ポイント
・いわゆる“やる気”とは、内的動機づけのことを指す
・内的動機づけとは、それ自体が楽しいからやること。外的動機づけは、それ自体が楽しくなくてもお金や名声などの報酬のためにやること。
・内的動機づけを報酬により増強させようとすると、むしろ低下する。
報酬でやる気アップ、本当?
報酬をあげることが、子どものやる気を生み出す唯一の方法であることを疑わないお方は、ぜひ知っておいてほしい事実があります。報酬によりやる気が削がれてしまうこともある、ということです。
動機づけってなに?
いわゆるやる気とか、モチベーションと言われるものを指します。動機づけには大きく分けて2つあり、内的動機づけと外的動機づけです。内的動機づけとは、それ自体が楽しいからやることを指します。例えば、野球をやるのが楽しいからやる、そんな感じです。一方、外的動機づけとは、楽しいかどうかは別として、報酬や名声といった目的のためにやることを指します。例えば、お金がいっぱいほしいから野球をやる、そんな感じです。直感的にも分かるように、多くの場合は内的動機づけがより強力であり長期的に持続することが知られています(経営学の分野では内的動機づけに対して外的動機づけがシナジー効果をもたらすために必要なことが近年研究されているようです。これも面白い!)1。
アンダーマイニング効果
子どもにとっては、やる気を削がれる実にありがた迷惑な親の行動が何かをハッキリさせちゃった研究があります。1973年にスタンフォード大学で行われた研究です2。3歳から6歳前の幼稚園に通う子どもたち69人に対して、自発的に描き始めた絵に報酬をあげるかどうかでグループ分けしました。具体的には以下の3つのグループに分けられました。①「絵が描けたら金メダルとリボンあげるよ」と伝えるグループ、②事前に報酬については伝えずに絵が描けた後に、金メダルとリボンをあげるグループ、③報酬については知らせず、絵が描けても報酬を与えないグループです。3つのグループで実際に子どもたちが絵を描き終えて、報酬を受け取ったりそうでなかったりした実験のあとに、その後絵を描くことに取り組んだ時間を調べると、なんと③が一番多く、①が一番少ないことがわかりました(図1)。自発的な絵を描くという取り組みが、報酬を与えた場合とそうでない場合で赤矢印のように低下がみられました。
これは、重大な事実を示しています。つまり、絵を描くことで報酬を受け取った子どもたちの多くは、絵を描くことをやめてしまったかあるいはその時間が大幅に減ってしまったことを表しています。これをアンダーマイニング効果 undermining effect といいます。他の研究によって、報酬以外にもアンダーマイニング効果をもたらす要因として、競争・監視・締め切り設定・評価などが挙げられています。
つまり、子どもの絵を描く行為に対する内的動機づけが、報酬という外的動機づけにより低下してしまう。ということです。
ダニエル・ピンクさんのTEDをYouTubeで妻と一緒に見ました。その内容が、まさに内的動機づけvs外的動機づけ、自主性や成長vsアメとムチ、だったのですが、妻からその内容を噛み砕いて教えてもらうまで理解できませんでした。私の国語力のなさが原因だった側面もありますが、いま思い返せばそれくらい自分の中では常識であった事実がひっくり返ったことでもあるのではないかと考えています。
詳細はTEDでの動画に譲りますが、金銭インセンティブはむしろ社会での生産性を低下させるという内容でした。理解した後は、当てはまりそうな例をいくつか思いつきました。なるほど、だからFAで巨人にいった選手たちは、いっぱい金銭インセンティブをもらって練習しなくなって活躍しなくなるのかあ。とか、なるほど、そうならないために大学の教授はとても権威と責任があっても、一般的に金銭インセンティブはそれほど多くないのかあ。など、自分の中で勝手に納得がいくことが多くありました。
好きこそものの上手なれ
昔の人は、アンダーマイニング効果を経験的に知っていたのかも知れません。好きなことこそ上手になる。内的動機づけにまさる動機はないことを、簡単な言葉でよく言い当てているなあと思います。
- Anderson N, Potočnik K, Zhou J. Innovation and Creativity in Organizations: A State-of-the-Science Review, Prospective Commentary, and Guiding Framework. J Manage. 2014;40(5):1297-1333. doi:10.1177/0149206314527128
- Lepper MR, Greene D, Nisbett RE. Undermining children’s intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the “overjustification” hypothesis. J Pers Soc Psychol. 1973;28(1):129-137. doi:10.1037/h0035519
さいごに
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