とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

たくましい人間に育てるには

 

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https://www.dreamstime.com/royalty-free-stock-photography-red-bonsai-tree-image13633227

 

娘の涙とたくましさ

家族五人で夕飯を食べている時のこと。

「保育園で、お友達が意地悪したの。」と、5歳娘が目に涙を溜めながら話し始めた。詳しく聞くと、ごっこ遊びで今流行りのアニメについて娘があまり知らなかったことで、仲間に入り損ねたそう。おさるのジョージや、ひつじのショーンをよく家族で見るが、それ以外は確かにあまり見たことはない。流行りのアニメも一緒に見た方がいいのかなと思った。しかし、娘はそのアニメがあまり好きではないようなので、それならそのアニメごっこには仲間に入れなくても良いだろうと、娘と話した。

 

義務教育の間はもちろん、大人になってからも、こうした人間同士には多少のすれ違いやトラブルは必ずある。そうしたときに自分の考えを曲げてまで、トラブルが起こらないように周囲に迎合することがどれだけ危険かは、迎合したことがある方はよくお分かりだろう。わざわざトラブルを起こす必要もないが、育った環境が違う人間同士で全くストレスなく過ごせることの方が不思議である。そうした大なり小なりのぶつかり合いの中で、人間性は磨かれる。

 

たくましさの学問

レジリエンスという心理学用語がある。これは、逆境におかれたときに適応することや、そこから立ち直ることを指す。逆境とは、虐待、貧困、身体的ハンディキャップ、依存症などの状態を指す。いわゆる、たくましさ(あるいは、したたかさ)と同じ概念だ。そういったネガティブな状況に適応して、そこから立ち直ることは容易でない。それが子どもならなおさらである。特に、子どもの場合、逆境におかれたときにそこから立ち直るために必要な大切な要素の一つに、ある条件を満たした成人の存在が不可欠である1。その条件は、社会的に認められた立場にあり、問題解決能力に長けていることである。学校教員や、養護教諭、小児科医などがこうした条件を満たす成人とならなければならない。いくつか目を通したレジリエンスについての論文には、こうした成人は competent ”優秀”である必要があるとか、perceived efficacy valued by self and society "社会的に認められた立場"である必要があると書かれている。 確かにそれも大事かもしれないが、何度でもいつでも支える覚悟を持ったカッコいい大人であれば事足りるのではないかと、個人的には思う。一言でいえば、"見捨てない"。

 

良い子でいることが、たくましいわけではない

最近は育児について記された本がたくさんある。その中でも、レジリエンスという言葉について書かれたものも多い。多くのそうした本ではレジリエンスという言葉が望ましいものとして捉えられているが、実際はそうではない。レジリエンスの中には、社会に適合した形のものだけでなく、その状況から逃げること、人を騙したりするずる賢さなどの社会に適合しない形のものもある1, 2。これは大切なことで、辛い状況におかれた子どもが好ましくない特性を獲得してしまうこともレジリエンスの一つなのだ。大人が扱いやすいように育てることが子育てではない。その子が持つ特性を尊重し、それに合わせてサポートするのが最も求められる姿勢であり衝突の少ないやり方であろう。自分の娘や息子には人に嘘をついては欲しくないが、したたかさを誠実さに兼ね備えてほしいと思う。

 

私は盆栽が好きではない。その松が大きく育ちたいのに小さな鉢で小さくまとまらせたり、枝が自由に伸びていく方向を勝手に違う方向に曲げてみたり。自然は誰かを満足させるためにあるのではない。人間もしかりだと思う。親や学校の先生が子どもを扱いやすいように変えてしまうのではなく、それぞれの特性を見極め尊重しサポートすると良いだろう。扱いにくいのは、特性を理解していないからであることが、多くある。

 

 

 

参考文献

  1. Hornor G. Resilience. J Pediatr Heal Care. 2017;31(3):384-390. doi:10.1016/J.PEDHC.2016.09.005
  2. Masten AS, Best KM, Garmezy N. Resilience and development: Contributions from the study of children who overcome adversity. Dev Psychopathol. 1990;2(4):425-444. doi:10.1017/S0954579400005812

 

ADHD児の運動と脳発達

 

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https://www.gettyimages.co.jp/%E5%86%99%E7%9C%9F/swimming

 

 中学生の時は、部活が楽しみで仕方がなかった。夕方まで気乗りのしない授業を受けるために、座りっぱなし。休憩時間には、めいっぱい時間を使って教室の後ろで遊んでいたが、体力の余った中学生にはそれでは不十分だった。なまった体を動かせる、放課後のソフトテニス部の練習が楽しみだった。あれこれといろんなこと(将来の不安、命、家族など)を考えて、方向性の定まらない思考が、走ったりボールを追いかけるうちに段々とスッキリするのが、爽快だった。

運動が子どもたち、あるいは私たちの脳に与える影響について調べてみた。

 

 これまで動物実験では、運動が脳機能や行動の発達に良い影響を与えることがすでに分かっていた1。しかし、ADHD児においてそれはまだ証明されていなかった。そこで、ADHDの11-14歳男女を、8週間で48時間の水泳トレーニングをしたグループ18人と、そうでないグループ15人を比較した2。結果は、抑うつ傾向、不注意、認知機能、運動機能がそれぞれ明らかに改善したことが示された。

 

 哲学者の西田幾多郎先生は、人間の善について研究された権威だが、彼は思考が煮詰まると京都の若王子神社から銀閣寺への2kmほどの小道をよく散歩されていたそうである。今ではその道は「思索の小径(こみち)」と呼ばれる。今回はADHD児の運動と脳についての研究を取り上げたが、ADHD児に関わらず運動は我々の思考に良い影響を与えるようである。

https://souda-kyoto.jp/guide/spot/tetsugakunomichi.html

 

 最近は子どもたちを保育園に送り届ける前に、近所の公園に寄り道して、娘2人を遊ばせながら自分は鉄棒などで筋トレを試みている。変な人だと多分、公園を通るみんなに思われているだろうことは、気にしない!

 

 

参考文献

  1. Halperin JM, Berwid OG, O’neill S. Healthy Body, Healthy Mind? The Effectiveness of Physical Activity to Treat ADHD in Children. Child Adolesc Psychiatr Clin N Am. 2014;23:899-936. doi:10.1016/j.chc.2014.05.005
  2. Silva LA Da, Doyenart R, Henrique Salvan P, et al. Swimming training improves mental health parameters, cognition and motor coordination in children with Attention Deficit Hyperactivity Disorder. Int J Environ Health Res. 2020;30(5):584-592. doi:10.1080/09603123.2019.1612041

 

ブロックを踏ん付け続けるかどうか、それが問題だ

 

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https://www.britannica.com/topic/LEGO#/media/1/1118959/198273

廊下に出ていたおもちゃを仕舞おうと子ども部屋に入ったら、罠にはまった。小さなブロックがカーペットに撒き散らされていたのを、暗くて見逃したが運の尽き。右足の土踏まずあたりにその一つがめり込み、「お!おお!ううーっ」と数秒唸る羽目になった。とても痛かった。片付けない子どもに腹が立ったので、どうやったら子どもが片付けが上手になるか調べることにした。

 

「お片付け」と聞いて、我々大人はどう感じるだろう。日本人の多くは、嫌なものとして捉えるだろう。やらなきゃいけないこととか、好き勝手に遊んだ後の代償のようだ。もし子どものお片付けがが、親である私たちの意識を変えることで上手になるとしたらどうだろう。少なくとも私は、もう二度とあんな痛い思いをしたくない。

 

日本と台湾、それにアメリカの子どもたちや教師が「片付け」をどのように行なっているか、そして「片付け」をどのように捉えているかを調べた研究がある1。(いろんな研究があるもんだ、と感心した。)

日本の子どもは「片付け」により教師と争いを生じがちな傾向があるという2。また、日本では「片付け」の時間を子どもに知らせるときには、単に口頭で「さあ、掃除ですよー!」と伝えられる。自分の使ったものだけを片付けるという文化も日本に特徴的だそうだ。

一方で、アメリカのある小学校では、「片付け」は次の授業あるいはイベントに移行するために必要なステップと考えられている。教師はリラックスしてそれをベルや音楽、照明を消すなどの方法で「片付け」の時間が来たことを知らせる。また、「片付け」ができなかったら●●といった罰の設定もしない。台湾の子どもたちが、片付ける理由について、部屋を綺麗にするためという理由の他に、つまづいたりしないように安全を保つためと回答した点が他の国の子どもたちの考え方が異なっていた。また、台湾の子どもは他の国の子どもよりも協力して片付けることに長けていた。

この論文では、「片付け」に対してどのような印象を持っているか、どのような意味を持つのかについて、子どもと話し合う時間をもつことの大切さについても書かれていた。

 

確かに、「片付け」を遊んだ代償のように私自身が捉えていたし、「お片付けできなかったら、公園行かないからね!」と言ってしまっていた。

「片付けたら、次は●●しよう!」と伝えて、次のイベントのステップとして子どもに理解させたり、テーマソングを決めてその音楽の間は他のことをしないでお片付けするといった工夫ができるかもしれない。それに加えて、子どものお片付けに対する認識を、落ち着いた環境で話し合てみるのもいいだろう。

 

小児科専門医試験の勉強をしながら子どものお片付けの論文を探していたら、夜がすっかり更けてしまった。妻と子どもたちが副賞でもらってきてくれたワインを一口だけ飲んで、もう寝てしまおう。

 

  1. Izumi-Taylor S, Ito Y, Lin CH, Akita K. A comparative study of American, Japanese, and Taiwanese early childhood teachers’ perceptions of clean-up time. Res Comp Int Educ. 2017;12(2):231-242. doi:10.1177/1745499917712610
  2. Hashimoto Y, Ikemori A, Toda Y. The Distribution of Clean-Up Jobs in Japanese Kindergarten Classrooms: An Exploratory Study of Young Children’s Views on Sharing Work Responsibilities. Asia-Pacific J Res Early Child Educ. 2012;6(May 2016):141-159. 

 

学習机が充実していると学業が捗る?

 下っ端小児科医は、いつの時代も病棟医をして経験を積む。病棟医をしていると、当然だが病気の子どものお母さんと会話することが多い。その時に、我が子が3人いると、話題に事欠かないことも、父親小児科医の特権かもしれない。お母さん方からは、いつも貴重な質問や意見をいただく。病気のことはもちろん、子育てに関する質問も多く受けるものだ。最近意外に多いのは、「先生の子どもさんが、もしYouTuberになりたいと言い始めたらどうしますか?」という質問だ。

 

 私の答えはいつも決まっている。「全然いいと思いますよ。」

「ただし、(ここからいつも長いです笑)

日本国民の義務を果たせない状態になるのは、僕が良い悪いというより、社会に生きる1人の人間として生きづらいでしょう。YouTuberという職業自体が、人生を通して仕事として成り立つ可能性が十分に高くないと思われるので、いつの時代にも必要とされるスキルを身に付けておくと良いと伝えます。それは国家資格かもしれないですし、特殊技術かもしれません。いずれにしても、教育、勤労、納税のどれも必ず国民として果たせることが、やりたいことを突き詰めるための必要最低条件です。」

文字にしてみて、改めて自分のクドさに驚いた。毎回こんな説明をしてお母さんにお口あんぐりされる私はきっとメンドクサイひとなのだ。

 

私が尊敬するYouTuberは何人もいるが、その一人が Casey Neistat さん。彼の編集技術や、音楽のセンス、考え方は、とても自由で人間的だ。いい小説を読んだ時のように、ハッとさせられることがたくさんあるので、よく動画を見ている。彼の作業部屋がとても好きだ。自由で、綺麗で、何より機能的です。それに習って、子どもたちの勉強机を日曜大工で改良してみた。我ながらいい出来だと思っている。

 

www.youtube.com

 

 子どもたちの学習机の環境は、学業に影響を与える。その一例をお示しする。学習机が体の大きさに合わせて調整できると、学業成績に良い影響を与える1。答えは当たり前のようだが、どのような条件でどのような結果が導かれているのかを知ることはとても大切。2016年にブラジルで行われた研究で、机と椅子の高さを固定されたグループと、体の大きさに合わせて高さを調節できるグループに分けた(下図)。簡単な図形をどちらが上手に描けるかという課題を6歳前後の子どもにしてもらって、その作業の正確さや速さを比べた。結果は、調節できる机と椅子で作業したグループの方が、もう一方のグループに比べて時間はかかったが、作業はより正確だった。筆者らは、この差は学業成績に大きく影響するだろうと結論づけた。

 

 

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Fig. 2 

School desks: a fixed and b adjustable

 

 また、これも面白い着眼点だが、学習机や椅子は軽い方が良く、年齢や体格に応じて適正な大きさと重さのものが良いそう2。これまた当たり前のような結果だが、こうしてきちんと比較して論じて、何より英語でまとめることで人類共通の知恵として活用される。

 

 子どもに勉強ができるようになって欲しいと思う親は、自分が子どもだったら嫌だなあと思う。なので、子どもにはあまり期待せずに居ようとは心がけている。ところが、心のどこかで期待してしまうのは、なかなか抗えない親心か。言葉でその期待を直接伝えるのはかなりウザい親(だと自分だったら思う)なので、その抑えきれない気持ちを子どもの環境を整えることに注ぎ込もう。

 

それにしても今日の外勤先の小児科診察室は暖房が効きすぎていて暑い。窓を開けよう。

 

参考文献

  1. Gimenez R, do Nascimento Soares R, Ojeda VV, Makida-Dionísio C, Manoel E de J. The role of school desk on the learning of graphic skills in early childhood education in Brazil. Springerplus. 2016;5(1):1120. doi:10.1186/S40064-016-2554-1
  2. Purwaningrum L, Funatsu K, Xiong J, Rosyidi CN, Muraki S. Effect of Furniture Weight on Carrying, Lifting, and Turning of Chairs and Desks among Elementary School Children. PLoS One. 2015;10(6). doi:10.1371/JOURNAL.PONE.0128843

 

読み聞かせは動画に勝る

こびとのくつや (はじめての世界名作えほん)

 

 小さい頃は、寝る前に母親によく絵本を読んでもらっていた。私と3つ下の弟はいつも8時には床について1時間かそこらで絵本を読んでもらいながら寝てしまうのが日常だった。父親は仕事から帰るのが遅かったので、9時ごろに私たち兄弟が寝た後にご飯を食べてからお風呂に入って寝ていた。時々物音で起きて、寝室から空いた戸の隙間から父の仕事帰りの姿を見ていた。朝は早く出かけて、夜遅くに帰ってくる父親には絵本を読んでもらった記憶はない。今から30年も前の話だから、父親が育児に携わることに今ほど皆関心がなかったのだと思う。母に読んでもらう、『小人の靴屋』が好きだった。詳しいストーリーは思い出せないけど、小人が作り上げていく革靴のあの絵のテイストも好きだったし、何より話を聞いている時に湧き上がってくるなんとも言えない、何度読んでもらってもワクワクする感覚は今でも楽しくなる。

 

 便利なもので、今ではYouTubeに読み聞かせ動画がいくつもある。合法かどうかさておき、日本昔ばなしのエピソードもいくつか見かけた。これは良いと思って、部屋でスクリーンに映してその動画を見せていた時期もあった。スクリーンのセットアップが面倒で、光の影響なのか動画を見せてもなかなか子どもが寝つかないのでやめてしまった。いまは図書館で借りてきた絵本を、子どもたちに読み聞かせる。どうやら、動画よりも、直接本を読んであげる読み聞かせの方が、子どもたちの能力を開花させるには良いらしい1。5さい前後の子どもたちを、動画を見せたグループと読み聞かせをしたグループに分けたところ、課題遂行能力も言語能力も後者の方が優った。著者らによると、人と人との直接な関わり合いがもたらす効果だと言う。興味深いことに、他の研究だが、読み聞かせ中に親がスマホをチラ見すると、読み聞かせの質が明らかに低下する2。それによってせっかく活性化していた子どもの左脳(言語、感情、ワーキングメモリー)の働きが低下する。

 

 人工知能が昇竜の勢いで世を席巻するのを目の当たりにして、困惑しながらもデジタルデバイスと共存する道を模索する人類は、やはり人間同士のつながりを無くしてしまっては発展もできないだろうし結局のところ生きていけないのだろうという私の直感的な想いが、研究結果として示してくれたようで安心した。と同時に、仕事で疲れたという言い訳で読み聞かせをサボるのは勿体無いと思うようになった。

 

 それにしても、上記の研究は2019年にイスラエル工科大学で行われた研究であることも私の心を打った。この研究施設があるのは、イスラエルパレスチナの戦禍にあるガザ地区に程近いHaifa(ハイファ)という街だ。

neuroimaging-center.technion.ac.il

研究者自身が命の危険にさらされながらも、次世代の子どもたちのより健やかな命のために永久不滅の真理に迫ろうとする姿勢は、尊敬に値する。世界で最も安全な国の一つであろう日本にあって、どうして彼らと志を同じくする私たちができないことがあるだろう。今回の読み聞かせのテーマとは少し外れたところでも、胸が熱くなった。

 

参考文献

  1. Twait E, Farah R, Shamir N, Horowitz-Kraus T. Dialogic reading vs screen exposure intervention is related to increased cognitive control in preschool-age children. Acta Paediatr. 2019;108(11):1993-2000. doi:10.1111/APA.14841
  2. Hutton JS, Phelan K, Horowitz-Kraus T, et al. Shared Reading Quality and Brain Activation during Story Listening in Preschool-Age Children. J Pediatr. 2017;191:204-211.e1. doi:10.1016/J.JPEDS.2017.08.037

 

ピアノが弾けると頭が良くなる!?

 

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金曜ドラマコウノドリ平和の鳩公式twitterより。

https://twitter.com/kounodori_tbs/status/657527305347010560

 

私が小学生のとき、色白で気品のあるあだちくんという男の子が同級生にいた。あだちくんは、勉強もできて、ピアノもできた。小学校では筆算や掛け算に苦労し、音楽なんて音符も読めずに特に苦労した私からすると、あだちくんは雲の上のような存在だった。ピアノを伸びた背筋で上手に優しく弾く姿は、女の子でなくても憧れてしまう光景だった。

 

あだちくんしかり、ピアノを習っている同級生はみな勉強ができた。ピアノを練習すると、頭も良くなるのかと、おじさんになった今、娘のピアノを練習する姿をみてふと思った。

 

結論からは、ピアノを練習するだけでは、認知機能は向上しないし学業成績が良くなったりもしない1。手先が器用になったり、利き手がより早く決まったりする効果はあるようだ2。うーむ。予想が外れた。ピアノを習うことで勉強ができていたのではなく、ピアノを習う子は他の勉強の習い事もしていたから、勉強もできたのだろうと、おじさんは20年以上を経てあのとき教室で感じた羨望の的を科学的に理解したのであった。

 

ちなみにおじさんはピアノも弾けないし、他の楽器もロクに奏でられない。音楽ができたら人生がもっと豊かだろうなあと、娘や息子には、音楽のひとつやふたつ身につけてほしいと思う今日このごろである。それにしても今日は、11月初旬の夜にしては寒い。

 

参考文献

  1. Sala G, Gobet F. Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Mem Cognit. 2020;48(8):1429. doi:10.3758/S13421-020-01060-2
  2. Tseng YT, Chen FC, Tsai CL, Konczak J. Upper limb proprioception and fine motor function in young pianists. Hum Mov Sci. 2021;75. doi:10.1016/J.HUMOV.2020.102748

 

赤ちゃんの味覚は、どのように発達するの?

 

ポイント

  1. 赤ちゃんはお腹にいるときから味を感じる
  2. 新生児でもすでに甘い味を好み、苦い味を嫌う
  3. 味覚は生後3〜5か月で一旦鈍くなる

 

激辛ブームが我が家にも

もうすぐ4歳になる次女のサクラは、なんにでも興味津々。お父さんやお母さんであるわたしたちが、ここ最近の激辛ブームにのっかって、自宅で激辛ラーメンを「これは辛い!」「これは辛くない!」「これは辛旨い!」などと騒いでいると、彼女は敏感にその楽しそうな雰囲気を察知する。夕食後にお姉ちゃんと遊んでいたことも一旦やめて、食卓に近寄ってくる。「わたしもたべたい!」とサクラ。とんでもなく辛いラーメンは可愛そうなので、少し辛い日清の旨辛ラーメンの麺をほんの数ミリお口に放り込んだ。辛くて騒ぎ回るだろうなとの予想通り、舌を出してしきりに水を飲んでいた。

「ほうら、だから辛いっていったでしょう。」と私はイタズラっぽく彼女にいう。すると、失敗にへこたれない(学習しない笑)遺伝子を私から受け継いだ彼女はおかわりをねだるが、妻にとめられてようやく激辛トライゲームが終わった。

 

赤ちゃんはお腹にいるときから味を感じる

子どもの、とくに赤ちゃんの味覚はどのように発達するのだろうか。驚くべきことに、赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいるときから味を感じている。在胎7,8週ごろには味蕾が形作られ、在胎12〜15週ごろには味孔という味蕾の受容体が集まる部分が完成する1。その頃にはグルコースや乳酸、アミノ酸で満ちた羊水を口から飲み込むようになり、そのときに味を感じている。

そもそも味は、舌にある味蕾という細胞の塊にある受容体によって認識され脳に伝えられる。味には5種類あり、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味が知られている。甘味は、糖質などのエネルギー源として好ましい味として認識される。塩味や酸味は、腐敗したものや未熟な果実のように嫌な味として認識される。苦味は、毒物として同じく嫌な味として認識される。旨味は、タンパク質のシグナルとして好ましい味として認識される。

 

赤ちゃんは時期によって脳の違う部位で味を感じる

興味深いことに、味覚は生後3〜5ヶ月で一度鈍くなることが知られている2。正確には、味を感じる脳の部位が移行する期間が存在するためであると考えられている。つまり、生後まもない時期は味を脳のより根幹の部分で感じて(これを反射という)おり、脳の発達が進むと大脳皮質という脳のより表面部分で感じる(これを感覚という)ようになる。

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味覚と痛覚

ここで冒頭のエピソードと、味覚のつながりについて?と思われた方はとても鋭い。実は辛味は味覚に含まれず、痛覚に分類されるからである。わたしは不勉強ながら、この記事を書いていくなかで、冒頭のエピソードが今回の赤ちゃんの味覚の発達にふさわしくないことにだんだん気づいていたが、わたしが味覚の発達に関心をもって調べて記事にしようと感じたきっかけになったことは変わらないので、そのままにしておこうと思う(言い訳が長い笑)。

 

参考文献

  1. Witt, M. & Reutter, K. Scanning electron microscopical studies of developing gustatory papillae in humans. Chem. Senses 22, 601–612 (1997).
  2. 佐藤和夫. 赤ちゃんの五感の発達(触覚、聴覚、視覚、味覚、嗅覚). with NEO 33, 691–700 (2020).
  3. Bonny, J. M., Sinding, C. & Thomas-Danguin, T. Functional MRI and sensory perception of food. in Modern Magnetic Resonance 1629–1647 (Springer International Publishing, 2018). doi:10.1007/978-3-319-28388-3_132

 

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初出掲載: 2020年 2月 15日