とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

発達障害?神経発達症? 結局どうなってんの? 

ポイント 

  • 脳の働きの特性により生じる困り感が”生きにくさ”へとつながる場合に、神経発達症(発達障害)と診断されることがある。 
  • 発達障害と神経発達症が同じ意味で用いられることが多いが厳密には異なる。 
  • 今後は障害としてではなく神経学的多様性の一部として、神経発達症に統一される。 

 

発達障害?神経発達症?

コミュニケーションがとれない。落ち着きがない。読んだり書いたりできない。

そういった特徴の相談は、小児科外来で最も多い相談内容のひとつです。これまで、発達障害という病名がメディアや書籍などで取り上げられ、社会的な認知が進みました。慣れ親しんだ発達障害という病名の後を追うように、神経発達症という病名を最近は多く見かけるようになりました。

この病名の変化を、医師でさえきちんと説明することは難しいです。文部科学省発達障害についてのページをみると、いっぱいPDFリンクが貼ってあり除くだけでうんざりしました。とても読む気になれません。

5.発達障害について:文部科学省

一方で、塩野義製薬のページは見やすく大変参考になりました。この記事ではそういった内容を参考にまとめてみました。 

wellness.shionogi.co.jp

 

そもそも、発達障害や神経発達症という言葉はどこから来た? 

世界での歴史的な背景としては、1902年にGeorge Frederick Still博士が、1940年代にはLeo KannerやHans Aspergerが自閉症について記述しました。1980年台のDSM-3、1990年台のDSM-4を経て(DSMアメリカ精神医学学会の診断マニュアル)、広汎性発達障害ADHDとLDが発達障害としてまとめらました。2013年にDSM-5で神経発達症 Neurodevelopmental disorder として、自閉スペクトラム症ADHDと限局性学習障害の3つに改めて分類されました。 

このDSM分類の変遷の間に、日本でも重要な動きがありました。2005年(平成17年)4月1日施行された発達障害者支援法は、自閉症アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害学習障害、注意欠陥・多動性障害などの発達障害を持つ者に対する援助等について定めた法律です。この法をきっかけにして、発達障害という言葉が広く認知されるようになりました。日本の保険医療では病名はICDというWHOが主導する国際疾患分類が採用されており、そこではまだ発達障害という病名で登録されています。 

 

疾患の分類や病名もまだまだ変わりうる 

神経発達症の分野は未知のことが多いです。日本では特にまだわかっていないことがたくさんあります。例えば、私がいま研究に取り組んでいる限局性学習障害の原因となる遺伝子の変化については、これまで調べられた内容はごくわずかです。アメリカやヨーロッパの国々で分かっている遺伝子の変化が、日本でどうなのかさえ、まだほとんど調べられてもいません。疾患の分類や病名なども、これからより洗練されていくことが予想されます。我々小児科医や神経学者に残された仕事はいっぱいあります。 

 

個人の弱みと強み 

神経発達症の学問はまだまだこれからという内容を記しました。とはいえ、だから神経発達症の方々がよりよい人生が送れないのかというと、そう単純ではないと思います。発明王エジソン、昆虫学者のファーブル、物理学者のアインシュタインはみなADHDだったといわれます。ほかにも過去の記事では神経発達症を持ちながらも、その特性を持っていたからこそ誰にも負けないくらい楽しい人生を送ったひとたちがいることを紹介しております。 

 

tanaka-hajime.hatenablog.com

 

もしかしたら弱みは強みと表裏一体なのかもしれません。弱みを強みに変えることは、難しいようで、じつはそのチャンスは身近にあるような気もしています。 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の学習障害研究センターでは、紹介ページのこのようなかっこいい文章で始めています。見習いたいものです。 

 

The mission of the UCSF Dyslexia Center is to eliminate the debilitating effects of developmental dyslexia while preserving and even enhancing the relative strengths of each individual. 

” UCSFディスレクシア・センターの使命は、発達性ディスレクシアの障害を取り除くと同時に、各個人の長所を相対的に維持し、さらに向上させることである。” 

dyslexia.ucsf.edu

 

クレーマーにブチ切れせずに、よりよい解決法を導くには? 

ポイント 

  • 心理学用語でラポール(rapport)とは意思の疎通性を指す。 
  • 小児科では、真のクライアントである子どものほかに、親御さんとのラポール形成が重要である。 
  • 新型コロナウイルス対策のため電話診療が増えているが、電話診療でのラポール形成は注意を必要とする。 

 

電話口からの激しい口調にたじろぐ 

2022年の夏は、日本にとっては新型コロナウイルスの流行との戦いでした。その中で、電話でのやりとりを余儀なくされるケースも多くありました。インターネットやSNSのような匿名性はないものの、相手の見えない電話でのやりとりでは、これまでに経験したことのない出来事が多くありました。 

「どうしてもっと検査をしてくれないのか!」 

「熱が40度を超えているのに入院をしなくて大丈夫か!」 

「帰宅して何かあったら責任をどうとるのか!」 

このような電話口からの激しい口調からは、親御さんの不安が強く感じ取れます。度を越えた激しい場合もあります。なるべく冷静にと心がけておりますが、たじろぐことも、そこまで言わなくても良いんじゃねえかと怒りを覚えることもあります。しかし、そこはプロフェッショナルとして冷静になり、わが子を思う親御さんの気持ちに沿いながら、医学的によりよい方向へと導けるよう努力するのが我々の務めです。 

 

電話診療の難しさ 

小児科で難しい問題の一つに、親御さんとの関係性の構築があります。フランス語のラポール(rapport)は心理学用語であり、意思の疎通性を意味します。これまでに私自身は、患者さんや親御さんとのラポール形成で困ったことはありませんでした。過去に医療側とトラブルが多く問題であった患者さんや親御さんとも、腹を割って話し、ニーズに対応しつつ必要な医療を提供することで、良いラポールを築いてきました。ところが、ここにきて電話診療の難しさを感じています。電話では意思の疎通がより注意深く行われる必要があることが分かってきました。むしろ、これまで言語以外の表情やしぐさなどの情報にどれだけ頼ってきたのかを思い知らされました。医療者側がどれだけ患者さんのことを思っていても、電話では音声情報しかないため、言語化された情報の中からしか判断材料とならないのです。 

 

クレーマー、モンスターペアレントを作らないために 

経験が増えると、クレーム対応やむなしの場面に直面します。その時に大切なことは、クレーム対応の原則を守ることです。クレーム対応は、表のような流れで進めることが推奨されます1。私として新たな気づきであった点としては、クレーム対応へ備える②の段階で、「相手を罰してやろうと思っていないか?」という自問自答の項目です。つまり、そう思っている時点でクレーム対応への準備ができていないのです。その状態でそこから先に進んだとしても、対立しか残らないことは明らかです。「どうして私が一生懸命に子どもをよりよくなるように進めていこうとするのに、この親御さんは邪魔をするのだろうか。自分がやっていることがいかに邪魔をしているか、分からせてやりたい!」という考えが思考を広く支配してしまっていました。いま思えば、クレーム対応をしているつもりでも、火に油を注いでいました。 

子どもさんが、よりよい医療を受けられるために、心配のあまり口調が激しくなってしまった親御さんでも、クレーマーやモンスターペアレントにしてしまわないために、自分ができることをしていこうと思います。対応に困ったことをこの道30年の小児科部長さんに相談すると、はっはっはと笑われて器のでっかい話をされました。自分の伸びしろに気づかされます。 

 

対立の解決手順 

自問自答 

家族への声掛け 

1.対立に気づく 

自分は怒っているか? 

普段通りに対応できているか? 

 

2.対立の解決へ備える 

怒りで傾聴できなくなってはいないか? 

自分が正しいと独りよがりになってはいないか? 

相手を罰してやろうと思っていないか? 

 

  3つの側面を確認 

何があったのか? 

自分はどう感じているか? 

自らのアイデンティティを脅かしているか? 

 

  対立に向き合う 
 目的を明らかにする 

この対立を放置したらどうなるか? 

問題解決のこちらの目的は? 

 

3.相手への決めつけを避けて会話の糸口をつかむ 

第3者から見たらどう思うだろうか? 

今後どうなってほしいか、ゴールなどの全体像について話し合いませんか? 

4.感情ももつれを解きほぐす 

どうしたら協力が必要だと認め合えるか? 

自分vs相手の思考に陥っていないだろうか? 

相手の要望について、オウム返しをして確認する。 

5.共感する 

相手への気持ちへの理解を分かりやすく示しているだろうか? 

相手の感情に対する理解を言葉にして示す。 

6.双方のニーズを満たす選択肢を一緒に探す 

この選択肢は相手やこちらに良いだろうか? 

相手の要望を踏まえ選択肢を提示し、その良い点と悪い点について議論する。 

7.それでも解決しない場合は支援を求める 

交渉に役立つ助けはないか? 

中立的な第3者の介入を提案する。 

 

参考文献 

1.  Back AL, Arnold RM. Dealing with conflict in caring for the seriously ill: "it was just out of the question". JAMA. 2005 Mar 16;293(11):1374-81. doi: 10.1001/jama.293.11.1374. PMID: 15769971. 

就学前の親のサポートは一生もの

 イント

・子育て中の親は、子どもにサポートしてあげられる時間は限られている

・だからサポートしてあげられる時間だけは、ポジティブな声がけをする

・就学前に親から手厚いサポートを受けた子は、のちに海馬の能力が開花する

・就学後にいくらサポートしても、その修正はほとんどできない

 

 が家はいま、夏休み

 小学一年生の娘と、保育園に通う4歳と2歳、そしてつい先日生まれた新生児、彼ら四人の子どもと妻と私の六人家族です。妻の実家で夏休みのほとんどを過ごさせてもらっています。お義母さまには全く頭が上がりません。上げようと思ったこともありません。このままでは頭が土に埋まりそうですが、それも至極当然の事として受け入れております。

 夏休みには、小学一年生の娘にも宿題があります。彼女のおもな宿題は、算数と国語です。国語はまあまだ覚えることが主なので、自分からどんどんとやってくれて結構なのですが、算数は違います。算数は、思考の仕方を学ばねばならない分野なので、一手間かけねばなりません。教えていて、小学校の先生はすごいなあと感心します。どうやって、この真っ白な状態の子どもたちの頭の中に、あるべき思考の力を授けてくれているのか、不思議です。自分も通った道のはずですが、はるか遠い記憶をたどっても、ひたすら友達とサッカーをしていたことしか思い出せません。はて、どうやって足し算や引き算を覚えたのか。なんとなく、父親が夜仕事に帰ってきてから、どんぐりか石ころか、何かものを使って教えてくれていたような記憶が蘇ってきました。

 父はパン職人や医療事務など色んな職を転々としたのちに、私が物心ついたころには、自動車学校の教員をしていました。車の運転を教える先生です。エンジンの仕組みや、燃料がどうやってエネルギーを作り出すのか、どうやって車が動くのかなど、子どもながら面白く聞いていた覚えがあります。礼儀にとても厳しく、食事の時も米粒ひとつ残さず食べないと、めちゃくちゃ怒られる、そんな家庭でしたが、遊ぶ時は目一杯遊んでくれていました。

 

 数教えてたら娘が泣いた

 さて、そんな私もいまや父親となり、国民の義務である納税をしつつ我が子の教育にも精を出すという生活です。とりわけ教育に関しては、もっぱら初心者であり、我が子に教わることも多いです。

 今日は、小学校一年生の娘に足し算を教えていました。文章題で、2つの式を立てる必要のある、大人でも少し面倒な問題を2つ一緒に解きました。1つめでやり方を教えてあげて、2つめはほぼ自分で解けるようにしようと目論んでいましたが、2つめの途中でやる気がなくなったのか、途中でぼーっとし始めました。そのうちにウトウトし始めたので、

「お、これは、いわゆるやる気がない、という状態だな!あるいは昼寝したいのかな。」

と思って、

「そうかそうか、今日はここまでにしよう!本と鉛筆を片付けて明日やろう!」

と言うと、はっとした娘の目から涙がこぼれ始めました。すこし気持ちを落ち着かせて、理由を尋ねると、最後までやりたかった、とのこと。

(「ええ!?いま、ウトウトしとったやんか!どの口が言うとるんや!笑)

という気持ちを必死で堪えて、

「おお、そうか!それならやろう!」

と、2つめの課題を無事終えることができました。

このエピソードを経験して、親としてあるべき姿について(できるかどうかは別として

)考えました。どうやったら、子どもにとって良い親であることができるのか、子どもの発達を邪魔しないで促すことができるのか。

 

 親の態度は子どもの脳にどのような影響を与えるか

 虐待やネグレクトなどのマルトリートメントを受けた子どもでは、海馬の発達が障害され、反対に感情の中枢である扁桃体という領域が異常に大きくなるという変化が報告されていました1。このあたりは、福井大学の友田明美先生のご著書にも詳しいです。痛ましい虐待のニュースには耳を塞ぎたくなりますが、親として、小児科医として、逃げずに真正面から向き合う必要のある事実だと思います。そして、虐待してしまう親の多くは自分も虐待を受けたことがあるという事実にも、目を向ける必要があります。だからといって虐待する親を庇う訳ではありません。しかし、そういった事実から、虐待を防ぐための方法を学ばなければなりません。

 

 また、興味深いことに、就学前の親の子どもに対する支援的なサポートが、その後の子どもの発達、とくに記憶やストレス応答に重要な役割をもつ海馬という領域に大きな良い影響をもち、それは就学後には影響が小さくなることを、2016年にワシントン大学医学部精神科のグループが報告しています2。この論文では、親のサポートが支援的と判断する根拠として、子どもが課題に取り組んでいるときに、より多くの肯定的な表現を用いた声がけができていたか、励ましていたか、安心させられていたか、などが挙げられました。また、子どもが不安や動揺した様子であるときには、距離を縮めて抱きしめ、背中をさすってあげることも含まれました。

 

ってしまいそうなとき、まず抱きしめる

 個人的に、この論文から大きな学びになったことは、褒めるだけでなく、子どもが不安や動揺した時の態度として距離を縮めたり背中をさするなどの行為が有効であると、教えてもらえたことです。また、この方法は、思わず子どもを怒ってしまいそうになったときにも、むしろ親の気持ちを落ち着かせるためにも、良い方法ではないかと思いました。怒ってしまいそうなときにむしろ抱きしめる、相反する感情と行為なようですが、不要な叱責を避けるには十分な効果を持つのではないかと思います。今度からやってみようと思います。彼らの数年後あるいはその後一生ものの海馬の発達を祈念しつつ。

 

 ちなみに海馬という名前は、ギリシャ神話で海と地震の神であるポセイドン(Poseidon)が乗る半馬半魚(前半分が馬で、後半分が魚)のヒポカムポス(Hippokampos)の両前足に形が似ていることが由来とされます。魚類のタツノオトシゴも、ヒポカムポスに由来します。この記事を書くまで、恥ずかしながら、タツノオトシゴに形が似ているから脳の領域も海馬と呼ぶようになったと勘違いしていました。おお、恥ずかしや。

 

参考文献

  1. Bremner, J. D. et al. Magnetic resonance imaging-based measurement of hippocampal volume in posttraumatic stress disorder related to childhood physical and sexual abuse - A preliminary report. Biol. Psychiatry 41, 23–32 (1997).
  2. Luby, J. L., Belden, A., Harms, M. P., Tillman, R. & Barch, D. M. Preschool is a sensitive period for the influence of maternal support on the trajectory of hippocampal development. doi:10.1073/pnas.1601443113

 

こどもの脳へ及ぼす抗ヒスタミン薬の影響

身近な抗ヒスタミン薬はどんなもの?

 アトピー性皮膚炎をもつこどもさんに、抗ヒスタミン薬が月単位あるいは年単位で処方されているケースがよくある。小児科外来だけでなくプライベートでもよく遭遇する。先日も、友人のこどもさんで、アトピー性皮膚炎の痒みを抑えるために数か月単位で抗ヒスタミン薬を飲み続けているというエピソードを聞いた。風邪をひいてしまったときにもよく処方される身近な抗ヒスタミン薬は、どんな作用と副作用を持つのだろうか?どんなときに抗ヒスタミン薬が必要なのだろうか?改めて調べてみた。

 

ヒスタミンってなに?

 そもそもヒスタミンとは、生理活性物質のひとつであり、体のいろいろなところで働く。わかりやすいのは、アレルギー症状がでたときの皮膚の変化だ。皮膚はボコボコとまだらに盛り上がり、赤みと強い痒みを伴う。肥満細胞や好塩基球といった細胞から放出されたヒスタミンが、血管を広げ、知覚神経の感受性を強くするなどの作用を、アレルギーのときほど観察できる機会はない。一方で、脳などの中枢神経でもヒスタミンは活躍する。視床下部後部という脳の中心に近い場所で働き、覚醒の維持、集中力の維持、学習や記憶にも強く関わる。

 

 ヒスタミンは、こんな化学式で表される。これが細胞の受容体という受け皿に結合することで、上記の様ないろいろな作用を発揮する。抗ヒスタミン薬とは、この受容体をブロックし、そもそも細胞からヒスタミンが放出されることを邪魔する薬の総称である。

 抗ヒスタミン薬の副作用は、ヒスタミンの脳での働きを妨げることで起こる。つまり、覚醒の維持を妨げるので眠気が生じ、集中力の維持を妨げるので注意が散漫になる。他にも、てんかんや熱性けいれんの発生する頻度を増やし、持続時間を長くすることが知られている1ヒスタミンが働く神経細胞は異常な興奮を抑制する働きをもつ。それを妨げることで、異常な興奮をしてしまった神経細胞が、てんかんや熱性けいれんといった副作用をもたらす。

 

どんなときに抗ヒスタミン薬が必要なの?

 抗ヒスタミン薬が有効と考えられるのは、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギーとしての蕁麻疹である。つまり、それ以外の場合は、使用が勧められない。喘息の治療薬としても適応があるが、他の薬の効果の方が有効性で勝る2アトピー性皮膚炎のガイドラインでは使用は推奨されていない3。風邪症状の鼻水には、必要ない。そもそも風邪の多くは自然に治るので、先程述べた副作用に有効性が勝てないのだ。アメリカでは2008年ごろからドラッグストアでも子どもの風邪薬に抗ヒスタミン薬を入れてはいけないことになっている。日本ではいまだに抗ヒスタミン薬がしっかり入ったものが販売されている。小生を含めた、小児科医や薬剤師の怠慢であり、この内容が少しでも啓蒙になれば幸いである。

 

 お子さまに処方されたお薬の中に、抗ヒスタミン薬があるとき、その必要性について疑問があるときは主治医の先生に相談されると良い。きっと必要なければ処方から外れるだろうし、必要であればその説明があるはずだ。食事と同じ様に体に入るものなので、大切な子どもの口に入る前にしっかりと納得してから使うと良いだろう。

 

 ちなみに、魚アレルギーの一部は、魚そのものに対するアレルギー反応ではなく、腐敗が進む過程で産生されたヒスタミンを摂取することに起因する。東京都福祉保健局のサイトに詳細があるので、詳しくはそちらに譲る。

 

参考文献

  1. Yasuhara A, Ochi A, Harada Y, Kobayashi Y. Infantile spasms associated with a histamine H1 antagonist. Neuropediatrics. 1998;29(6):320-321. doi:10.1055/s-2007-973585
  2. Matterne U, Böhmer MM, Weisshaar E, Jupiter A, Carter B, Apfelbacher CJ. Oral H1 antihistamines as “add-on” therapy to topical treatment for eczema. Cochrane Database Syst Rev. 2019;2019(1). doi:10.1002/14651858.CD012167.pub2
  3. 公益社団法人日本皮膚科学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf. Accessed June 10, 2022.

先回りして除去すればアレルギーが予防できる?

正しいものはどれでしょうか?

  • 妊娠しているときに母親がある食物を除去すると、生まれてくる子どもがアレルギーになりにくい?
  • 授乳中の母親がある食物を除去すると、乳児がアレルギーになりにくい?
  • 離乳食である食物を除去すると、子どもがアレルギーになりにくい?

 

 

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Journal of Allergy and Clinical Immunology  Volume 137 Issue 4 Pages 998-1010 (April 2016) DOI: 10.1016/j.jaci.2016.02.005

 

 これらは、小児科の外来で聞かれることが多いアレルギーに関連するご質問だ。さて、ご覧いただいた皆様のお答えはいかがだろうか。医師、特に小児科医であっても、これらの質問に根拠をもって答えられる方がどのくらい居られるだろうか。もしも、かかりつのの小児科医にこれらの質問をして、患者さんの保護者である読者の皆様が満足のいく答えをお持ちであれば、その方は間違いなく日々勉強している。いい医者であり科学者なので、信頼して通うと良いと思う。

 

 答えはいずれも、バツである。つまり、先回りして特定の食物を除去することは、食物アレルギーの発症予防には全く効果がないことが、これまでの研究からわかっている1。むしろ、離乳食の早期から予防したい食物を積極的に摂取させる方法もある。鶏卵、ピーナッツでも同様の報告がある2, 3。小児科学のみならず医学全体でも世界最高峰の医学研究雑誌からもこれらの報告が世界中からなされている。

 

 現時点では、まだ日本においてアレルギーの予防で離乳食開始早期から鶏卵やピーナッツなどを与える方針は立っていない。しかし、将来的に離乳食のあり方が、この食物アレルギー予防の観点から、根本的に大きく変わる可能性がある。少なくとも、現時点では先回りして食物を除去する必要はない。

 

参考文献

  1. 高増 哲也. クラス2食物アレルギー. 小児科診療 78, (2015).
  2. Palmer, D. J., Sullivan, T. R., Gold, M. S., Prescott, S. L. & Makrides, M. Randomized controlled trial of early regular egg intake to prevent egg allergy. J. Allergy Clin. Immunol. 139, 1600-1607.e2 (2017).
  3. Du Toit, G. et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N. Engl. J. Med. 372, 803–813 (2015).

こどもがワクチンを打つときに暴れ回ります。どうしたら良いですか?

 

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https://www.irasutoya.com/2017/06/blog-post_183.html

 インフルエンザワクチンの季節になった。小児科医はこの時期大忙し。インフルエンザが悪化しないように、という願いを込めて子どもたちにワクチンをうつ。ワクチンを打つ前に暴れ回って仕方ない子どもさんが、ある一定の割合でおられる。そもそも、診察室に入れないお子さんもおられる。お母さんは困り果てて、そして疲れ果てる。看護師さんもついでに困り果てる。私はといえば、その様子を、細かく観察する。「この子は何が嫌なんだろうか。痛いのが嫌なのか、注射が怖いのか。」色々と思いをめぐらせる。大抵は、診察室での十分なお話と説明で、ある程度まで納得してくれてワクチン接種にこぎつける。

 

 先日、インフルエンザワクチンを打ちにきた5歳の女の子が、ワクチン嫌がって診察室の前で大暴れした。よく母から話を聞いてみると、小さなころに足のアザに対して皮膚科でレーザー治療をされたことがあり、そのときに無理やり処置されたことと痛みが記憶されていることが原因だろうとのことだった。数人の大人が寄ってたかってその子を抑えていたのだと母は言っていた。本人がそれだけ嫌がり暴れていると、針をさす医療行為は基本的にしない。本人だけでなく周りにも危害が及ぶ可能性があるためだ。ましてやこの子の記憶にさらなる悪い記憶が重ねられ心的外傷、いわゆるトラウマになってしまうことは避けなければならない。母と相談して、ワクチンをうたずに帰ってもらい、よく家で話し合ってもらうことにした。

 

 子どもでなくても大人でも針は怖い。痛いことは誰しも嫌だ。小児科医であり日々子どもに針を刺しまくっている(好きでやってるわけじゃない)私も、自分が刺されるとなれば正直嫌だ。ただし、子どもが嫌がるのは、単に痛みに対してだけでなく、多くの場合処置への恐怖に対する方が割合として大きいことが知られている1。痛いから、ではなく、多くの場合怖いから、なのである。また、男の子より女の子の方がその恐怖が強い2

 

 では、どうしたら良いのだろうか。それを知るには、子どものプレパレーション(心理的準備)に必要な手順について知るのが良い3。プレパレーションでは、処置や検査の必要性や具体的な流れを説明する。そのときに、痛みについても省略しないで事実として説明する。痛みや不安を子どもから聞いて、なるべく具体的にする。このときに大切なのが、対処法について子どもと一緒に考えることだ。このように、こんがらがった糸をほぐすように問題を分解してそれぞれに対処する方法をディストラクション(de:反対の、struction:組み立てる→分解する)という。カンガルー抱っこなどこどもが好む体勢をとるのも有効と考えられる。

 

 最近みつけたが、予防接種についてわかりやすくまとめられている。この動画を子どもとみるのもよいだろう。時間がどの動画も2、3分に収まるのも良い。

www.youtube.com

 

参考文献

  1. Hedén, L., von Essen, L. & Ljungman, G. Children’s self-reports of fear and pain levels during needle procedures. Nurs. Open 7, 376–382 (2020).
  2. McLenon, J. & Rogers, M. A. M. The fear of needles: A systematic review and meta-analysis. Journal of Advanced Nursing 75, 30–42 (2019).
  3. 作田和代、深澤一菜子 鎮痛・鎮静の際のプリパレーションやディストラクションの意義. 小児内科 521, 885–889 (2019).

 

なぜ赤ちゃんは何でも口に入れるのか?

Cute Baby. Portrait of an African American baby playing outdoors with a ball stock photos

https://www.dreamstime.com/stock-photo-cute-baby-portrait-african-american-playing-outdoors-ball-image47679463

 

 うちの末っ子は1歳半で、まさにいたずら真っ盛り。気がつくとお姉ちゃんたちのペンで壁や家具にお絵描きしている。そして、あらゆる手段を使って危険な高いところへ登って勝ち誇った表情で手にした私のお財布から、クレジットカードや身分証明書などを抜き取って簡単には探せないところへ隠してしまう。かわいいことに、いたずらしているときに自覚があるのか、見つかった瞬間に持っているものを放り投げて知らんぷりをする。

 

 彼はいたずらの名人であると同時に、味見の名人でもある。そのへんにコロがるあらゆるものの味を確かめる。おもちゃはもちろん、リモコン、携帯電話、鍵など、とにかく全部だ。小さくて飲み込んでしまうと、窒息しないかどうかいつも心配になる。幸いこれまでにそういった事件はないが、気をつけないといけないと思う。

 

 そうはいいつつも、彼ら赤ちゃんが、なぜいろんなものを口に運ぶのか、そして口の中で味わうようにして転がしているのか、気になったので調べてみた。

 

 赤ちゃんがものを口に入れる行為は、”mouthing behavior”と学術的に定義される。Mouthが日本語で「口」、behaviorが「行為」という意味なので極めて理解しやすい。日本語には当てはまるような既存の単語は、ないように思う。ここでは簡単にmouthingとする。Mouthingについての研究は、小児科学会雑誌の頂点であるPediatricsに2001年に登場した1。0歳から1歳半までが一番mouthingが観察される期間であることが分かった。ではそれがなぜなのかについては、まだ詳しくわかっていない。2004年の人類学者による研究によると、免疫学的な成熟を目指した目的のある行動ではないのかという推論がなされている2。つまり、幼いときにいろいろな抗原(つまりバイキンたち)を口に入れることで、将来感染症に罹患して重症化するリスクを回避しているのではないか、というものだ。だとしたら、赤ちゃんはとても賢く生存戦略を実行していると言える。

 

 ちなみに、人間同士が接吻(口と口のキス)をする理由は、これから伴侶となる可能性がある生物がもつ微生物(おおくはウイルス)などを口から取り入れることによって、相手がもつ感染症に罹患するリスクを抑えることができるとする報告がある3サイトメガロウイルスなどが、キスにより感染する病原体であることは、医療関係者にはよく知られた事実であることから考えて、この説はとても理にかなっている。

 

参考文献

  1. Juberg DR, Alfano K, Coughlin RJ, Thompson KM. An observational study of object mouthing behavior by young children. Pediatrics. 2001;107(1):135-142. doi:10.1542/peds.107.1.135
  2. Fessler DMT, Abrams ET. Infant mouthing behavior: The immunocalibration hypothesis. Med Hypotheses. 2004;63(6):925-932. doi:10.1016/j.mehy.2004.08.004
  3. Hendrie CA, Brewer G. Kissing as an evolutionary adaptation to protect against Human Cytomegalovirus-like teratogenesis. Med Hypotheses. 2010;74(2):222-224. doi:10.1016/j.mehy.2009.09.033

 

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初出掲載: 2020年 2月 15日