ポイント
- 脳の働きの特性により生じる困り感が”生きにくさ”へとつながる場合に、神経発達症(発達障害)と診断されることがある。
- 発達障害と神経発達症が同じ意味で用いられることが多いが厳密には異なる。
- 今後は障害としてではなく神経学的多様性の一部として、神経発達症に統一される。
発達障害?神経発達症?
コミュニケーションがとれない。落ち着きがない。読んだり書いたりできない。
そういった特徴の相談は、小児科外来で最も多い相談内容のひとつです。これまで、発達障害という病名がメディアや書籍などで取り上げられ、社会的な認知が進みました。慣れ親しんだ発達障害という病名の後を追うように、神経発達症という病名を最近は多く見かけるようになりました。
この病名の変化を、医師でさえきちんと説明することは難しいです。文部科学省の発達障害についてのページをみると、いっぱいPDFリンクが貼ってあり除くだけでうんざりしました。とても読む気になれません。
一方で、塩野義製薬のページは見やすく大変参考になりました。この記事ではそういった内容を参考にまとめてみました。
そもそも、発達障害や神経発達症という言葉はどこから来た?
世界での歴史的な背景としては、1902年にGeorge Frederick Still博士が、1940年代にはLeo KannerやHans Aspergerが自閉症について記述しました。1980年台のDSM-3、1990年台のDSM-4を経て(DSM:アメリカ精神医学学会の診断マニュアル)、広汎性発達障害とADHDとLDが発達障害としてまとめらました。2013年にDSM-5で神経発達症 Neurodevelopmental disorder として、自閉スペクトラム症とADHDと限局性学習障害の3つに改めて分類されました。
このDSM分類の変遷の間に、日本でも重要な動きがありました。2005年(平成17年)4月1日施行された発達障害者支援法は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害などの発達障害を持つ者に対する援助等について定めた法律です。この法をきっかけにして、発達障害という言葉が広く認知されるようになりました。日本の保険医療では病名はICDというWHOが主導する国際疾患分類が採用されており、そこではまだ発達障害という病名で登録されています。
疾患の分類や病名もまだまだ変わりうる
神経発達症の分野は未知のことが多いです。日本では特にまだわかっていないことがたくさんあります。例えば、私がいま研究に取り組んでいる限局性学習障害の原因となる遺伝子の変化については、これまで調べられた内容はごくわずかです。アメリカやヨーロッパの国々で分かっている遺伝子の変化が、日本でどうなのかさえ、まだほとんど調べられてもいません。疾患の分類や病名なども、これからより洗練されていくことが予想されます。我々小児科医や神経学者に残された仕事はいっぱいあります。
個人の弱みと強み
神経発達症の学問はまだまだこれからという内容を記しました。とはいえ、だから神経発達症の方々がよりよい人生が送れないのかというと、そう単純ではないと思います。発明王のエジソン、昆虫学者のファーブル、物理学者のアインシュタインはみなADHDだったといわれます。ほかにも過去の記事では神経発達症を持ちながらも、その特性を持っていたからこそ誰にも負けないくらい楽しい人生を送ったひとたちがいることを紹介しております。
もしかしたら弱みは強みと表裏一体なのかもしれません。弱みを強みに変えることは、難しいようで、じつはそのチャンスは身近にあるような気もしています。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の学習障害研究センターでは、紹介ページのこのようなかっこいい文章で始めています。見習いたいものです。
The mission of the UCSF Dyslexia Center is to eliminate the debilitating effects of developmental dyslexia while preserving and even enhancing the relative strengths of each individual.
” UCSFディスレクシア・センターの使命は、発達性ディスレクシアの障害を取り除くと同時に、各個人の長所を相対的に維持し、さらに向上させることである。”