とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

“安心感” がこどもの心と身体の健全な発達を促す

 

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イント

  1. 愛着形成(アタッチメント)は、子どもが特定の養育者と一緒にいることで得られる、子どもの安心感のこと
  2. アタッチメント形成は子どもの脳の発達を促す
  3. 不適切な養育(マルトリートメント)によりアタッチメント形成は崩れ脳に影響を及ぼす

 

「この子、早産で低出生体重児だから発達に影響がでるかなあと思っていましたが、ご両親がとても熱心に育てておられるからか、まったく正常な発達です。逆に、体重や週数が十分でも、その後の養育がうまく行かないと、心身の発達に悪い影響があるケースをずいぶんたくさん経験してきましたねえ。あくまでも私の経験ですがね。」

 

記は私の尊敬する、当院のベテラン助産師さんのお言葉です。その助産師さんのお顔には、これまでたくさんの赤ちゃんの前で見せたであろう笑い皺がたくさんあります。その皺のことを言うと怒られそうですが、いいお顔だといつも思います。 私の勤務する病院の小児科では、妊娠30週前後、体重1000g前後の小さな新生児も誕生します。早く、そして小さく生まれざるを得ない理由は様々です。お母さん側の問題のこともあれば、赤ちゃんの問題のこともあります。いずれにしても分娩は人生の始まりであると同時に、最も生死の境目に近いイベントでもあり多くの危険を伴います。そのイベントを、より未熟な状態で迎える赤ちゃんの影響は、少なくありません。生まれてから状態が安定するまでは、お母さんはもちろん、医療スタッフは文字通りひとときも安心できません。また、状態が安定してからも大きくなるにつれて、発達に影響がでることもあります1。理由はさまざま提唱されていますが、呼吸不全による低酸素による脳障害の影響や、採血などによる頻回の痛み刺激で分泌が促進される副腎皮質ホルモンの脳への影響などが知られています。

 

方で、養育者と子の間に愛着形成(アタッチメント)が構築されることで、脳の健全な発達が促されます。愛着形成(アタッチメント)とは、子どもと特定の養育者の間に形成される情緒的な強い結びつきと定義されています。言葉で説明すると、大変難しい印象を受けてしまいますが、要するに子どもが養育者と一緒にいることで、心身ともに安全だと心から思える状態にあることを指します。

 

よそ生後1歳の時点での母親に対する児のアタッチメント安定性と、10歳ごろの脳灰白質の量を調べたところ、アタッチメント安定性が高いほど社会認知や情動に関わる脳部分がより発達していたそうです2。また、アタッチメント形成不全が子どもの報酬回路にも影響を及ぼすことも分かっています3。つまり、お小遣いをもらえた際の喜びの度合いが、アタッチメント形成が健全な子どもほど高かったという研究です。これは子どもの脳科学分野で多大な貢献をされておられる福井大学の友田明美教授のお仕事です。

 

うした研究の多くが、正常でない場合における研究結果です。正期産に比べて早産、アタッチメント形成良好に対して形成不全。アタッチメントは虐待やネグレクトなどの不適切な養育(マルトリートメント)によって簡単に崩れます。マル=良くない、トリートメント=扱い、つまりマルトリートメントで良くない扱いを指します。これからは、アタッチメント形成不全をより減らしていき、より良いアタッチメント形成について研究が進み社会に還元されるよう私自身頑張りたいと思いますし、世の中がそう進むよう祈念します。

 

  1. Asami, M. et al. Intellectual outcomes of extremely preterm infants at school age. Pediatr. Int. (2017). doi:10.1111/ped.13215
  2. Leblanc, É., Dégeilh, F., Daneault, V., Beauchamp, M. H. & Bernier, A. Attachment security in infancy: A preliminary study of prospective links to brain morphometry in late childhood. Front. Psychol. (2017). doi:10.3389/fpsyg.2017.02141
  3. Takiguchi, S. et al. Ventral striatum dysfunction in children and adolescents with reactive attachment disorder: functional MRI study. BJPsych Open 1, 121–128 (2015).

さいごに

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初出掲載: 2020年 2月 15日