とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

この腹わたが煮えくり返る怒りを、どうしてくれようか

 どうしよもない怒りを感じたときに、どう行動するか。美味しいものを食べる人もいるだろうし、バッティングセンターに行く人もいるだろう。私の場合は、徹底的にその原因を洗い出し、二度とそのミスをしない方法を探し出し、二度と同じ思いをしないように行動する。もちろん、その段階に至るまでに、多くの悶々とした時間を過ごしたり、酒を飲んだり、愚痴をこぼしたりすることも多い。

 

 常に冷静でいることは、どんな仕事をするときにも欠かせない資質の一つだ。パニックになることは、最も避けなければならないことの一つ。とりわけ、命を取り留めるために一秒を争うときは、喜怒哀楽している場合ではない。為されねばならぬことを直ちに見極め、それが達成されるために必要な術を、文字通り“どんな手段を使ってでも”行使する。

 

 子どもの命を救うために考えられた、救命処置法を普及させるための講習会では、心臓マッサージ(正しくは胸骨圧迫)や人工呼吸の方法、AED(街なかにおいてある電気ショックに使う機械)の使い方などを教える。PALSとは、Pediatric Advanced Life Support の略称で、AHA(アメリカ心臓協会:American Heart Association)がAPP(米国小児科学会:American Academy of Pediatrics)などと協力して提唱している小児二次救命処置法のことだ。よく、パルスと言われる。そのPASL講習会で、私がもっとも勉強になったのは、チームダイナミクスについてだ。チームダイナミクスとは、チームのメンバーがそれぞれの能力を最大限に発揮してチームとして望む結果に近づくための方法だ。もし、チームのリーダーが、パニックのあまりメンバーを強く叱りつけてしまったとする。すると、とたんにそのチームの力はガクンと落ちる。なぜなら、恐怖心のあまりコミュニケーションはとれなくなり、報告や相談はしにくくなり、結果として対応が遅れるといった状況が生まれる1。チームダイナミクスを発揮するためには、まずパニックにならないこと、そして怒鳴ったり叱ったりする行為をせず、落ち着いた口調でコミュニケーションをとり、相手に失礼がないよう率直に意見することが大切になる。

 実際、医療の現場で怒号がとぶことはほとんどなく、もし落ち度がある場合でも、その場は他のメンバーがカバーし、再発予防目的に事後カンファレンスで二度と同じ過ちが起きないように工夫を施す。

怒りは七つの大罪に挙げられるように、多くの場合において生産性を下げてしまう。

 

 しかし、そうは言っても、人間。どうやったって怒りがこみ上げて仕方がないこともある。下記は、思いつく限りのハラワタが煮えくり返る怒りを感じた出来事を列挙した。思い返せば、そのいくつかの怒りを通してむしろ学んだことが、私の人生を大きく変え、柱となっていることに気付かされる。怒りの矛先は、その原因によって様々だが、それを自分の力でコントロールできるかどうかに、大きく分かれ目があると思う。つまり、自分が頑張ればなんとかなることなのか、そうでないのか。世界の裏側で起こることをコントロールしたり、社会で起こる出来事をコントロールしたりはできない。だからこそ、自分が頑張ればなんとかなりそうなことくらいは、やっとかないと死ぬとき後悔しそうだからやっておきたい。

 

怒りリスト

小学校の教室後ろの掲示板で、小さな黒人の子どもが息も絶え絶えに這いつくばるその近くで、ハゲタカがその屍肉を今か今かと待っている写真を見たとき。(こんな理不尽な出来事が同じ地球の上で起こっているのだと衝撃を受けた。それを許容している世界があるとしたら、許せないと子どもながら憤慨した。運命が違えば、自分が彼であった可能性もあることに底しれぬ恐怖も感じた。後にそれはケビン・カーターという写真家によって撮影された写真であること、ピューリッツァー賞というおおきな賞をとったあとに、彼は自殺したことを知った。小児科医を目指した理由の一つ。)

 

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 小学校で音楽の時間、歌声が小さいからと、放課後教室に一人居残りさせられて、黒板に向かって大きな声が出るまで歌わされた。(結果的にいまでは何百人の前で学会発表してもビビらない、その礎を作ってくれた俊成先生に感謝。)

中学生のとき、駅伝メンバー選考レースでサボったら、体育の先生にバレて、「お前はそんなことをしてはいけない。マラソン金メダルで弁護士になった人もいるのだ。文武両道を目指しなさい」と言われた。(全力を出さなかった後悔と、それが先生にはバレていた恥ずかしさと、今ではどうしてそんなことをしたのかという怒り。)

高校生のとき、いくら頑張っても模試で第一志望の大学の判定がDを超えなかった。(普通の努力で超えられない壁を感じた。高い金はらって予備校の授業受けてたら、俺だって負けねえぞという怒り。いまではそれを負け惜しみだったと感じている。)

好きな女の子に自分以外の好きな人ができた。(ハゲそうなくらいショックだった。)

薬学生のとき小児科病棟で実習中に、小児薬剤師になりたいと病棟医長に伝えたら、「必要なのは小児科医なんだよね」と言われた。(オッケー、なら小児科医になるわ、とポジティブな方向へ昇華できたのはその半年後。それまでは毎晩怒り。)

父親から急に、母さんと離婚するからこの書類にサインをくれと郵便が届いたとき。(論外。激しく怒り、父に怒りを思い切りぶつけたのはこれが最初で最後。)

ラーメンくって店を出ようとしたら、知らないオッサンが俺の車にドアをぶつけてそのまま走り去っていった。(このオッサン腹立たしい、今でも探してる。ナンバー控えてる。)

保育園で子どもが怪我したのに、「友達はやっていないと言っています」とだけ先生に言われて、結局子どもは顔にあざが出来たが誰がやったのかも分からないまま有耶無耶になった。(日本の行末が心配になった。倫理感乏しい先生に教わった子どもたちが20年後に日本を担えるのか。)

論文を書いたらエディターが内容もよく見ないでリジェクトしてきた。(いい内容なのに。もっと良い雑誌に投稿してやると怒り。)

院内症例報告会で、川崎病の原因について知らないことを諸先生方に尋ねたら、そんなことは分かるわけないと笑われた。(腹が立ったので翌年 dermatolgy皮膚科分野で世界top10の雑誌に症例報告書いた。)

川崎病の臨床研究をしたいと大学スタッフに申し出たら、まだ実績がないからという理由で計画のまま保留になった。(実績、だしてやる、と怒り。機会が来たらどっかの病院で臨床研究して論文にしたい。川崎病の病因解明につながればと思う。)

ある子どもが夏の車内に取り残されて死んだことを、ニュースできいた。(虐待のニュースはもう懲り懲りだ。)

 

参考文献

  1. Dewolf P, Clarebout G, Wauters L, Van Kerkhoven J, Verelst S. The Effect of Teaching Nontechnical Skills in Advanced Life Support: A Systematic Review. AEM Educ Train. 2020;5(3):e10522. doi:10.1002/aet2.10522

 

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初出掲載: 2020年 2月 15日