小さい頃は、寝る前に母親によく絵本を読んでもらっていた。私と3つ下の弟はいつも8時には床について1時間かそこらで絵本を読んでもらいながら寝てしまうのが日常だった。父親は仕事から帰るのが遅かったので、9時ごろに私たち兄弟が寝た後にご飯を食べてからお風呂に入って寝ていた。時々物音で起きて、寝室から空いた戸の隙間から父の仕事帰りの姿を見ていた。朝は早く出かけて、夜遅くに帰ってくる父親には絵本を読んでもらった記憶はない。今から30年も前の話だから、父親が育児に携わることに今ほど皆関心がなかったのだと思う。母に読んでもらう、『小人の靴屋』が好きだった。詳しいストーリーは思い出せないけど、小人が作り上げていく革靴のあの絵のテイストも好きだったし、何より話を聞いている時に湧き上がってくるなんとも言えない、何度読んでもらってもワクワクする感覚は今でも楽しくなる。
便利なもので、今ではYouTubeに読み聞かせ動画がいくつもある。合法かどうかさておき、日本昔ばなしのエピソードもいくつか見かけた。これは良いと思って、部屋でスクリーンに映してその動画を見せていた時期もあった。スクリーンのセットアップが面倒で、光の影響なのか動画を見せてもなかなか子どもが寝つかないのでやめてしまった。いまは図書館で借りてきた絵本を、子どもたちに読み聞かせる。どうやら、動画よりも、直接本を読んであげる読み聞かせの方が、子どもたちの能力を開花させるには良いらしい1。5さい前後の子どもたちを、動画を見せたグループと読み聞かせをしたグループに分けたところ、課題遂行能力も言語能力も後者の方が優った。著者らによると、人と人との直接な関わり合いがもたらす効果だと言う。興味深いことに、他の研究だが、読み聞かせ中に親がスマホをチラ見すると、読み聞かせの質が明らかに低下する2。それによってせっかく活性化していた子どもの左脳(言語、感情、ワーキングメモリー)の働きが低下する。
人工知能が昇竜の勢いで世を席巻するのを目の当たりにして、困惑しながらもデジタルデバイスと共存する道を模索する人類は、やはり人間同士のつながりを無くしてしまっては発展もできないだろうし結局のところ生きていけないのだろうという私の直感的な想いが、研究結果として示してくれたようで安心した。と同時に、仕事で疲れたという言い訳で読み聞かせをサボるのは勿体無いと思うようになった。
それにしても、上記の研究は2019年にイスラエル工科大学で行われた研究であることも私の心を打った。この研究施設があるのは、イスラエルとパレスチナの戦禍にあるガザ地区に程近いHaifa(ハイファ)という街だ。
neuroimaging-center.technion.ac.il
研究者自身が命の危険にさらされながらも、次世代の子どもたちのより健やかな命のために永久不滅の真理に迫ろうとする姿勢は、尊敬に値する。世界で最も安全な国の一つであろう日本にあって、どうして彼らと志を同じくする私たちができないことがあるだろう。今回の読み聞かせのテーマとは少し外れたところでも、胸が熱くなった。
参考文献
- Twait E, Farah R, Shamir N, Horowitz-Kraus T. Dialogic reading vs screen exposure intervention is related to increased cognitive control in preschool-age children. Acta Paediatr. 2019;108(11):1993-2000. doi:10.1111/APA.14841
- Hutton JS, Phelan K, Horowitz-Kraus T, et al. Shared Reading Quality and Brain Activation during Story Listening in Preschool-Age Children. J Pediatr. 2017;191:204-211.e1. doi:10.1016/J.JPEDS.2017.08.037