2019年3月11日、日本で初めて乳児用液体ミルク(以下、液体ミルク)「アイクレオ 赤ちゃんミルク」の全国販売がスタートしました。小児科医として、「液体ミルクってなに?」という疑問を母親から質問を受けることが最近多いです。消費者庁が発表したパンプレットに情報がよくまとまっていますのでご一読いただけると分かりやすいかと思います。大切なポイントが2つあります。
1つは、母乳の代替食品として使用できること。2つめは、乳児にとって母乳が最良であることです。簡単に準備できて、お湯を持ち運ばなくて済むのはお母さんにとってとても朗報です。しかし、どんなにミルクを工夫しようとも、ミルクはお母さんの母乳には敵いません。なぜでしょう?
それは、母乳が単に栄養、ビタミン、ミネラルを組み合わせたものではないからです。酵素、免疫因子、ホルモン、成長因子、その他未知の物質が含まれています。それらが赤ちゃんの成長、発達を助けてくれ、感染を防いでくれます。
母乳を与えられた赤ちゃんは、ミルクを与えられた赤ちゃんに比べて、肺炎・気管支炎、中耳炎、腎盂腎炎などの感染症が少ないことが知られています1。
母乳は特に赤ちゃんの脳の発達に良いことも研究で分かっております。母乳を与えられた赤ちゃんは、ミルクを与えられた赤ちゃんに比べて認知能力(言語、社会性、微細運動能力、対象に反応する能力)が高く、10歳になってからの学業成績も優秀でした2。ただ、この研究結果には議論も残っており、母乳栄養をおこなう母親の認知機能や社会経済のレベルがそもそも高く、それが赤ちゃんの脳の発達に良い影響をもたらしているかもしれないことです3。母乳栄養も、母親の認知機能もそれぞれ赤ちゃんにとっては大切なことですが、それぞれがもつ影響の大きさについては今後の研究が待たれます。
母乳が認識能力の発達を促すのは、どのような仕組みでしょうか。脳では、第3トリメスター(妊娠後期、25~38週)から生後18ヶ月まで、大規模な髄鞘形成とシナプス再編成がなされます。それに必要な栄養素が母乳に多く含まれるからです。その栄養素については回を改めます。
- Palmeira, P., Carneiro-Sampaio, M., Palmeira, P. & Carneiro-Sampaio, M. Immunology of breast milk. Rev. Assoc. Med. Bras.62, 584–593 (2016).
- Pollock, J. I. Long-term associations with infant feeding in a clinically advantaged population of babies. Dev. Med. Child Neurol.36, 429–40 (1994).
- Walfisch, A., Sermer, C., Cressman, A. & Koren, G. Breast milk and cognitive development-the role of confounders: A systematic review. BMJ Open3, e003259 (2013).
さいごに
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