とある小児科医が伝えたい脳と心の育て方

みなさまのお子さまの潜在能力が、存分に引き出されますように!

子どもの “やる気” を親が引き出すには?

ポイント

・いわゆる“やる気”とは、内的動機づけのことを指す

・内的動機づけとは、それ自体が楽しいからやること。外的動機づけは、それ自体が楽しくなくてもお金や名声などの報酬のためにやること。

・内的動機づけを報酬により増強させようとすると、むしろ低下する。

 

報酬でやる気アップ、本当?

報酬をあげることが、子どものやる気を生み出す唯一の方法であることを疑わないお方は、ぜひ知っておいてほしい事実があります。報酬によりやる気が削がれてしまうこともある、ということです。

 

動機づけってなに?

いわゆるやる気とか、モチベーションと言われるものを指します。動機づけには大きく分けて2つあり、内的動機づけと外的動機づけです。内的動機づけとは、それ自体が楽しいからやることを指します。例えば、野球をやるのが楽しいからやる、そんな感じです。一方、外的動機づけとは、楽しいかどうかは別として、報酬や名声といった目的のためにやることを指します。例えば、お金がいっぱいほしいから野球をやる、そんな感じです。直感的にも分かるように、多くの場合は内的動機づけがより強力であり長期的に持続することが知られています(経営学の分野では内的動機づけに対して外的動機づけがシナジー効果をもたらすために必要なことが近年研究されているようです。これも面白い!)1

 

アンダーマイニング効果

子どもにとっては、やる気を削がれる実にありがた迷惑な親の行動が何かをハッキリさせちゃった研究があります。1973年にスタンフォード大学で行われた研究です2。3歳から6歳前の幼稚園に通う子どもたち69人に対して、自発的に描き始めた絵に報酬をあげるかどうかでグループ分けしました。具体的には以下の3つのグループに分けられました。①「絵が描けたら金メダルとリボンあげるよ」と伝えるグループ、②事前に報酬については伝えずに絵が描けた後に、金メダルとリボンをあげるグループ、③報酬については知らせず、絵が描けても報酬を与えないグループです。3つのグループで実際に子どもたちが絵を描き終えて、報酬を受け取ったりそうでなかったりした実験のあとに、その後絵を描くことに取り組んだ時間を調べると、なんと③が一番多く、①が一番少ないことがわかりました(図1)。自発的な絵を描くという取り組みが、報酬を与えた場合とそうでない場合で赤矢印のように低下がみられました。

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これは、重大な事実を示しています。つまり、絵を描くことで報酬を受け取った子どもたちの多くは、絵を描くことをやめてしまったかあるいはその時間が大幅に減ってしまったことを表しています。これをアンダーマイニング効果 undermining effect といいます。他の研究によって、報酬以外にもアンダーマイニング効果をもたらす要因として、競争・監視・締め切り設定・評価などが挙げられています。

つまり、子どもの絵を描く行為に対する内的動機づけが、報酬という外的動機づけにより低下してしまう。ということです。

 

現代社会で横行する金銭インセンティブの罠

ダニエル・ピンクさんのTEDをYouTubeで妻と一緒に見ました。その内容が、まさに内的動機づけvs外的動機づけ、自主性や成長vsアメとムチ、だったのですが、妻からその内容を噛み砕いて教えてもらうまで理解できませんでした。私の国語力のなさが原因だった側面もありますが、いま思い返せばそれくらい自分の中では常識であった事実がひっくり返ったことでもあるのではないかと考えています。

詳細はTEDでの動画に譲りますが、金銭インセンティブはむしろ社会での生産性を低下させるという内容でした。理解した後は、当てはまりそうな例をいくつか思いつきました。なるほど、だからFAで巨人にいった選手たちは、いっぱい金銭インセンティブをもらって練習しなくなって活躍しなくなるのかあ。とか、なるほど、そうならないために大学の教授はとても権威と責任があっても、一般的に金銭インセンティブはそれほど多くないのかあ。など、自分の中で勝手に納得がいくことが多くありました。

 

好きこそものの上手なれ

昔の人は、アンダーマイニング効果を経験的に知っていたのかも知れません。好きなことこそ上手になる。内的動機づけにまさる動機はないことを、簡単な言葉でよく言い当てているなあと思います。

 

  1. Anderson N, Potočnik K, Zhou J. Innovation and Creativity in Organizations: A State-of-the-Science Review, Prospective Commentary, and Guiding Framework. J Manage. 2014;40(5):1297-1333. doi:10.1177/0149206314527128
  2. Lepper MR, Greene D, Nisbett RE. Undermining children’s intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the “overjustification” hypothesis. J Pers Soc Psychol. 1973;28(1):129-137. doi:10.1037/h0035519

 

さいごに

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それ、脳脊髄液減少症ではないでしょうか?

朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感、不登校

それ、脳脊髄液減少症ではないことを確認したでしょうか?

 

ポイント

・朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感の症状がある高校生は2割ほどもいる

起立性調節障害は自律神経調節障害であり多彩な症状を示す

・頭痛やめまいなどの症状が生じる原因の一つとして、脳脊髄液減少症がある

 

 

はじめに

「2週間前にスケートリンクで練習中に壁に激突して、その翌日から立ったときにふらふらするんです。学校には行けていません。」

 

ある平日午前に、私の外来に来られた10歳の男の子です。プロスケーターを目指して、他県から父を残し、母と一緒に生活しています。逆単身赴任のような形です。その男の子は、プロスケーターを目指すスポーツマンらしく精悍な顔立ちと目つきをしています。しかし、どこか不安げな様子も備えています。診察室へは一人では歩けるけれどもふらつくため、母が支えながら入って来られました。その様子は明らかに普段とは異なる体の不調に、気持ちの整理がついていない、そんな印象を受けました。

 

脳脊髄液減少症とは?

結論から言うと、彼は脳脊髄液減少症でした。脳脊髄液が硬膜外に漏れてしまい、起立性頭痛などの多彩な症状を示す病気です。つまり、脳や脊髄を満たす液体の入れ物に穴が空きそこから液体が漏れ出すことが原因です。硬膜やくも膜に何らかの破綻が生じて髄液が漏出し減少する結果、坐位や立位で脳が引っ張られ、脳底部の疼痛感受組織が刺激されて発生する頭痛であり、破綻部位は胸椎または頸椎と胸椎の接合部が多いとされているます1

好発年齢は40歳前後。また女性と男性の比率は2:1と言われています。髄膜刺激症状と考えられる悪心・嘔吐を伴い、また頭蓋底部の脳神経が牽引・刺激されるために視機能障害(二重に見えるなど)や聴機能障害などを伴うこともあります。聴機能障害では耳鳴りやバランス感覚の乱れが発生します2。実際、彼は一人で立ち上がることが困難であり、ふらふらするため何かに掴まっていないといないと立てない状態でした。

原因は、検査や外傷後と、それ以外の場合に分けられます。検査とは、腰椎穿刺など硬膜に穴をあけて脳脊髄液を調べるものです。外傷とは、転んだり、くしゃみ、交通事故、スポーツを指します。それ以外には性行為での発症も知られており、自然発生もあります。

 

この脳脊髄液減少症は1988年の国際頭痛分類にすでに記載があり、疾患としては新しいものではありません。しかし、起立性調節障害のような症状を示す思春期児童において、見逃してはならない病気の一つとして広く知られているとは言えません。すでに、起立性調節障害として治療を開始されているお子さんのなかにも、脳脊髄液減少症により症状が生じている方も少なくないと考えます。なぜか。それは、検査可能な医療施設が非常に限られているためです。つまり、これまで多くの場合、検査されていなかったことが想像されます。

 

彼の場合は、県内に検査可能な医療施設が無く、ご両親・ご本人と相談して隣県の医療施設へ紹介し、まさに脳脊髄液減少症であったため治療し症状が軽快しました。治療方法は、①点滴、②硬膜外生食注入、③硬膜外ブラッドパッチです。①と②はいずれも漏れて減った脳脊髄液を外から補うことで症状を改善する目的です。③は2016年4月1日から保険適応となった方法であり、硬膜の穴が空いたところに血液を注入することで穴を塞いでしまおうというものです。血液が凝固すること、そこで化学炎症が起こることで線維化が起こり硬膜が塞がる仕組みです。彼の場合は①、②で効果はありましたが持続しないため③が行われて根本的な解決に至りました。その後、頭痛やめまいなどの症状はなくなり、再度プロスケーターを目指した練習が再開できているのは、私としても嬉しい限りです。

 

起立性調節障害との関係

彼のように、明らかな外傷歴があると、診断はそれほど困難ではありません(しかし、そもそもこの疾患自体がそれほど知られていないため、知らない小児科医は診断もできません)。問題となるのは、明らかな外傷歴がなく、頭痛やめまいなどの症状がある思春期児童です。彼らの多くは、起立性調節障害と診断され治療が開始されてしまいます。もちろんそれで良いケースがほとんであろうと考えられますが、大切なことは、脳脊髄液減少症に限らず治療可能な疾患を見逃さないことです。簡単に心の問題と決めつけないで、いつでも体の病気に注意を払う、そんな医師、特に小児科医に相談するといいと思います。

 

昨年のテレビドラマでも、この疾患が取り上げられたようです。もともとは、私も大好きなラジエーションハウスという漫画を題材としたドラマ。ドラマは見たことないのですが、漫画は医学生だったころに図書館でよく息抜きに読んでいました。

 

https://www.amazon.co.jp/ラジエーションハウス-1-ヤングジャンプコミックスDIGITAL-横幕智裕-ebook/dp/B01G1DV3UU

 

 

  1. Wald JT, Diehn FE. Spontaneous intracranial hypotension. Appl Radiol. 2018;47(8):18-22.
  2. Schievink WI. Spontaneous Spinal Cerebrospinal Fluid and ongoing investigations in this area. Jama. 2006;295(19).

 

さいごに

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どうやったら正しく叱れるでしょうか? 

ポイント

・アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで提唱された心理教育法

・6秒ルールで、怒る必要のあるときだけ上手に怒り、そうでないときには怒らずに済む

・怒りの感情をコントロールして、NGワード使わず自分を主語にアイ・メッセージで子どもと上手く向き合うことができる

 

はじめに

👩「〇〇ちゃんはいつも▲して!前から何度もだめって言ってるでしょう!ちゃんとしなさい!どうしてそんなことするの!」

 

👧「びえーーーん!」

 

👩「泣いても仕方ないでしょう!」

 

👧「びえーーーん!」

以上、両者一歩も譲らず結局最後の方は互いになんで怒ったのか怒られたのか分からないまま、強制的に保育園へ行くなど一日の次のイベントへ。。。

 

上記のやりとりは、どこの家庭でも見られる一般的な光景かと思います。もうすぐ5歳になる長女、3歳になった次女には何度そんなやりとりをしたことか知れません。生まれたばかりの長男は、もしかしたらこれからそんなやりとりが彼女たち以上に待っているかと思うと、今から気が滅入ります。お子さんを持つ親御さんならば、怒りの感情と子どもの叱り方は、子育てする中で最も難しい課題の一つと感じる方も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。

 

アンガーマネジメントとは?

子育てするときに限らず、怒りの感情は(残念ながら俗世を生きる我々にとって)日常的にありふれた感情の一つです。怒りは、仏教では人間の苦しみの根源である三毒(とん貪・しん瞋・ち痴)の中の一つとして捉えられています。貪;必要以上に求め貪ること、瞋:怒り、痴:無知、です。太古の昔から人間にとって毒であるとされてきたこと、それと戦って来た歴史があることがここからもお分かりかと思います。その怒りの感情を、科学的に分析して上手くお付き合いしましょう、というのがアンガーマネジメントです。アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで分野として確立され、さまざまな場面で活用されてきた方法です。実は医学の分野でもその怒りの感情との付き合い方は非常に大切です。リウマチなどの慢性疼痛を伴う病気の方は実に70%以上が常に怒りの感情を持っているとされる報告もあります1。小児科分野でも、都会の小学生が一番必要とする健康ニーズの一つにアンガーマネジメントが挙げられています2

 

つの丸

まずは怒りの感情が生じる仕組みについて知ることから始めましょう。人にはそれぞれ、こうあるべきだという理想があります。その理想に近いものは、自分と同じものとして容易に許容されます。下の図でいう中心の丸です。例えば、子どもが出かける前に自分から着替えを進んで済ませるときなどは、見ていて気持ちの良いものです。次に、その外の丸ですが、その理想から少し離れるけれど許容範囲内であることです。例えば、出かける前に子どもがご飯を少しゆっくりと食べているときなど、理想とは異なるけれど必要だから許せる場合などです。最後に一番外の丸、これは理想から大きく離れてしまった場合です。例えば、出かけるよと言っているのにおもちゃで遊び始めた場合などです。このように、あるべき姿から離れれば離れるほど我々の怒りの感情が湧き上がって来ます。

 

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日本アンガーマネジメント協会の改変図

 

6秒ルール

その怒りの感情は、湧き上がってから6秒間が一番強いとされます。我々がまずすべきであることは、この6秒間を怒りの感情に振り回されないことです。この6秒間で絶対にしてはいけないことは、反射的にNGワードを使うことです。NGワードとは、4つあります。

 

NGワード

  • 過去をさかのぼること(例えば「前から言ってるけど」、「何度も言うけど」、「これで何回目なの?」など。言われた方は納得しません。)
  • 責めること(例えば、「なんで」、「どうしてそうしないの」など。これで言われた相手は一気に殻に閉じこもります。そうなると相手の行動に変化は期待できません。)
  • 強い表現をつかうこと(例えば、「いつも」、「絶対に」、「毎回だよね」など。言われた相手はいつもじゃないのに、出来ているときもあるのに、と認めてもらえないことに意識が向いてしまいます。)
  • 程度の表現を使うこと(例えば、「しっかり」、「ちゃんと」、「普通はこうするでしょ」など。程度の表現は得てしてあいまいです。いつまでに、どれくらいなど、数値で伝えることが難しい場合もあるかと思いますが、できるだけ具体的にイラストなどで示してあげると良いでしょう)

 

アイ・メッセージ

「そんなこと気にしてなんかいられない!」

「忙しいのに、そんなの無理!」

 

その通りだと思います。私もNGワードを避けることは出来ないでしょう。子どもを相手にしたときに、あなた(You)を主語にして話すと、思わず上記のNGワードを連発してしまいそうです。そんなときは、わたし(I)を主語にして伝えてみるとどうでしょう。

「あなた(You)はどうして出かける前にちゃんと準備できないの!」

→「お母さん(I)はあなたが出かける準備ができないとお仕事に遅れてみんなに迷惑がかかってしまうの。時計の針がここになるまでに、着替えておいてね。」

相手が主語の場合と、自分が主語の場合とで、随分と印象が違ってくると思います。

 

さいごに

 今日から出来るアンガーマネジメント、その工夫をまとめました。まとめる過程でずいぶんと私も勉強になりました。一方でいきなり変われるか不安もあります。でも大丈夫。わたしたち親も、いきなり上手にはできません。子どもと一緒に成長すればよいのです。子どもが5歳なら、親としてもまだたかが5年です。一度は自分が子どもだったのだから、その時のことを思い出してどんな親が自分にとって良いか、想像しながら親も少しずつ成長すれば良いのです。いきなり上手にできる親はいません。

 ちなみに、子どもがやった行為に対して自分の怒りの感情が抑えきれない場合、まず子どもを抱きしめるようにしています。そして、しっかり眼をみつめて何がいけなかったのか、どうしてか、次からどうすれば良いかを順に二人で話します。子どもが怒られているという雰囲気だけを感じるのは、子どもにとっても親にとってもよくありません。次に同じ過ちを繰り返さないことが目的なのですから。

 

参考文献

  1. Okifuji A, Turk DC, Curran SL. Anger in chronic pain: Investigations of anger targets and intensity. J Psychosom Res. 1999;47(1):1-12. doi:10.1016/S0022-3999(99)00006-9
  2. Mansour ME, Kotagal UP, DeWitt TG, Rose B, Sherman SN. Urban elementary school personnel’s perceptions of student health and student health needs. Ambul Pediatr. 2002;2(2):127-131. doi:10.1367/1539-4409(2002)002<0127:uespsp>2.0.co;2

 

 

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赤ちゃんは別室睡眠の方が睡眠時間が長く、睡眠の質も良い

 

ポイント

・睡眠時間と質は別室睡眠の方が勝る

アメリカ小児科学会は1歳まで同室睡眠を推奨している

乳幼児突然死症候群は生後4ヶ月までに集中している

 

 

ヶ月の男の子、ひなくんは我が家で一番小さな家族です。彼は日中、多くの時間を寝て過ごします。起きている間は、ママにおっぱいをもらうか、家族の誰かに遊んでもらっています。みんな忙しいときは、一人でくるくるメリーを眺めながら、行ったり来たりする動物のぬいぐるみのゾウさんやウサギさんに話かけたりします。

 

にとって、夜の睡眠は大変重要な問題です。2歳と4歳のお姉ちゃんたちが、彼の睡眠を妨げることが多々あるからです。特に2歳のお姉ちゃんは寝相が悪く、ときどき彼の寝ているところにぶつかって行くこともあります。日中、お姉ちゃんたちが保育園にいっている間の彼の睡眠は、寝室を独り占めできて比較的長いことが多いようです。お腹がすくまで、静かに寝れる昼の睡眠は、彼にとってはおそらく夜よりも質が良いだろうと思います。

 

メリカでの研究で、赤ちゃんは別室睡眠の方が長く寝れるし睡眠の質が良いことが示されました1ペンシルベニア州の単一医療施設で、2012年〜2014年に20歳以上の母から生まれた2500g以上の279人の赤ちゃんとその母親について分析しました。

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FIGURE 1 Room-sharing group and nighttime sleep duration at 4, 9, 12, and 30 months of age.

グラフは睡眠時間を3つのグループで比較したものです。青が生後4ヶ月以降に別室睡眠の赤ちゃん、赤が生後9ヶ月以降に別室睡眠の赤ちゃん、緑がずっと同室睡眠の赤ちゃんです。このグラフからは2つのことが言えます。1つは、別室睡眠の青と赤のグループは緑に比べて睡眠時間が長いこと。2つめは、12ヶ月以降にその差が顕著になることです。

 

の研究の背景には文化的な違いも反映されています。つまり、アメリカでは歴史的に別室睡眠の習慣があること、体格の大きなアメリカ人の親による乳児の圧死事故が多いことが、日本との違いです。乳児の睡眠の様子が観察できるからという理由で、同室睡眠するママも日本では多いように思います。乳幼児突然死症候群は生後4ヶ月までに集中しており2、それ以降に別室睡眠を試してみるのは母親にとっても赤ちゃんにとっても良いことかもしれません。

 

  1. Paul IM, Hohman EE, Loken E, et al. Mother-Infant Room-Sharing and Sleep Outcomes in the INSIGHT Study. Pediatrics. 2017;140(1). doi:10.1542/peds.2017-0122
  2. Margolis LH. A critical review of studies of newborn discharge timing. Clin Pediatr (Phila). 1995;34(12):626-634. doi:10.1177/000992289503401201

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ビスフェノールAは脳の発達に悪い、ではマイクロプラスチックは?

乳瓶で授乳される乳児は、1日あたり100万個以上のマイクロプラスチック粒子を摂取している可能性があることがわかりました1。マイクロプラスチックとは、プラスティック片が破砕されてできる微小な粒子のことです。プラスティックは熱に弱く、哺乳瓶の煮沸消毒や暖かいミルクを入れた際にマイクロプラスチックとして溶出するようです。マイクロプラスチックの乳児への暴露を防ぐには、煮沸消毒したあとに冷水ですすぐ、調乳の際には他の容器で作ってから哺乳瓶に移す、などが有効だそう。

 

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生後1年の乳児のマイクロプラスチック粒子の推定摂取量を示した図(2020年10月19日作成)。(c)JOHN SAEKI, LAURENCE CHU / AFP

イクロプラスチックは、食料や飲み物を保存するために便利な、ポリプロピンなどのいわゆる普通のプラスティック製品から生まれます。マイクロプラスチックによる健康への影響はまだまだ未解明であり、今後の研究が待たれます。

 

スフェノールA型エポキシ樹脂は、マイクロプラスチックと同じく、世界中で環境汚染が最も危惧される物質の一つです。このビスフェノールA型エポキシ樹脂は、コーヒー缶やトマト缶などの主に缶製品の内側に塗装されることで工業利用されています。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、岡山大学の研究グループから脳神経発達および行動に異常を来すことをマウスで証明する報告がありました2。したがって、マイクロプラスチックについても同じく子どもの健康、特に脳神経発達に関する報告が今後あるはずです。WHOは、飲料水に含まれるマイクロプラスチックは現時点で人体に危険性はないと発表していますが、近い将来にその健康への悪い影響が明らかになるとその方針も変わらざるを得ないでしょう。

 

なみに、ペットボトルはポリプロピレンではなくポリエチレンからできています。どちらもいわゆるプラスティック製品の主な材料です。今回の研究発表ではポリプロピレンに焦点が当てられていますが、それは合成樹脂の世界生産量が1位だから。ポリエチレンは2位であり、マイクロプラスチックの原料であることは変わりなく、健康への影響も同じように懸念されます。ポリプロピレンを分解すると、ポリ(高分子の)プロピレン(C3H6)となり、つまりはプロピレンっていう構造がいっぱい繋がったものということです。

 

  1. Li D, Shi Y, Yang L, et al. Microplastic release from the degradation of polypropylene feeding bottles during infant formula preparation. Nat Food. October 2020:1-9. doi:10.1038/s43016-020-00171-y
  2. Miyazaki I, Kikuoka R, Isooka N, et al. Effects of maternal bisphenol A diglycidyl ether exposure during gestation and lactation on behavior and brain development of the offspring. Food Chem Toxicol. 2020;138. doi:10.1016/j.fct.2020.111235

さいごに

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気になる発達障害、いつ受診すべきか?

 

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アメリカでは4〜17歳の子どもの11%がADHDと診断され、6%が薬で治療、その数は増え続けていると報告されている。


ポイント

発達障害は3つの疾患あるいはその組み合わせからなる

・3つとは、自閉症スペクトラム、注意欠陥多動障害、学習障害

・疑うタイミングの目安はそれぞれ、自閉症スペクトラムは1歳半検診、注意欠陥多動障害と学習障害は就学後

 

我が家の長女は4歳。習い事はバレエとピアノ、ときどきパパとプールにいって泳ぎ方を練習、とても活動的です。一緒に買物に行くと、2歳の妹はまだ小さいから、粒の大きいマスカットは食べにくいだろうと、粒の小さなデラウェアを選ぶ妹思いな面もあります。ところが、気になる点もいくつかあります。彼女はいろいろなことに興味があるからか、おもちゃが出しっぱなしのこともしばしば。なにかに集中すると、周りの問いかけにも反応しなくなります。立っていても座っていても、常に体のどこかを動かしてじっとしていません。心配した妻がネットで検索して、発達障害の症状がいっぱい当てはまったので、「受診したほうが良い?」と私に質問されました。世のお母様方も、同じように愛する我が子の発達について気にることもあるのではないでしょうか。いつ受診したら良いのか、その目安はあまり知られてません。まずは、発達障害とはなにか知ることが大切です。その上で、受診する適切なタイミングについて記したいと思います。

 

 まず、発達障害とは、3つの疾患あるいはその組み合わせからなります。

3つのうち、1つだけのお子さんもおられるし、2つあるいは3つとも合併することもあります。子どもの専門家である小児科医でも、学校の先生でも、発達障害がこの3つから構成されることを知らない方も多いです。それくらい、発達障害という言葉が先行してしまい、その実態については知られていないことが多い分野であると言いかえることができます。3つの疾患それぞれについて、症状と疑うタイミングについて各論します。

 

多くは1歳半健診で言語発達が遅れていることで指摘されます。首の座りや寝返り、独り歩きなどの運動発達の遅れがないのに、発語がないときはASDやLDが疑われます。1歳半健診でASDを疑う場合、CHATというチェックリストを用いて大まかな目安とします1。Check-list for Autism in Toddlersの略です。Toddlersとは、よちよち歩き始めた幼児のことを指します。CHATは、3つの行為ができるかどうかで判定します。①指差し、②同じ目線、③ごっこ遊びです。①の指差しは、例えば子どもが絵本の絵を指差すことです。ASDの場合はできません。②同じ目線とは、例えばお母さんが何かを見たときにそれに視線を向けることができるかどうかでうす。ASDの場合できません。③ごっこ遊びは、物を代用したりあたかも存在するかのように振る舞う遊びであり、ASDではできません。3つとも出来ない場合はASDが疑われるため2次健診に繋げる必要があります。ただ、CHATでASDを疑れたからといって必ずASDであるとは限りません。

  • 注意欠陥多動障害 attention deficit hyperactivity disorder, ADHD

一般的に2,3歳ごろからの落ち着きのなさやカンシャクで気づかれることが多いです。とにかくじっとできない、注意が散漫、話しかけても聞いてないなど。突発的な行動、怒りを顕にすることもしばしば。このような症状が見られた場合はADHDの可能性もありますが、基本的にADHDの診断は就学以降です。それまでは年齢相当の多動であることも多いので、十分な経過観察が良いでしょう。保育園や幼稚園で、お友達を傷つけてしまうなどの過剰な行動が目立つ場合には就学を待たず専門医による2次健診を受ける必要があるでしょう。

  • 学習障害 learning disorder or leaning disability, 以下LD

LDは一般的に、就学してから気づかれることが多いです。字が読めない、書けないといった場合には、1歳半検診や3歳児健診で既に言語発達が遅れている場合が多いため、知的障害ではないかどうか、発達検査をする必要があります。LDは診断が遅れるとその後の子どもの人生に大きな影響を及ぼします。字が読めない・書けない、勉強ができない、いじめられる、学校が嫌になる、不登校になる、生活習慣病のリスクが増える、就労が困難になるといった望ましくないルートをたどることも少なくありません。幼児のときに言い間違いや、しりとり遊びがなかなかできないなどの言語発達に遅れがある場合もありますが、実際には就学してから症状が明らかになるケースが多いです。

 

これまで、発達障害の3つの疾患について症状と疑うタイミングについて述べました。診断と治療については割愛しましたが、それらについても改めて詳細したいと思います。

 

私の尊敬する小児科医、お茶の水女子大教授の榊原洋一先生が、発達障害の現状について、ブログでこう述べておられます。

「判断が早すぎることは良くないこともある。」

https://www.blog.crn.or.jp/chief2/01/71.html

 

発達障害の検査、診断、治療が目の前のお子さんにとって本当に必要なことなのか、過剰ではないのかを考える必要性を説いておられます。小児科医の仕事は、子どもに必要のない検査や治療、親の心配と苦労をいたずらに増やすことでない。その子に本当に必要なことはなんなのか、時期を逃さず早まらず、適切な発達を促すために必要なことをするのが、小児科医の仕事。そう戒めを受けた気持ちです。

 

ところで4歳の我が長女について。彼女はいまADHDを疑うチェックリストはある程度満たしてしまいますが、年齢相当の多動であると現時点では結論づけて経過観察を行うこととしました。よほどの悪化がなければ、受診はしないつもりです。妻が私に内緒で受診してしまえば話は別ですが笑。また、就学後の様子をみて方針を再度検討しようと思います。

 

  1. Baron-Cohen S, Cox A, Baird G, et al. Psychological markers in the detection of autism in infancy in a large population. Br J Psychiatry. 1996;168(2):158-163. doi:10.1192/bjp.168.2.158

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お盆におむつかぶれ

「下痢してて、おむつかぶれがひどいんです。」

生後3ヶ月の健康そうにぷくぷくした赤ちゃんを抱いたお母さんは、不安そうな面持ちでお盆の真っ只中に夜間の小児科救急外来を受診しました。

 

私の住む地方政令指定都市では、二次救急の他に輪番制の市民病院での小児科救急外来が設置されています。私は、お盆の真っ只中に夜間当番の役割を仰せつかっておりました。幸い子どもたちは健康にお盆を楽しんでいたのかその日は3人しか受診せずみな軽症だったのですが、このおむつかぶれの男の子は印象に残っているので記録しておこうと思います。

 

最近のおむつやおしり拭きは性能がよく、一昔より前より赤ちゃんの陰部の状態が良いことが多いとは、ベテラン看護師さん曰く。ただ、下痢がひどいとその限りではありません。下痢は多くの場合においてアルカリ性であり、皮膚のバリア機能を壊します[1]。ももの薄皮ほど繊細なあかちゃんのおしりを下痢から守るためには、下痢したら早めにおむつを変えてあげること、おしりを拭くときになるべく優しく拭き取ることが大切です。その赤ちゃんは一見健康そうですが、診察するときにおしりを見せてもらうと、おしり全体が赤く、一部は皮膚が剥がれて真皮が見えています。ほとんど火傷と同じ状態でした。伺えば初めてのお子さんとのこと。パパもママもはじめから親業が上手くはいきません。失敗を繰り返しながら子どもとともに成長します。数日前に近医で亜鉛華軟膏が処方されておりましたが、それをきれいに拭き取ろうとしておしりの皮膚にダメージがあったようです。亜鉛華軟膏とは、赤ちゃんのおむつかぶれや湿疹によく使われる薬。亜鉛により皮膚が収斂(引き締まる)し皮膚を保護するため、小児科医にとっては頼れるお薬です。ただ、このお薬は炎症を抑える作用はおだやかなので軽症の場合のみ有効です。目の前の赤ちゃんのおむつかぶれは、どう見ても軽症ではなく中等症から重症です。幸い細菌による二次感染には陥っていないようでしたので、次なる一手としてエキザルベを処方しました。エキザルベとは死菌浮遊液とステロイドの合剤です。死菌浮遊液とは、つまり菌の死骸です[2]

 

「ええ!?菌の死骸をただれた皮膚に塗るの!?」

多くのお母さんはそう反応します。このお母さんもそうでした。初めてこの治療法を知った私もそう反応しました。菌、それもその死骸なんて不潔な気がします。しかし事実は異なります。菌の死骸は、皮膚に塗られることでその場所に白血球(菌やウイルスなどの外敵と戦う細胞)が集まり感染を防ぎ、傷を早く治してくれます。エキザルベの塗布と、おむつ交換のときはぬるま湯でおしりを流してあげるよう説明しました。お盆のおむつかぶれはこれにて一件落着、お母さんは薬をもって帰っていきました。

 

おむつかぶれのように見えて、実はカビによる感染症のこともあります。そのときは股や足のシワの部分に一致して皮膚が赤くなったりただれることが多く、上記塗り薬で良くならずむしろ悪化することもあるので注意が必要です。

 

ちなみに、エキザルベ Eksalb はドイツ語のEkzem(湿疹)と、Salbe(軟膏)に由来します。どんなお薬の名称もその由来は、インタビューフォームという取り扱い説明書的な文書に必ず書いてあります。インタビューフォームは、添付文書よりさらに詳しい文書であり、読むと開発の経緯なども書かれていて物語として面白いです。これまたちなみにちなみにですが、商品名ラシックス lasix(一般名フロセミド)はダジャレのようですが、利尿効果が6時間続くため last(続く)+six(6)に由来します。

 

[1] おむつかぶれ(日本皮膚科学会) https://www.dermatol.or.jp/qa/qa22/q14.html

[2] エキザルベ製品情報(マルホ) https://www.maruho.co.jp/medical/products/eksalb/index.html

 

さいごに

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初出掲載: 2020年 2月 15日