「🐭ちゅー、ちゅー!(くすぐったい、くすぐったい)」
「😏良いではないか、良いではないか」
私には二人の娘がいる。リビングで私が疲れて寝ていることが良くあり、そういうときは「構ってよ!」と言わんばかりに、力強く体当たりを仕掛けてくる。2歳の娘はまだ小さいから思い切り踏んづけられても、そんなに痛くない。だけど、4歳の娘はまあまあ大きいので、それなりにダメージを食らう。「ううっ、」とひとしきり痛みを堪えてから、私は反撃に移る。
チョロチョロうごきまわる2人を捕まえて、絨毯の上に寝っ転がらせてやる。そして脇腹や首根っこのあたりを、コチョコチョー!としてやる。すると、2人は大きな笑い声をだして、くすぐる手を払いのけようとする。すかさず私は逃さまいと払いのけようとする手を避けて反対側の脇腹などをくすぐる。経験的に、あまりやり過ぎると泣いてしまうので、良いところでピタリと止めてやる。「お、くすぐり、終わったかな!?」という表情を見せて、まだ余裕そうならもう1クールくすぐりを加える。それで大体、彼女たちは満足して他の遊びに移るか、ママにお菓子や飲み物をおねだりしに行く。そうした一連を経て、私の平安なひとときが訪れる。
日頃から、思っていたが、どうしてくすぐられることを、子どもは好むのだろうか。首には大きな血管が幾つもあるし、お腹には大切な臓器が一杯詰まっていて、その部分は本当なら守らなければならない場所なのに。触られるとくすぐったくて、楽しい気持ちになる。どうしてだろう。
2016年のサイエンスに掲載された論文によると、体幹の感覚を司る脳の大脳皮質深層に対する刺激による感覚入力が、脳でくすぐりとして認識されるそうだ1。つまり、くすぐられることで感覚入力が起こり、脳においてドパミン神経が活性化され報酬回路を回し、快感として認識されるということだ2。実験で使われたのはラット。不安な環境ではくすぐっても笑い声を発しないことが分かっているため、ラットの気分が落ち着いた環境で実験は行われた。ラットを仰向けにして手袋をつけた実験者がくすぐるのだ3。体幹に対応する脳の体性感覚皮質での発火を調べると、浅い層をくすぐってもくすぐり効果はなく、深い層でのみくすぐりの効果が発揮された。また、くすぐり続けると、その神経発火の閾値は下がり、小さなくすぐりで笑うようになり、より多くの笑い声が確認された。
私を含め、読者の方々もびっくりされたであろうことは、くすぐりの科学についての研究者がいること、その成果が世界的な一流雑誌に掲載される事実だろう。最近私はYou Tubeで漫才や落語を見ることが多い。意図せずよく見ているということは、笑うことで私の脳でも報酬回路が刺激されるのだろう。神経科学が貢献するのは病気だけではない。子育てにも、笑いにも活かせる。お笑い芸人さんが、こうした一流科学雑誌の共著者になる日が来るかもしれないと想像することは楽しい。
くすぐられて笑うのは、ヒトだけではない。イヌ、ネコ、ブタ、イルカ、サメもくすぐり合って、笑うのだそうだ。生物の仕組みを利用したコニュニケーションの1つとして、ずっと昔からくすぐりは使われてきたのだろう。
それではみなさまも、こどもをくすぐるときには、こどもの大脳皮質第5a層での発火がバチバチとなりそれが報酬回路刺激となって笑う姿を、お楽しみください。やりすぎると泣いちゃうから、ほどほどに笑。
- Ishiyama, S. & Brecht, M. Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex. Science 354, 757–760 (2016).
- Brudzynski, S. M. Communication of Adult Rats by Ultrasonic Vocalization: Biological, Sociobiological, and Neuroscience Approaches. ILAR J. 50, 43–50 (2009).
- Cloutier, S., LaFollette, M. R., Gaskill, B. N., Panksepp, J. & Newberry, R. C. Tickling, a Technique for Inducing Positive Affect When Handling Rats. J. Vis. Exp. (2018). doi:10.3791/57190
さいごに
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