ポイント
・根気強く目標を達成するには不安のコントロールが必要
・不安を司る腹側海馬の抑制はセロトニンによる
・運動による物理的刺激により脳神経細胞のセロトニン受容体が活性化される
文武両道は僕の好きな言葉の一つです。学問もスポーツもどちらも熱心に取り組むことで、人生をより豊かにしようという考えです。ただ、言葉で説明するのは簡単ですが、実際に取り組んでみると思うように行かないこと(あるいは時期)が必ずたくさんあって、それはそれは大変です。窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通ず。つまり、中国の古典「易経」では、どうにも行き詰まったら、何か変えたらうまくいくんじゃね?と言っております。ありがたいお言葉ですが、どう変えたら良いかを聞いているのですよ!と僕は思ってしまいます。学問にしても、スポーツにしても、あるいは仕事にしても、根気強く取り組んで目標を達成するにはどのような工夫が必要なのでしょうか?
答えは、適度に運動しましょう、です。スポーツの目標達成のためにはもちろん、他の分野においても根気強く目標に向かって取り組むためには、運動による脳への刺激が必要です。運動することによりもたらされる健康への効果はすでに御存知の通りでしょう。筋力がついたり、脂肪が減ったり。しかし、運動がもたらす根気への効果はあまり知られていません。2019年にNature Scienceで発表された論文によると、マウスがレバーを制限時間内に“根気強く”一定回数押せれば成功し餌がもらえる実験系において、“根気強く”できたマウスにおいては腹側海馬(不安を司る領域)での活動が抑制されていたことがわかりました1。また、その腹側海馬の抑制には神経伝達物質のひとつであるセロトニン(5-HT)がセロトニン受容体3Aに結合する必要があります。他の報告では、ジョギングをすると脳内セロトニン受容体が物理的刺激によって活性化されることがわかっています2。
死ぬ前に人が最も後悔することは、挑戦して失敗したことではなく、挑戦しなかったことです3。やりたいことをやらないで終わる人生が嫌なら、エイヤっとやる気をだして根気強く挑戦し続けましょう。心が折れそうになるまえに、適度な運動をルーティンに取り入れて、腹側海馬での不安をセロトニンの作用を利用して抑制してあげましょう。すると、気づけば文武両道になってるかも!
ワタクシゴトですが。書かなきゃいけない論文、やらなきゃいけない博士課程の研究、日々の小児科医としての仕事、夫として父としての家族の中での役割、どれもいまメチャクチャ中途半端で自分に腹が立つ日々を送っております。それはここ数ヶ月ランニングも筋トレもしてないからだと、この記事を書いていて気付きました。よっしゃ、この記事アップしたら走りに行こう!運動を日常に取り入れて、根気を鍛えよう!
- Yoshida, K., Drew, M. R., Mimura, M. & Tanaka, K. F. Serotonin-mediated inhibition of ventral hippocampus is required for sustained goal-directed behavior. Nat. Neurosci. (2019). doi:10.1038/s41593-019-0376-5
- Ryu, Y. et al. Mechanical Regulation Underlies Effects of Exercise on Serotonin-Induced Signaling in the Prefrontal Cortex Neurons. iScience(2020). doi:10.1016/j.isci.2020.100874
- Davidai, S. & Gilovich, T. The ideal road not taken: The self-discrepancies involved in people’s most enduring regrets. Emotion (2018). doi:10.1037/emo0000326
さいごに
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