ポイント
- 虐待で正常発達から逸脱し成人以降の脳機能、行動レベルの精神疾患リスクが増大
- 一方で、親の愛情や温かみを反映した子育てが脳の発達を促すことがわかってきた
- 褒められた子ほど後部島皮質という領域での活動性が高く、自分の感情や相手の感情を理解する能力が高い
褒められると嬉しいし、怒られると嫌。小さな子どもでも、大きな大人でも変わらぬ事実です。以前、NICUの助産師さんのお話で、愛情深い母親に育てられた早産あるいは低出生体重児は、そうでない子に比べて発達障害などなくすくすく大きくなる気がする、というお話をしました。それを脳科学の知見から支持する研究がありましたので、記しておくこととします。
1990年代の終わり頃から、健常小児を対象とする脳の形態研究が急速に発達してきました。MRI(magnetic resonance imaging、核磁気共鳴画像)の開発が進んだことが大きく関与しています。MRIは、生体を構成する水素原子に対して高いエネルギーで磁場をかけ、原子そのものが持つ磁性を揃えそれを開放するときに発散されるエネルギーを捉え可視化することで得られる信号を可視化する画像技術です。要するに、磁石で体の中をみるということです。このMRIを使った研究が数多く行われてきましたが、2016年に東北大学から発表された論文はとても興味深いです1。著者らは5歳から18歳の225名の健常小児を対象にして、親がどれだけ日頃から褒めているか、あるいは褒める意識を持っているかを調べました。また、それが子どもの脳の構造にどのような影響を及ぼしているかを調べました。結果は、褒められた子どもほど、島皮質の後ろ側が発達していることがわかりました。島皮質とは、自分の体の感覚を司る領域でもあり、相手の感情を汲み取る領域でもあります2。自分の体の感覚とは、脈が早いとか遅いとか、呼吸が早いとか遅いとかです。それらの生理状態は感情に大きく左右されるため、自身の感情とのつながりはもちろんのこと、相手の感情を理解する上でも働くことがわかっています3。著者らは、褒めることが子どもの発達に対して必ずポジティブな影響を与えるのかどうかは、現時点で明確ではないため今後の研究が待たれるとしていますが、少なくとも褒めることで子どもの後部島皮質が大きくなり活動性が増えることは事実であり、子どもの能力を開花させる方法の一つである可能性があると言えます。
今度から子どもを褒めるときには、「あ、いま島皮質がバシバシ活動してるな!」と、見えない脳の活動に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
島皮質って、どこやねん!とお思いになられた方、すばらしい探究心です。ここですよ、ここ。脳みその、ちいさなおててをはぐった内側のところです。
- Matsudaira, I. et al. Parental Praise Correlates with Posterior Insular Cortex Gray Matter Volume in Children and Adolescents. PLoS One 11, e0154220 (2016).
- 永井道明, 岸浩一郎 & 加藤敏. 大脳皮質島葉の構造と諸機能--最近の研究の展望. Adv. Res. Nerv. Syst. 46, 157–174 (2002).
- Terasawa, Y., Moriguchi, Y., Tochizawa, S. & Umeda, S. Interoceptive sensitivity predicts sensitivity to the emotions of others. Cogn. Emot.28, 1435–1448 (2014).
さいごに
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