ポイント
・1歳6か月と3歳児健診は、母子保健法第12条を根拠として市町村が義務を負う。
・お父さんお母さんが元気と判断してても、やっぱり見てもらったほうが安心。
・せっかく健診に来たなら、育児の心配事をぜひ相談しましょう。
はじめに
英語圏では、健診のことをwell-being visitと言います。直訳すると、「元気にしているかい?の確認のための訪問」という感じでしょうか。つまり、ほとんどのお子さんは、全く問題なくお元気です。だけど、小児科医や保健師さんから見てもらうことも大切です。
健診がなぜ大切か
以前、健診で停留精巣が判明した男の子のお話です。よく日焼けしていて、お母さんが大好きな3歳の男の子です。3歳児健診を私が担当したのですが、診察していてあることに気づきました。左側のタマタマが玉袋にないのです。医学的に言い直すと、左睾丸が陰嚢内にありませんでした。ただし、これはよくあること。男性なら知っておられることかと思いますが、タマタマは常に玉袋にあるわけではありません。精巣挙筋といって、温度変化にともなって、玉袋の上の方から下の方へ自在に移動します。健診のときに玉袋になくとも、普段の生活でリラックスしたタイミングでタマタマが玉袋にあったことがあるかどうかをお母さんにお聞きします。おむつを変えるとき、お風呂上がりのときなどにタマタマが玉袋にあったことがあれば、一安心。停留精巣といってタマタマが玉袋の上の方やお腹の下の方から降りてこない病気の可能性はなくなります。ところが、この3歳の男の子の場合は母に聞いても左側のタマタマが玉袋にあったことがないとのことでした。心配だったので、後日小児科外来に来てもらいエコーで確認すると、お腹の下の方にタマタマがありました。いわゆる、腹腔内精巣でした。精子をつくるための精巣は、お腹の中にあってずっと温度が高いとその機能が失われて精子を作れなくなります。また、精巣癌というガンのリスクも上がります。2つの理由から、停留精巣は早く小児外科あるいは泌尿器科の医師により手術で治してもらう必要があるのです。一見元気そうな男の子でしたが、停留精巣と診断され知り合いの泌尿器科の先生に紹介したら2週間後には日程が決まり、1か月後には無事手術が終わりました。
せっかくなので色々聞いてみよう
健診は1歳6か月と3歳児健診は母子保健法第12条を、それ以外の健診は13条を法的根拠に市町村が行います。
目的は、成長の遅れ・病気の早期発見と、生活習慣や育児についての相談です。多くのお子さんと保護者の方にとっては、元気だという保証を得るためであることと思います。何百人も何千人もげんきな子どもをみてきた小児科医や保健師さんのお墨付きは、安心につながることと思いますし、そうであるように我々は努力しなければなりません。普段から気になっている心配事や、解決のヒントを得る機会にしていただけますと幸いです。些細な質問で構いません。保護者の方が納得するまで説明するのがわたしたちの義務です。
あとがき
後にも先にも、一日でこんなに多くのタマタマとか玉袋とかいう単語をタイプするのは今日だけでしょう。