!悪い行動はこんなに減っている!切り替えの時間がこんなに短くなった!
など,成長の記録は,こどもだけではなく,親の自信も深めてくれます.こども自身も1回目のこども人生ですが,親もそれは同じ.最初から上手にできなくて当たり前なのです.色々な失敗をして,よりよくなっていくことに生きていくよろこびがあります.それは他人と比べてどうこうではありません.他人のこどもと比べてどうこうではありません.ひとり一人に失敗があり成功がありその積み重ねとして成長があります.うまくいかないことが続いても,だいじょうぶ.もがいて苦しんで,それでも歩んだその道を親子で眺めるその日にはうまくいったこともそうでないこともかけがえのない宝ものになることでしょう.小児科医としてそうした宝ものの制作に携わらせていただけることは,畏れ多くも楽しいお仕事です.
参考文献
- Kearney, C. A., LaSota, M. T., Lemos-Miller, A. & Vecchio, J. Parent training in the treatment of school refusal behavior. Handbook of parent training: Helping parents prevent and solve problem behaviors (3rd ed.). 164–193 (2007).
- Coelho, L. F. et al. Use of Cognitive Behavioral Therapy and Token Economy to Alleviate Dysfunctional Behavior in Children with Attention-Deficit Hyperactivity Disorder. Front Psychiatry 6, 25 (2015).