私の次女サクラは、いま9ヶ月だ。眠たくなると、「眠たいよう」と訴えるように泣く。眠たいのなら、寝ればいいのにと大人は思うが、そうもいかないのが赤ちゃん。そういうときは抱っこしてあげる。すると、泣き止むことが多い(泣き止まないこともしばしばあるが、そのときは別の原因があることが多い)。しかし、そういうときにベッドの上に置こうものなら、背中にセンサーが付いているかのように敏感に察知して、大泣きする。抱っこして、よんよんして、気持ちよく寝ていたのに、ベッドに置くとほら!「うえーん」なんてことも。
このように、抱っこすると泣き止み、置くと大泣き。こういう経験は小さな子どもと接したことのある方なら、どなたもあるのではないだろうか。赤ちゃんは、なぜ抱っこされるのが好きなのだろうか?その仕組みが分かれば、どんなに疲れていてもずっと抱っこできちゃう!なんてことはないかもしれないが、日々の抱っこに込める想いの一助になればと思う。
その答えは、脳の前庭系(vestibular system)にある。前庭系とは、体の平衡感覚を司る脳の感覚を支配する領域のことである。私達が重力を感じ、それに応じて自分の姿勢を変える、バランスをとるために必要な働きだ1。地球上の生物はすべて、自分の体が受ける重力の影響を考慮して生活しなければならなかったからだ2。この前庭系を刺激することで、赤ちゃんの運動能力が向上したことを示す報告がある3。前庭系を刺激する方法は、週に2日、回転椅子に座った研究者の膝の上で赤ちゃんを抱き、10回ほどクルクル回るというものだ。4週間ほど回転椅子でクルクル回った赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんよりも運動発達が優れていた。この報告は1977年のものであり40年以上前であが、現代の私達が学ぶことは多い。
なるほど、前庭系への刺激は赤ちゃんをあやす方法としても、発達を促す方法としても良いことが分かる。ただ、最後に一点だけ小児科医として注意して頂きたいことを付け加える。赤ちゃんの脳血管は大人のそれより脆い。よって、激しい揺さぶりは、脳や眼底の血管からの出血、つまり乳児揺さぶり症候群を招くかも知れない4。いくら前庭系の刺激が赤ちゃんにとって良いとはいえ、激しい頭部の揺さぶりなどは、かえって良くないどころか正常な発達を妨げるので、十分に注意されたし。
- Hirabayashi, S. ichi & Iwasaki, Y. Developmental perspective of sensory organization on postural control. Brain Dev.17,111–113 (1995).
- Simmons, D. D. Development of the inner ear efferent system across vertebrate species. Journal of Neurobiology(2002). doi:10.1002/neu.10130
- Clark, D. L., Kreutzberg, J. R. & Chee, F. K. Vestibular stimulation influence on motor development in infants. Science(1977). doi:10.1126/science.300899
- Parks, S. E., Annest, J. L., Hill, H. A. & Karch, D. L. Pediatric abusive head trauma: recommended definitions for public health surveillance and research. Atlanta, GA Centers Dis. Control Prev.2009,5–16 (2012).
さいごに
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