あー、今日もあれ、できなかったあ。まあいっかあ、明日があるし。
そうして何ヶ月あるいは何年も、やらなければならないことを先延ばしにしている僕とあなたへ。
ポイント
- やらねばならぬことの先延ばしは、日常しばしば経験されADHD児に特徴的
- 報酬はその都度、魅力的なものを設定すると飽きない
- やりたいことより先に、やらねばならぬことを済ませてしまうようスケジュールを組む
ADHD(注意欠陥・多動性障害:attention deficit/ hyperactivity disorder)は、小児期に多くある精神疾患のひとつとされています。年齢に釣り合わない、不注意、多動、衝動性を3つの主徴とします。小児科、あるいは児童精神科ではDSM-Ⅴ(精神疾患の国際的な診断手引)に基づいて診断されます。アメリカでは学童の5%、日本では2.5%とされていますが、その数は増加の一途です。
じっとできない、大切なお便りをみせてくれない、忘れ物が多くて困る、片付けできない
どれもADHDのお子さんをもつご家族の訴えです。一方で、子どもはそういったできないことにより、周囲からの修正を迫られ、叱責され続けています。
振り返ると僕も、その特性を少なくとも持ち合わせています。小学生の頃からの友人には、「いつも何か忘れ物して、あ!忘れた!と言っていたよね。笑」と未だに言われます。だんだんと自分の特性に合わせて、to do listを作ったり、カレンダーに書き込んだりして忘れ物をなくす努力をして、なんとか社会人としての生活を保とうと、自分では結構努力しているつもりです。それでも、昨日も携帯電話を自宅に忘れて朝出かけてしまったりしているので、足りないのは間違いないようですが。
ADHDの病態は、実行機能の障害がこれまで示されてきました。要するに、計画して行動する、状況を把握して柔軟に対応するなどの機能を担う脳領域(右内側前頭前野、右下前頭回、左尾状核)の活動低下が報告されています。さらに、報酬回路の活動低下が示されています1。つまり、金銭などの報酬を受け取る際に得られる魅力的に感じる効果が持続しないことを示します。それがきっかけとなり、衝動的に代替行動を起こす、他の事に注意をそらして感覚を紛らわせるなどの先延ばしが生じることとなります。
主観的幸福度と先延ばし傾向に関する研究では、“やらねばならぬこと”を“やりたいこと”に優先して取り組む個人の方が、幸福度が高い傾向にあることが示されています2。一方で、幸福度が低い個人は、その逆で、“やりたいこと”を優先し“やらねばならぬこと”を先延ばしにしている傾向にありました。
つまり、ここまでの事実に基づいて整理すると、先延ばししがちなADHDの特性をもつ子ども(あるいは大人)は、報酬に飽きやすいのでその都度魅力的な報酬を設定する必要があること、“やらねばならぬこと”を“やりたいこと”に先んじて済ませてしまうことが大切であることがわかりました。
- McClure, S. M., Laibson, D. I., Loewenstein, G. & Cohen, J. D. Separate Neural Systems Value Immediate and Delayed Monetary Rewards. Science (80-. ). 306, 503–507 (2004).
- 事崎由佳、岩崎祥一. 主観的幸福度と先延ばし傾向. Japanese J. Appl. Psychol. 33, 140–141 (2008).
さいごに
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