とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

それ、脳脊髄液減少症ではないでしょうか?

朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感、不登校

それ、脳脊髄液減少症ではないことを確認したでしょうか?

 

ポイント

・朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感の症状がある高校生は2割ほどもいる

起立性調節障害は自律神経調節障害であり多彩な症状を示す

・頭痛やめまいなどの症状が生じる原因の一つとして、脳脊髄液減少症がある

 

 

はじめに

「2週間前にスケートリンクで練習中に壁に激突して、その翌日から立ったときにふらふらするんです。学校には行けていません。」

 

ある平日午前に、私の外来に来られた10歳の男の子です。プロスケーターを目指して、他県から父を残し、母と一緒に生活しています。逆単身赴任のような形です。その男の子は、プロスケーターを目指すスポーツマンらしく精悍な顔立ちと目つきをしています。しかし、どこか不安げな様子も備えています。診察室へは一人では歩けるけれどもふらつくため、母が支えながら入って来られました。その様子は明らかに普段とは異なる体の不調に、気持ちの整理がついていない、そんな印象を受けました。

 

脳脊髄液減少症とは?

結論から言うと、彼は脳脊髄液減少症でした。脳脊髄液が硬膜外に漏れてしまい、起立性頭痛などの多彩な症状を示す病気です。つまり、脳や脊髄を満たす液体の入れ物に穴が空きそこから液体が漏れ出すことが原因です。硬膜やくも膜に何らかの破綻が生じて髄液が漏出し減少する結果、坐位や立位で脳が引っ張られ、脳底部の疼痛感受組織が刺激されて発生する頭痛であり、破綻部位は胸椎または頸椎と胸椎の接合部が多いとされているます1

好発年齢は40歳前後。また女性と男性の比率は2:1と言われています。髄膜刺激症状と考えられる悪心・嘔吐を伴い、また頭蓋底部の脳神経が牽引・刺激されるために視機能障害(二重に見えるなど)や聴機能障害などを伴うこともあります。聴機能障害では耳鳴りやバランス感覚の乱れが発生します2。実際、彼は一人で立ち上がることが困難であり、ふらふらするため何かに掴まっていないといないと立てない状態でした。

原因は、検査や外傷後と、それ以外の場合に分けられます。検査とは、腰椎穿刺など硬膜に穴をあけて脳脊髄液を調べるものです。外傷とは、転んだり、くしゃみ、交通事故、スポーツを指します。それ以外には性行為での発症も知られており、自然発生もあります。

 

この脳脊髄液減少症は1988年の国際頭痛分類にすでに記載があり、疾患としては新しいものではありません。しかし、起立性調節障害のような症状を示す思春期児童において、見逃してはならない病気の一つとして広く知られているとは言えません。すでに、起立性調節障害として治療を開始されているお子さんのなかにも、脳脊髄液減少症により症状が生じている方も少なくないと考えます。なぜか。それは、検査可能な医療施設が非常に限られているためです。つまり、これまで多くの場合、検査されていなかったことが想像されます。

 

彼の場合は、県内に検査可能な医療施設が無く、ご両親・ご本人と相談して隣県の医療施設へ紹介し、まさに脳脊髄液減少症であったため治療し症状が軽快しました。治療方法は、①点滴、②硬膜外生食注入、③硬膜外ブラッドパッチです。①と②はいずれも漏れて減った脳脊髄液を外から補うことで症状を改善する目的です。③は2016年4月1日から保険適応となった方法であり、硬膜の穴が空いたところに血液を注入することで穴を塞いでしまおうというものです。血液が凝固すること、そこで化学炎症が起こることで線維化が起こり硬膜が塞がる仕組みです。彼の場合は①、②で効果はありましたが持続しないため③が行われて根本的な解決に至りました。その後、頭痛やめまいなどの症状はなくなり、再度プロスケーターを目指した練習が再開できているのは、私としても嬉しい限りです。

 

起立性調節障害との関係

彼のように、明らかな外傷歴があると、診断はそれほど困難ではありません(しかし、そもそもこの疾患自体がそれほど知られていないため、知らない小児科医は診断もできません)。問題となるのは、明らかな外傷歴がなく、頭痛やめまいなどの症状がある思春期児童です。彼らの多くは、起立性調節障害と診断され治療が開始されてしまいます。もちろんそれで良いケースがほとんであろうと考えられますが、大切なことは、脳脊髄液減少症に限らず治療可能な疾患を見逃さないことです。簡単に心の問題と決めつけないで、いつでも体の病気に注意を払う、そんな医師、特に小児科医に相談するといいと思います。

 

昨年のテレビドラマでも、この疾患が取り上げられたようです。もともとは、私も大好きなラジエーションハウスという漫画を題材としたドラマ。ドラマは見たことないのですが、漫画は医学生だったころに図書館でよく息抜きに読んでいました。

 

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  1. Wald JT, Diehn FE. Spontaneous intracranial hypotension. Appl Radiol. 2018;47(8):18-22.
  2. Schievink WI. Spontaneous Spinal Cerebrospinal Fluid and ongoing investigations in this area. Jama. 2006;295(19).

 

さいごに

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初出掲載: 2020年 2月 15日