身近な抗ヒスタミン薬はどんなもの?
アトピー性皮膚炎をもつこどもさんに、抗ヒスタミン薬が月単位あるいは年単位で処方されているケースがよくある。小児科外来だけでなくプライベートでもよく遭遇する。先日も、友人のこどもさんで、アトピー性皮膚炎の痒みを抑えるために数か月単位で抗ヒスタミン薬を飲み続けているというエピソードを聞いた。風邪をひいてしまったときにもよく処方される身近な抗ヒスタミン薬は、どんな作用と副作用を持つのだろうか?どんなときに抗ヒスタミン薬が必要なのだろうか?改めて調べてみた。
ヒスタミンってなに?
そもそもヒスタミンとは、生理活性物質のひとつであり、体のいろいろなところで働く。わかりやすいのは、アレルギー症状がでたときの皮膚の変化だ。皮膚はボコボコとまだらに盛り上がり、赤みと強い痒みを伴う。肥満細胞や好塩基球といった細胞から放出されたヒスタミンが、血管を広げ、知覚神経の感受性を強くするなどの作用を、アレルギーのときほど観察できる機会はない。一方で、脳などの中枢神経でもヒスタミンは活躍する。視床下部後部という脳の中心に近い場所で働き、覚醒の維持、集中力の維持、学習や記憶にも強く関わる。
ヒスタミンは、こんな化学式で表される。これが細胞の受容体という受け皿に結合することで、上記の様ないろいろな作用を発揮する。抗ヒスタミン薬とは、この受容体をブロックし、そもそも細胞からヒスタミンが放出されることを邪魔する薬の総称である。
抗ヒスタミン薬の副作用は、ヒスタミンの脳での働きを妨げることで起こる。つまり、覚醒の維持を妨げるので眠気が生じ、集中力の維持を妨げるので注意が散漫になる。他にも、てんかんや熱性けいれんの発生する頻度を増やし、持続時間を長くすることが知られている1。ヒスタミンが働く神経細胞は異常な興奮を抑制する働きをもつ。それを妨げることで、異常な興奮をしてしまった神経細胞が、てんかんや熱性けいれんといった副作用をもたらす。
どんなときに抗ヒスタミン薬が必要なの?
抗ヒスタミン薬が有効と考えられるのは、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギーとしての蕁麻疹である。つまり、それ以外の場合は、使用が勧められない。喘息の治療薬としても適応があるが、他の薬の効果の方が有効性で勝る2。アトピー性皮膚炎のガイドラインでは使用は推奨されていない3。風邪症状の鼻水には、必要ない。そもそも風邪の多くは自然に治るので、先程述べた副作用に有効性が勝てないのだ。アメリカでは2008年ごろからドラッグストアでも子どもの風邪薬に抗ヒスタミン薬を入れてはいけないことになっている。日本ではいまだに抗ヒスタミン薬がしっかり入ったものが販売されている。小生を含めた、小児科医や薬剤師の怠慢であり、この内容が少しでも啓蒙になれば幸いである。
お子さまに処方されたお薬の中に、抗ヒスタミン薬があるとき、その必要性について疑問があるときは主治医の先生に相談されると良い。きっと必要なければ処方から外れるだろうし、必要であればその説明があるはずだ。食事と同じ様に体に入るものなので、大切な子どもの口に入る前にしっかりと納得してから使うと良いだろう。
ちなみに、魚アレルギーの一部は、魚そのものに対するアレルギー反応ではなく、腐敗が進む過程で産生されたヒスタミンを摂取することに起因する。東京都福祉保健局のサイトに詳細があるので、詳しくはそちらに譲る。
参考文献
- Yasuhara A, Ochi A, Harada Y, Kobayashi Y. Infantile spasms associated with a histamine H1 antagonist. Neuropediatrics. 1998;29(6):320-321. doi:10.1055/s-2007-973585
- Matterne U, Böhmer MM, Weisshaar E, Jupiter A, Carter B, Apfelbacher CJ. Oral H1 antihistamines as “add-on” therapy to topical treatment for eczema. Cochrane Database Syst Rev. 2019;2019(1). doi:10.1002/14651858.CD012167.pub2
- 公益社団法人日本皮膚科学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf. Accessed June 10, 2022.