下っ端小児科医は、いつの時代も病棟医をして経験を積む。病棟医をしていると、当然だが病気の子どものお母さんと会話することが多い。その時に、我が子が3人いると、話題に事欠かないことも、父親小児科医の特権かもしれない。お母さん方からは、いつも貴重な質問や意見をいただく。病気のことはもちろん、子育てに関する質問も多く受けるものだ。最近意外に多いのは、「先生の子どもさんが、もしYouTuberになりたいと言い始めたらどうしますか?」という質問だ。
私の答えはいつも決まっている。「全然いいと思いますよ。」
「ただし、(ここからいつも長いです笑)
日本国民の義務を果たせない状態になるのは、僕が良い悪いというより、社会に生きる1人の人間として生きづらいでしょう。YouTuberという職業自体が、人生を通して仕事として成り立つ可能性が十分に高くないと思われるので、いつの時代にも必要とされるスキルを身に付けておくと良いと伝えます。それは国家資格かもしれないですし、特殊技術かもしれません。いずれにしても、教育、勤労、納税のどれも必ず国民として果たせることが、やりたいことを突き詰めるための必要最低条件です。」
文字にしてみて、改めて自分のクドさに驚いた。毎回こんな説明をしてお母さんにお口あんぐりされる私はきっとメンドクサイひとなのだ。
私が尊敬するYouTuberは何人もいるが、その一人が Casey Neistat さん。彼の編集技術や、音楽のセンス、考え方は、とても自由で人間的だ。いい小説を読んだ時のように、ハッとさせられることがたくさんあるので、よく動画を見ている。彼の作業部屋がとても好きだ。自由で、綺麗で、何より機能的です。それに習って、子どもたちの勉強机を日曜大工で改良してみた。我ながらいい出来だと思っている。
子どもたちの学習机の環境は、学業に影響を与える。その一例をお示しする。学習机が体の大きさに合わせて調整できると、学業成績に良い影響を与える1。答えは当たり前のようだが、どのような条件でどのような結果が導かれているのかを知ることはとても大切。2016年にブラジルで行われた研究で、机と椅子の高さを固定されたグループと、体の大きさに合わせて高さを調節できるグループに分けた(下図)。簡単な図形をどちらが上手に描けるかという課題を6歳前後の子どもにしてもらって、その作業の正確さや速さを比べた。結果は、調節できる机と椅子で作業したグループの方が、もう一方のグループに比べて時間はかかったが、作業はより正確だった。筆者らは、この差は学業成績に大きく影響するだろうと結論づけた。
Fig. 2
また、これも面白い着眼点だが、学習机や椅子は軽い方が良く、年齢や体格に応じて適正な大きさと重さのものが良いそう2。これまた当たり前のような結果だが、こうしてきちんと比較して論じて、何より英語でまとめることで人類共通の知恵として活用される。
子どもに勉強ができるようになって欲しいと思う親は、自分が子どもだったら嫌だなあと思う。なので、子どもにはあまり期待せずに居ようとは心がけている。ところが、心のどこかで期待してしまうのは、なかなか抗えない親心か。言葉でその期待を直接伝えるのはかなりウザい親(だと自分だったら思う)なので、その抑えきれない気持ちを子どもの環境を整えることに注ぎ込もう。
それにしても今日の外勤先の小児科診察室は暖房が効きすぎていて暑い。窓を開けよう。
参考文献
- Gimenez R, do Nascimento Soares R, Ojeda VV, Makida-Dionísio C, Manoel E de J. The role of school desk on the learning of graphic skills in early childhood education in Brazil. Springerplus. 2016;5(1):1120. doi:10.1186/S40064-016-2554-1
- Purwaningrum L, Funatsu K, Xiong J, Rosyidi CN, Muraki S. Effect of Furniture Weight on Carrying, Lifting, and Turning of Chairs and Desks among Elementary School Children. PLoS One. 2015;10(6). doi:10.1371/JOURNAL.PONE.0128843