タイトルの質問ですが、小児科のベテラン看護師さんでも我々小児科医にするようなご質問です。混沌を極めた子宮頸がんの歴史、政策に惑わされずに、お子さんにとって何がベストなのか考えてもらうきっかけになれば幸いです。
ポイント
・子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因
・HPV感染を防げば発がんを阻止できる
・HPVワクチンは性行為開始前の10代半ばで接種する必要がある
大切なのは新型コロナウイルスワクチンだけじゃない
新型コロナウイルス感染症の勢いが2021年4月現在でもまだまだ止まりません。先日私も1回目の予防接種を受けましたが、油断ならぬ状態が続いています。2回めの方が痛いというツイッター情報を真に受けて少し怖くなるのは、医療従事者でもそうでない方も私を含めて同じです。しかし防げる病気は防がなければ、もったいない。
先日、うれしいニュースがありました。これまで1%台であった子宮頸がんワクチンが約20%まで上昇したとのこと。厚生労働省の集計によって明らかになりました。
子宮頸がんって、どうしてなるの?
子宮頸がんは、子宮頸部に原発するがんで、その発生にヒトパピローマウイルス(HPV)感染が重要な役割を担っています。性行為などで子宮頚部の表皮や粘膜が擦れて小さな傷ができます。するとそこからHPVは侵入します。たとえコンドームを使用していたとしても感染予防には限界があります。HPVは感染した細胞に遺伝子を無理やり組み込んでしまい、その細胞の一部はひたすら増殖しはじめるようアクセルが踏まれます。それが、がんとなります。
20歳代女性の3割近くががん化のリスクが高いHPVに感染しているとする、疫学研究があります。つまり、HPV感染自体はありふれたイベントであり、感染から発がんに至る確率はごくわずかです。(したがって、子宮頸がんに罹患してしまった女性をふしだらであるとか決めつけてしまうのは正しくありません。)しかし、一旦がん化した細胞は放っておくと体中に広がってしまうため、そうなる前に早期発見と治療が大切です。
子宮頸がんワクチンを打たなかったどうなるか
子宮頸がんワクチンについては、我が国日本では辛い過去があります。2002年にHPVワクチンの有効性を示す研究結果が発表され、遅れること約7年後の2010年度からやっと我が国でもHPVワクチンが導入されました。しかし、その後の予防接種の副反応と思われる症状が多く報道されました。世論でも議論が過熱(あるいは混乱)し、厚生労働省からの積極的推奨が差し控えられるようになりました。その結果、2000年度以降生まれのHPVワクチン接種率は激減しました。それから約20年後の現在、我々は恐るべき自体に直面することとなります。
20代、30代の子宮頸がんが増えている
2020年9月に大阪大学産婦人科グループの研究によると、HPVワクチンが広く接種された1994~1999年度生まれの女子に比べて、2000年度以降の生まれの女子においては子宮頸がん罹患者数・死亡者の著しい増加が見込まれています(1)。つまり、HPVワクチン接種を控えた結果として子宮頸がんに苦しむ女性が極めて高い確率で増えるだろうとされています。
子宮頸がんは防げる病気
2018年に女優の高橋メアリージュンさんが子宮頸がんで治療したことを公表されました。非常に勇気の要る行動です。同じような経験をこれからの女の子たちにさせたくないという気持ちがそうさせたのでしょう。
新型コロナウイルス感染症の感染対策ももちろん大切です。一方で、先人たちが築いてくれた定期接種ワクチンも大切にして、防げる病気は防いで健康な体で人生を楽しんでもらいたいものです。私にも2人の娘がおり、定期接種可能な年齢になればHPVワクチンを接種してもらう予定です。
参考文献
1. Yagi, A. et al. Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine. Sci. Rep. 10, 15945 (2020).