とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

大学で子どもの脳について研究している、小児科医です。2児の父でもあります。日々子どもから学んだこと、研究から学んだことを多くの方に知っていただき、より良い子育てにつながればこれ以上の幸せはありません。

赤ちゃんが泣きやまない、どうしたらいい?

私が勤務する病院では、出産を控えた妊婦さんやそのパートナーに向けて、赤ちゃんについての特徴を一緒に勉強するパパ・ママスクールなるものがある。月に1度、10から20人の参加者に向けて、助産師さんや我々小児科医がお話させてもらう。朝から2時間くらい、一つの部屋に集まってもらう。大きなお腹を抱えてわざわざ来てもらうのだから、せっかくならためになるお話をしなければと、張り切る。先日、そのパパ・ママスクールをさせていただいたときに、赤ちゃんについて多くの質問を受けた。中でも、今回は赤ちゃんが泣くことに注目したい。

 

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赤ちゃんはなぜ泣くの?どうやったら泣き止むの?

 

昨今、虐待のニュースが全国で多く報道されている。虐待がある事実だけでも、どうしようもなく悲しい気持ちになるのに、その詳細が報道され始めると、小生は耐えられなくてテレビのチャンネルを変えてしまう。報道通りの行為が、抵抗できない子どもに加えられている様子を脳内で映像化される前に、情報源を絶つ。それが良いかどうかは別として、心が耐えられなくなるから。

少なくとも、自分が関わる子どもには虐待が、絶対ないように最善を尽くす。パパ・ママスクールで泣き止まない赤ちゃんの説明をするときには、それを念頭においていた。

 

まず、赤ちゃんがなぜ泣くのかについて考えてみたい。そのときに重要なことは、おっぱいあるいはミルクが飲めているかどうかだ。哺乳が悪ければ病気の可能性がある。熱が上がっていないか、うんちやおしっこが出ているかをみてあげる。哺乳が良ければ、落ち着いて原因を探す。哺乳で泣き止めば、お腹が空いていたのだろう。哺乳中に泣くときは、授乳量が多すぎるか少なすぎる、授乳のポジショニングが悪いなどが考えられる。おっぱいの匂いや味が嫌で泣くこともある。一度、妻と一緒に、昼に辛い担々麺を食べたときのこと。山椒がよく効いてうまい行きつけの油そば専門店だ。そのうまい担々麺を食べたあとで、当時生後半年くらいだった長女に授乳をすると、泣いて嫌がった。そのあとは嫌がらずに飲んでいたので、どうやらあの担々麺の辛味成分が母乳に移行したために嫌がっていたらしい。そんなこともある。そして、授乳後に泣くときには、おっぱいが足らないか、げっぷがうまくできていないか、消化するときの腸管蠕動運動の亢進によるものが考えられる。授乳後の泣き止まないことが続いて、嘔吐や下痢が続くときはミルクアレルギーの可能性もあるからそのときは小児科へ行くべきだろう。

 

さて、それらすべての原因を調べた上で、それでも泣き止まないことがある。これをコリック(colic)という1。赤ちゃんがよく泣く時期は、生後間もないころと乳児期後半の2つのピークがある。夕方に多く、発作的に泣き、痛そうな表情、あやしても泣き止まないために養育者の精神的ストレスを高める。赤ちゃんを激しく揺さぶってしまい、それが原因で脳障害をもたらす乳幼児揺さぶられ症候群(揺さぶりだけでなく、頭蓋内出血やけいれんなどによっても脳機能障害が起こるためshaken baby syndromeよりabusive head traumaという用語が現在一般的となった)が発生する頻度が、 コリックが生じやすい時期に少し遅れてピークがあることは、子どもをもつ親や小児科医にとって見過ごせない2アメリカの小児科医で育児専門家のHarvey Carp医師は、赤ちゃんを子宮の中の姿勢・環境に近づけてあげることが、赤ちゃんを泣き止ませるコツだという。つまり、①おくるみでくるんで体と手足を近づける、②横向きにする、③ゆらゆら揺らす、④「シーッ」(子宮内の音)という、⑤おしゃぶりさせることで、赤ちゃんの泣き止むスイッチが入るというものだ。泣き止まないとき、これらを試す価値はあるかもしれない。個人的な経験ではあるが、①のおくるみでくるんだような姿勢を取らせてあげることが、最も効果があったように思う。

 

核家族化がずいぶん進んでしまった日本では、両親の親(あかちゃんから見ると祖父母)から離れて暮らすケースは多い。育児相談するママ友がいれば良いが、相談する相手もおらず孤立してしまうことも多くあると思う。遠慮せず、地域の保健師さんや、生まれた病院の助産師さんなどに積極的にヘルプを求めてほしい。小児科に泣き止まないから連れてきましたと言って来ても、嫌な顔をする小児科医はいない。(万が一いたとしたら、その病院には二度と行かないほうがいい。)どうして泣いているのか、一緒に考えてもらえるはずだ。 

英国や米国では、2000年代初頭から、子どもの権利を保証するために第三者が子どもの意見を直接聴取できる制度があり、その考え方をアドボカシーという。行政から委託を受けたNPO法人などが主体となり、虐待を受けているあるいはその疑いのある子どもがそれ以上の被害を被らないためのシステムがある。日本でもその考え方が遅れていま浸透してきている。

余談ではあるが、母親の長い髪の毛が赤ちゃんに指に絡まってしまって、それが痛くて泣いていることもあり、それをターニケット症候群hair tourniquet syndrome という3。全身の観察は基本だが、手足の指先まで見落とさないことは難しい。

 

  1. Brazelton, T. B. Crying and colic. Infant Ment. Health J.(1990). doi:10.1002/1097-0355(199024)11:4<349::AID-IMHJ2280110406>3.0.CO;2-G
  2. Barr, R. G., Trent, R. B. & Cross, J. Age-related incidence curve of hospitalized Shaken Baby Syndrome cases: Convergent evidence for crying as a trigger to shaking. Child Abus. Negl.30, 7–16 (2006).
  3. RS, S. Toe tourniquet syndrome in association with maternal hair loss. Pediatrics(2003). doi:10.1542/peds.111.3.685