とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

就学前の親のサポートは一生もの

 イント

・子育て中の親は、子どもにサポートしてあげられる時間は限られている

・だからサポートしてあげられる時間だけは、ポジティブな声がけをする

・就学前に親から手厚いサポートを受けた子は、のちに海馬の能力が開花する

・就学後にいくらサポートしても、その修正はほとんどできない

 

 が家はいま、夏休み

 小学一年生の娘と、保育園に通う4歳と2歳、そしてつい先日生まれた新生児、彼ら四人の子どもと妻と私の六人家族です。妻の実家で夏休みのほとんどを過ごさせてもらっています。お義母さまには全く頭が上がりません。上げようと思ったこともありません。このままでは頭が土に埋まりそうですが、それも至極当然の事として受け入れております。

 夏休みには、小学一年生の娘にも宿題があります。彼女のおもな宿題は、算数と国語です。国語はまあまだ覚えることが主なので、自分からどんどんとやってくれて結構なのですが、算数は違います。算数は、思考の仕方を学ばねばならない分野なので、一手間かけねばなりません。教えていて、小学校の先生はすごいなあと感心します。どうやって、この真っ白な状態の子どもたちの頭の中に、あるべき思考の力を授けてくれているのか、不思議です。自分も通った道のはずですが、はるか遠い記憶をたどっても、ひたすら友達とサッカーをしていたことしか思い出せません。はて、どうやって足し算や引き算を覚えたのか。なんとなく、父親が夜仕事に帰ってきてから、どんぐりか石ころか、何かものを使って教えてくれていたような記憶が蘇ってきました。

 父はパン職人や医療事務など色んな職を転々としたのちに、私が物心ついたころには、自動車学校の教員をしていました。車の運転を教える先生です。エンジンの仕組みや、燃料がどうやってエネルギーを作り出すのか、どうやって車が動くのかなど、子どもながら面白く聞いていた覚えがあります。礼儀にとても厳しく、食事の時も米粒ひとつ残さず食べないと、めちゃくちゃ怒られる、そんな家庭でしたが、遊ぶ時は目一杯遊んでくれていました。

 

 数教えてたら娘が泣いた

 さて、そんな私もいまや父親となり、国民の義務である納税をしつつ我が子の教育にも精を出すという生活です。とりわけ教育に関しては、もっぱら初心者であり、我が子に教わることも多いです。

 今日は、小学校一年生の娘に足し算を教えていました。文章題で、2つの式を立てる必要のある、大人でも少し面倒な問題を2つ一緒に解きました。1つめでやり方を教えてあげて、2つめはほぼ自分で解けるようにしようと目論んでいましたが、2つめの途中でやる気がなくなったのか、途中でぼーっとし始めました。そのうちにウトウトし始めたので、

「お、これは、いわゆるやる気がない、という状態だな!あるいは昼寝したいのかな。」

と思って、

「そうかそうか、今日はここまでにしよう!本と鉛筆を片付けて明日やろう!」

と言うと、はっとした娘の目から涙がこぼれ始めました。すこし気持ちを落ち着かせて、理由を尋ねると、最後までやりたかった、とのこと。

(「ええ!?いま、ウトウトしとったやんか!どの口が言うとるんや!笑)

という気持ちを必死で堪えて、

「おお、そうか!それならやろう!」

と、2つめの課題を無事終えることができました。

このエピソードを経験して、親としてあるべき姿について(できるかどうかは別として

)考えました。どうやったら、子どもにとって良い親であることができるのか、子どもの発達を邪魔しないで促すことができるのか。

 

 親の態度は子どもの脳にどのような影響を与えるか

 虐待やネグレクトなどのマルトリートメントを受けた子どもでは、海馬の発達が障害され、反対に感情の中枢である扁桃体という領域が異常に大きくなるという変化が報告されていました1。このあたりは、福井大学の友田明美先生のご著書にも詳しいです。痛ましい虐待のニュースには耳を塞ぎたくなりますが、親として、小児科医として、逃げずに真正面から向き合う必要のある事実だと思います。そして、虐待してしまう親の多くは自分も虐待を受けたことがあるという事実にも、目を向ける必要があります。だからといって虐待する親を庇う訳ではありません。しかし、そういった事実から、虐待を防ぐための方法を学ばなければなりません。

 

 また、興味深いことに、就学前の親の子どもに対する支援的なサポートが、その後の子どもの発達、とくに記憶やストレス応答に重要な役割をもつ海馬という領域に大きな良い影響をもち、それは就学後には影響が小さくなることを、2016年にワシントン大学医学部精神科のグループが報告しています2。この論文では、親のサポートが支援的と判断する根拠として、子どもが課題に取り組んでいるときに、より多くの肯定的な表現を用いた声がけができていたか、励ましていたか、安心させられていたか、などが挙げられました。また、子どもが不安や動揺した様子であるときには、距離を縮めて抱きしめ、背中をさすってあげることも含まれました。

 

ってしまいそうなとき、まず抱きしめる

 個人的に、この論文から大きな学びになったことは、褒めるだけでなく、子どもが不安や動揺した時の態度として距離を縮めたり背中をさするなどの行為が有効であると、教えてもらえたことです。また、この方法は、思わず子どもを怒ってしまいそうになったときにも、むしろ親の気持ちを落ち着かせるためにも、良い方法ではないかと思いました。怒ってしまいそうなときにむしろ抱きしめる、相反する感情と行為なようですが、不要な叱責を避けるには十分な効果を持つのではないかと思います。今度からやってみようと思います。彼らの数年後あるいはその後一生ものの海馬の発達を祈念しつつ。

 

 ちなみに海馬という名前は、ギリシャ神話で海と地震の神であるポセイドン(Poseidon)が乗る半馬半魚(前半分が馬で、後半分が魚)のヒポカムポス(Hippokampos)の両前足に形が似ていることが由来とされます。魚類のタツノオトシゴも、ヒポカムポスに由来します。この記事を書くまで、恥ずかしながら、タツノオトシゴに形が似ているから脳の領域も海馬と呼ぶようになったと勘違いしていました。おお、恥ずかしや。

 

参考文献

  1. Bremner, J. D. et al. Magnetic resonance imaging-based measurement of hippocampal volume in posttraumatic stress disorder related to childhood physical and sexual abuse - A preliminary report. Biol. Psychiatry 41, 23–32 (1997).
  2. Luby, J. L., Belden, A., Harms, M. P., Tillman, R. & Barch, D. M. Preschool is a sensitive period for the influence of maternal support on the trajectory of hippocampal development. doi:10.1073/pnas.1601443113

 

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初出掲載: 2020年 2月 15日